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90 視線の先を見る



 頭に血が上った。

 属性が示す線だらけの視界からパンタールを殲滅する線を選びとる。

 少しだけすっきりとした視界の中に違和感。


 なにか、変だ。


 でも、それはそれとして、背後から迫る黒パンタールに対応する。

 鞘に手をかけ、位置を調整。

 先を黒パンタールに向ける。

 ほんの少しの姿勢の変化で対応。


「ぐふっ」


 黒パンタールは鞘尻に鳩尾を突かれ、呼吸が止まってその場にうずくまる。


「「「長っ!」」」


 スラーナとクトラを押さえる黄パンタールたちが動揺した瞬間、距離を詰め刃喰を振るう。

 手足を切られた黄パンタールたちにさらに蹴りを浴びせ、二人から引き剥がす。


「二人とも、大丈夫?」


 呼びかけると、すぐに二人は反応した。

 よかった。

 怪我もたいしたことないみたいだ。


「うっ……」

「不覚。すいません」

「無事ならいいよ。それより、も」


 さっきから気になっている、変なところに伸びている線に従って刃喰を振るう。

 地面に伸びていた線の先に何か小動物がいたらしい。

 叫び声はなかったけれど、わずかながら血が散ったから、そうなんだろう。


 いや、まだ他にもある。

 ああ、こいつを使ってなにかしてるんだな。


 それなら……。


「タケル?」

「気が付いた?」


 気絶していたスラーナが目を覚ました。


「ごめん。不意を突かれたわ」

「こっちこそ、別働隊のことを考えてなかった」


 足跡は短気な性格だと思ったのだけど、その足跡の主を操っている何者かがいたようだ。


「私たちよりも、タレアは?」

「そっちも無事だよ」


 黄パンタールたちは手足を切られてすぐに動けない。

 黒パンタールも呼吸ができなくなっていて、悶絶している。

 それらを放置してタレアを抱えて戻ってくる。


「殺さなかったのですね」


 とは、クトラの言葉だ。

 彼女はいまだに怒っている。

 もちろん、俺も怒っている。


「ちょっと、聞きたいことができたからね」

「聞きたいこと?」

「うん」


 と、タトラを二人の側に下ろそうとして、下ろせなかった。

 首に腕が巻き付いて、離れようとしない。


「タレア?」

「うへへへへへへ……」


 いままでずっと気を失っていたはずのタレアが、変な笑い声を零した。


「「タレア?」」

「タケルとイチャイチャ〜うふふ〜〜」

「いや……元気?」


 元気だよね、これ。


「それはそう。あんなのの不意打ちなんて、うちが食らうわけないし」

「……タレア?」

「それよりも、タケルがうちのために……って、怖い怖い! タケル、目が怖い!」

「余計な心配をさせたわけだ?」

「ご〜め〜ん〜〜っ! でもタケルがうちのために動いてくれるかもな好機を見逃すわけには! 見逃すわけには!」

「まったく、なんてことをしたの」


 謝りながら、それでも首に回した腕を外そうとしないタレアに、クトラの触手が伸び、引っ張っていく。


「ヤーメーロー、あ、痛たたたたっ! 吸盤を締めるなぁ!」

「離れなさい」

「わかった! わかったから!」

「まったく。これは説教がいりますね。ねぇ、スラーナ?」

「え? ええ……そうね」

「ええ……でも二人だってこんな場面があったら嬉しいでしょ?」

「「反省してない」」

「うひぃっ!」


 三人が勝手にやり出した。

 仕方ないので、三人にはもうちょっと離れてもらって続きをしてもらう。

 改めて、周囲の気配を探ってもう伏兵がいないことを確認してから、パンタールたちに近づいた。

 黒い方はまだ喋れなさそうだ。

 回復が遅いな。

 黄パンタールたちは手足を怪我しただけなので、口の方は問題ない。


「で? 誰に唆された?」


 無数の線はパンタールたちから地面に向かっていき、さらにそこからどこか遠くに向かって伸びているようだった。


「ぐう……なに?」

「誰に話を聞いて、いまここで俺たちを襲った?」


 トバーシアを追いかけていて、こんなことになった。

 偶然にしてはタイミングが合いすぎている。

 誰かの悪意による意図的なものということになると、そこに出てくる名前は一つしか出てこない。

 だけど、こちらからその名前を出したら、パンタールたちにそれを利用して嘘を吐くかもしれない。

 だから、こちらからは名前を言わない。


「それは、ヤガンだ」


 と、黄パンタールの一人が言った。


「長は以前から、タイガリアンの姫を略奪婚する機会を窺っていた。ヤガンはその話を知っていて、お前たちの情報をよく長に伝えていた。それで、先日、お前のような毛なしをたくさん連れたヤガンがうちに来て、長に話をして去っていった。だから……」


 話を聞いたのならその時、ということか。

 毛なし……人間のことだ。

 トバーシアにキヨアキたちを売る前には、もう今回のことを考えていたってことか。


 ミコト様たち神鬼の村を貶めるために、トバーシアを利用し、さらに負けることまで織り込み済みにしているなんて。

 なんとしてでも嫌がらせをしてやるという執念を感じる。


「おい」


 聞きたいことを聞いたので、次は黒パンタールだ。

 やっと呼吸が取り戻せたのか、口の周りを唾液で汚した黒パンタールが俺を見上げてくる。

 睨みつけている。


 が。


 だからなんだ?


「ひっ」

「次はない。覚えておけ。利用されようが、なんだろうが、次にタレアを攫おうとしたら、どこまでもお前たちを追いかけて、根絶やしにしてやる。……わかったか?」

「わ、わかっ……た」


 掠れた声でそう答えると、黒パンタールは白目を剥いて気絶した。


 さあて……。

 それじゃあ次は、ヤガンだ。

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