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87 伏兵



 焼きマガメガを堪能し、今日はこのままここで一泊することにした。

 焚き火をまた作るのは面倒だしね。


「追いかけてなくていいの?」

「俺だけならもう少し急いだ方がいいかもだけど、タレアがいるから」

「タレアが?」

「追跡はうちに任せな!」

「……ああ」


 説明していないけど、スラーナが納得した。

 狩りが得意ってわかるものなのかな?


「うちの風があいつらの臭いを捕まえているからね。余裕」

「風ね、ふうん」


 あ、ちょっと気にしてる。

 風を使うって部分でスラーナとタレアは被っているからね。

 やっぱり気にしていたのかな?

 ライバル意識的な?


「そんなに気にすることでもないわよ」


 スラーナの反応に気づいたのか、クトラが言った。


「風を使う種族ってけっこういるから、そんなに珍しくもないの」


 たしかにそうかも?

 風を使う種族はたしかにけっこういる。

 タレアがいましているように獲物の臭いを追いかけるのに使ったり、逆にその臭いを隠すために使ったり、遠くの獲物を狩るのに使ったり……うん、けっこういる。


「狩猟が主体の種族はけっこうそうだね」

「そうなの? いや、それって……慰め?」


 スラーナの言葉に、クトラがキョトンとして首を傾げた。


「慰め? いや、そんなのではなくて……スラーナはけっこう、地上で暮らすのに向いているわねという話よ」

「え? あ、そう? ありがとう」


 そう言ってから、スラーナが固まる。

 考えてる?


「あれ? これって褒められてる?」


 褒めているのとは、ちょっと違うかなぁ。

 クトラはたぶん、事実を言っただけだと思う。


「スラーナはうちと一緒で狩りして暮らす派だな!」

「え? ちょっと待って、いや、人間ってどっちかというと農耕系よね? ……いや、ダンジョンを攻めるのが農耕かというと疑問なんだけど? あれ? なにか違う! なにか違うけど言語化できない!」


 スラーナは混乱していた。

 そんな彼女の様子に二人が笑う。

 この三人も仲良しになったなぁ。

 いいことだ。

 ……いいことだよね?


 そんな感じで、夜も更けていく。

 見張の順番を決めて、眠っていく。

 二人一組にするつもりだったんだけど、見張一人を順番ですることになった。

 俺、スラーナ、タレア、クトラの順になった。

 時間の確認はディアナについている時計を使う。


 寝る場所でなにか喧嘩していたので、俺は少し離れたところで寝ることにする。

 うん、これなら喧嘩は起きないんだ。

 不思議。


 そして、夜は平和に過ぎていったと思っていたんだけど……。


 自分の番が終わってから眠っていると、事件が起きた。


「ぎゃっ!」


 悲鳴?


「タレア?」


 だけどすぐに、その声がタレアのものだと分かった。


「な、なに?」

「なんの騒ぎ?」


 近くでスラーナとクトラが寝ている。

 やっぱり声はタレアだ。

 まだ朝ではない時間。

 タレアが側にいないのはおかしい。

 いくら声をかけても返事がないのだから、異変が起きたのは明白となった。


「タレアが攫われた?」


 血の臭いはしない。

 襲われたのかもしれないけれど、命を狙われたのではないみたいだし、だとすると攫われたというのが正しくなってくる。

 でも、これって……。


「ああ、もしかして、また?」


 クトラもそう思ったみたいだ。


「また? またって?」

「ええとね、まだ確定じゃないけど、結婚のために攫われたんじゃないかって」

「結婚?」

「私からすると信じられないんだけど、タレアって似たような種族からするとけっこうな美人らしいのよね」

「え? あ、うん。タレアは可愛いと思うわよ。ねぇ、タケル?」


 その話題は投げないで欲しかったよ、スラーナ。


「ソウダネ。クトラモカワイイヨ」

「うん。まぁ、可愛いかもしれないわね」


 俺をじっと見ていたクトラも、満足した様子で頷く。


「……話を戻すけど、それで色々と求婚されているみたいなんだけど、タレアはそれに靡かないのよね。近隣の種族はもう諦めたと思っていたんだけど」

「まだ、いたみたいだね」


 しかも、俺たちが接近に気付かないぐらいの猛者だ。


「ならもしかして、このままだとタレアは強引に結婚させられるってこと?」

「そうなるかも」

「それなら、急いで追いかけないと!」

「そうなんだけど、まずはどっちに逃げたのかを確認しないと」

「うっ、そうね」


 見当違いの方向に移動して、逆に離れるとかなったら目も当てられない。

 まずは慎重に、地面を確認。

 マガメガを焼いた大きな焚き火の側、まだ火が残っている場所がある。

 みんな、あそこで火の番をしながら時間を潰していた。

 なら、タレアもそうしていたはずで、そこを襲われたんだから。


「あった、足跡」


 俺たちのじゃない足跡があった。

 火に向かっていたら、ちょうど背後になる場所。

 遠くからここに着地して、タレアを確保して、すぐにどこかに跳んでいる。


「んんと、あっちか」


 足跡の沈み具合でそう読み取る。


「木を使って移動してるなら、まだ元気な葉が落ちたりしてるはず。それを追いかけよう」


 追跡しているときは違うかもしれないけど、タレアを担いで移動を急いでいるなら、枝が折れたり葉っぱが落ちたりしているはずだ。


「求婚目的ならすぐには傷付けられたりしないはず。見逃さないように、確実に追い詰めよう」

「そうね。相応の罰は与えないと」

「あれ? 二人とも。怒っている?」


 そこで初めて気付いたみたいなことをスラーナが言う。

 なにを言ってるんだか。


「「当然」」

「そ、そう。そうよね」


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