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86 マガメガの価値



 狙い通りにマガメガを倒すことができた。

 穴から這い出た俺たちはその死体を確認する。

 よし、ちゃんと倒せている。


「うえぇ」


 スラーナが地面に転がるマガメガの死体にドン引きしている。

 けど、本番はここからだったりする。

 茎の部分が折れて目玉が地面に落ちている。

 途中で気に当たったりして、膜が割れて体液がこぼれ出ている。

 生きている時はそこらの木に当たっても傷一つもつかないのに、死んだ途端に脆くなるのは不思議だ。

 魔力の影響なのかな?


 と思いながら、念の為にちゃんとトドメを刺すために心臓にもう一突きしておく。

 動かないな?

 よし。


「さっさと行きましょう」

「え?」

「なに言ってんの?」


 すぐにこの場を去ろうとするスラーナにクトラとタレアが不思議そうな顔をする。


「ご飯の時間ですよ?」

「こんないい獲物を狩ったのに、食べないわけ?」

「は? はああああああ⁉︎」


 信じられないという顔でスラーナが叫び、そして俺を見た。

 うん、ごめん。

 二人は間違えてないよ。


「ちょうどいい休憩時間だし、保存食を消費するよりはいいし、なにより美味しいよ」

「はっ? これが?」

「まぁ、無難なところ食べてみなって」


 すでにクトラとタレアは料理の準備を始めている。

 タレアが枯れ木を集め、クトラは皮鍋を取り出して、そこに水を注いでいる。

 皮鍋は火に強い獣の皮で作った大きめの袋なんだけど、金属の鍋ほどじゃないけど熱の伝導率がよいので、折りたたみできる鍋として便利だ。


「え? ほんとに? 本当に⁉︎」


 常識がぶっ壊れようとしているスラーナはとりあえず置いておくとして、マガメガの足を食べやすいように切っていく。

 関節の部分で切り分けていき、石とかマガメガが倒した木なんかを引っ張ってきて焼き台を作っていく。

 タレアの集めた薪に火を付けて、足を焼く。


「目と内臓はどうする?」

「さすがに商店街に売りに行く余裕はないから、捨てよう」

「もったいない」


 うん、もったいない。

 眼球の中の体液とか、胴体の内臓とか、オババ様が薬の材料として買ってくれるんだけどね。


「あら、それならタレアが持っていったら?」

「そんなことするわけないだろ!」


 二人のやりとりは放置して、目玉と胴体を離れたところに引っ張っていく。

 すでにカバネマシラが戻ってきていて、残り物を狙っている。

 マガメガを倒した俺たちを襲ってくることはないだろうけど、油断してると荷物を盗んだりとかするので側にいて欲しい連中でもない。

 これ食べて、満足してくれたらいいんだけど。

 戻ってきた時にはすでにいい匂いがしてきていた。


「そろそろ食べ頃だ」


 沸かしたお湯でお茶もできている。

 茶葉はクトラが持ち込んでいる。

 焦げた足の殻の部分を手ごろな石で割って、湯気を上げる中身を引き摺り出す。


 熱々の白い身を、お湯で洗った大きな葉で包んでみんなに配っていく。

 もちろん、スラーナにも。


「え? ほんとに食べるの?」

「この葉も食べられるけど、好み次第だから身だけでもいいよ」

「いや、そういう問題じゃなくて」

「大丈夫だって」


 先に食べて見せる。

 うん、美味しい。

 や、けっこう美味しいのよ。

 ダンジョンの街でいろんな料理を食べたし、あっちの方が料理の工夫がすごいし、味の種類も圧倒的に多いんだけど、これも負けないぐらいに美味しい。

 クトラとタレアも同じように食べていく。


「う、ええい」


 スラーナが覚悟を決めて身を食べた。


「……あっ、美味しい」


 しばらく目を閉じてもぐもぐしていたスラーナだけど、そう呟くと二口目に言った。


「でしょ?」

「カニっぽい? へぇ、すごい!」


 食べられると知るとスラーナの食べる速度が上がった。

 だけど、俺たちは別のことが気になった。


「カニ?」

「あんなの食べるのか?」

「え? カニは美味しいでしょ? これと似たような味よ」

「いや、カニよ?」

「それはないって」

「え?」

「え?」

「ああ、これもしかして……」


 俺たちの知っているカニと、スラーナの言っているカニは違うかもしれないんじゃないかな?

 詳しく聞いてみると、やっぱり違った。


「なんだ甲羅虫のことね」

「あれはちまちましすぎてうちは無理」

「潰して汁にするかなぁ」


 タレアが首を振り、俺は村で作る料理のことを話した。

 そしてクトラは。


「甲羅虫かぁ」


 遠くを見ながらマガメガの身を食べる。


「美味しいわよね、あれ」


 好物なので、思い出している。

 よだれ、出てるよ?


「あんたら一族であれ好きよね」

「海の底にはもっと大きいのがいるのよ。あれならたしかに、焼いたらこれと同じ味になるかも」


 地上に上がってくるような甲羅虫は大きくても掌ぐらいの大きさだけど、海の中にはもっとすごいのがいるらしい。


「好物なら、うちは跳ねネズミが好きかな。見つけると追いかけたくなる」

「そしてそのまま生で」

「そうそう……って、うるせぇ」

「ほほほ、お下品」

「さっきの甲羅虫だって、お前ら生でバリバリいくだろうが」

「あ〜あ〜聞こえな〜い」

「生食できるんだから、二人とも胃が丈夫だよね」

「……え? そういう問題なの?」


 そんなこんなのやりとりをしている間にマガメガの足は全部なくなったので、俺たちは出発するのだった。

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