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91 逆襲



 タレアのおふざけで大変なことになりかけたけど、とりあえずはなんとかなった。

 というわけで、ヤガンへやり返す番になるわけだけど……。


 すでに俺の目は、奴を捕らえている。

 土の中にいるモグラを使ってこちらの様子を伺っていたようで、すでにその魔力の繋がりを【王気】で俺の掌中に取り込んだ。

 後はそれを辿るだけなんだけど……。


 そこで俺は、考えた。

【王気】によって相手の魔力もこっちのものにできるのなら、それを通して相手の肉体にまで影響を与えることができるのではないか? と。

 思いついたら実行せずにはいられない。

 パンタールたちを追い払い、周囲の安全を確保する。

 さすがに初めてのことをやるので、その辺りは慎重にしないとね。

 スラーナたちに見張りを頼み、俺は座り込んで集中する。


 魔力を辿って奴の肉体に入り込み、術理力で体を強化する時のように肉体を巡る。

 本来は肉体の動きに合わせて術理力の動きを調整するのだけど、今回はその逆で術理力……ではなく魔力の動きで肉体の反応を起こして、体を動かせる。

 熱いのに触った時に勝手に飛び退いてしまったりするような、反射行動を組み合わせて強制的に体を動かすような感じ。

 村の敵だから壊れたって構わないわけだし、向こうから仕掛けられていたわけだから、遠慮はない。


 よし、うまくいった。

 と思ったら、誰かがヤガンを抱えて遠くに逃げようとしている。

 そういえばゴーズの仲間みたいな女がヤガンには付いていたっけ。

 あいつだな。

 うまく、そっちの魔力にも侵入を……できた。

 こっちは首の辺りで魔力の流れを遮って、一時的な麻痺みたいに……よし、できた。

 このまま、ヤガンの足で俺たちのところまで来させる。

 そんなに遠くない。

 酔っ払いみたいな歩き方になってしまっているけど、これなら一時間もあれば到着するだろう。


「ひうっ、ひうっ」


 変な声を上げながら、ヤガンは俺たちの前にやってきた。


「やっと来た」


 俺が集中を解くと、ヤガンはその場に崩れ落ちる。

 逃げる元気もないみたいだ。


「な、なにしたネ」

「それを教えると思うか?」

「クソウ、毛なしめ」

「もともと、あくどい商売をしていたそっちが悪いんだろう」

「なにがヨ! ワタシは相手が欲しいと思う物ヲ売っていたダケネ。値段をどうするかは商人の自由ヨ」

「そうかもしれないけど、それで恨まれたりしてたから、うちと敵対したんだろ?」

「ググ……お前と商売の話をする気はないネ」

「俺も言い負かしたいわけじゃないよ」


【王気】の使用時間が長かったせいか、気怠い。

 術理力的な消耗はほとんどないはずなんだけど、神経が疲れる感じかな?

 肩こりとかがすごい。

 後でほぐさないと。


「敵を片付けるだけだ」

「ヒッ」


 刃喰を抜き、ヤガンが驚いている間に一閃。

 終わらせた。


「ふう」


 クトラとタレアが清々したと言い合っている中、スラーナが重いため息を零す。

 ああ、ダンジョンだとダンジョンモンスターと戦うことはあっても、こういう争いで生き死ににまで至ることがほとんどないからかも。

 前に襲われた時も、殺さなかったはずだし。


「地上はこういう感じが普通なんだけど、大丈夫?」

「え? ええ、まぁ……あまり気分は良くないけど、争いだものね」


 スラーナは理屈はわかっていると頷いた。


「ただ、ハクラスラ同盟のことを考えると、いずれこういう殺し合いが起きるのかもしれないなって」

「ああ……」


 彼らは自分たちの暮らしている場所が存亡の危機に陥ってるんだっけ?

 ヤガンの個人的な復讐よりも根は深くなりそうだよね。


「ご主人!」


 ヤガンの死体をどうするかと考えていると、その声が響いた。

 ホルタインだったか?

 あのゴーズみたいな角をした女が、走ってきた。


【王気】を切ったから、麻痺も治ったのだろうけど、それから全力疾走で来たにして早い。

 なかなか、侮れない相手みたいだ。


「ああ、ご主人」


 ホルタインは、ヤガンの死体を見つけるとその前で膝をついた。


「敵対していたから片付けた。お前も敵になるのか?」

「いんや。あたすはそんなことしねぇ」


 俯いたまま、ホルタインは首を振る。


「あたすは足りない代価にご主人に売られただけの荷物曳きだ。ご主人の仇を討つとか、そんなことはしねぇ。でも、この死体を弔っても、いいか?」

「……ああ」

「こんなので、ご主人だったんだ」


 そう言うと、ホルタインはヤガンの死体を抱えて元来た道を戻って行った。

 あれでも、身内には優しかったりしたのかな?

 ホルタインの気落ちした背中を見送り、そんなことを考える。


「全方位に悪い奴なんて、いるわけないですものね」


 クトラが呟いた言葉が全てなんだろう。


「それもそうね」


 再び気が重い表情になっていたスラーナも、その言葉に納得したようだ。


「さて……」


 なんだか色々あったけど、ヤガンを倒すという目標は達成できてしまった。

 村とヤガンとの争いはそこそこあったから、今回も逃してしまうことになるかなと思ったんだけど、意外にすんなりとできてしまって驚いている。


【王気】、便利すぎないか?


 まぁでもまだ疲れるので、こうなったらもっと長時間できるようになりたい。

 これを極めたら、ミコト様が言っていることの半分ぐらいは実現できそうな気もするし。


「一回戻ろうか?」


 ともかく、目的は達した。

 キヨアキのことは気になるけど、パンタールのせいでスラーナやクトラも怪我をしたし、無理して追いかけるのはやめにした。


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