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92 寄り道



 村に戻ることにしたのだけど、ついでにスラーナにクトラとタレアの里を紹介することにした。

 二人を里に送ることもできる。


 まずはクトラ。

 村に向かって移動しつつ、途中で道を変える。

 しばらく進むと風に潮の匂いが混ざりだした。

 あっと思って、刃喰の柄を握ってみるとびくともしない。

 相変わらず我儘な刀だなぁ。


「あら、タケルくん」

「こんにちは」

「クトラと結婚してくれる気になった?」

「あははは……」

「まだっぽいわねぇ」


 古びてあちこち砕けているコンクリートの護岸にクトラのお母さんが座っていていた。

 クトラを少し大きくしたような人で、とても美人だ。


「そちらの子は、ダンジョンにいるというあなたの仲間?」


 クトラの母がスラーナを見たので、紹介する。


「ママ、あの子、強いのよ」

「その言い方、負けたの?」

「むう」

「まぁ、情けない。それなら第二夫人に降格ね」

「すぐに取り戻すわよ」

「ちょっと待て、それだとうちが負けたことになってるんだけど!」

「あら、あなたはパンタールに連れ去られたんじゃなかったかしら?」

「攫われてねぇし!」


 会話の内容はともかくとして……。

 キョトンとしているスラーナに説明する。

 クトラたちオクトパシアは海の中で暮らしている。

 海岸のこの辺りは地上にいる友好的な種族との交渉用の場所で、どうやら今日はクトラの母が受付として待機していたようだ。


「なにを交換してるの?」

「塩とか、海産物とか。海の中で採れない薬草みたいなのを、オババ様が欲しがったりしてるけど」


 こっちは畑の野菜がほとんど。

 時々、山で宝石とかの珍しい石が出てくると持ち込んでみたりもしている。


「まぁでもちょうどよかったわ、タケルさん」

「え?」


 クトラの母はのんびりとした様子のまま、俺に話を向けた。


「ちょうど力仕事の人手が足りなかったのよ。手伝ってくれないかしら」

「はぁ、いいですけど」

「その代わり、帰りにはお塩をたくさん持たせてあげるわ」

「がんばります!」


 クトラの里で作られる塩は出来がいいんだ。

 俄然やる気になった。


「それで、力仕事というのは?」

「あいつらが増えて塩畑に侵入してくるのよ」


 するりとクトラの母が指差した先に、それがいた。


「ひぃ」


 スラーナがそれを見て小さく悲鳴を上げる。

 グソクカブリだ。

 ムカデを短くしたような半円筒の甲殻に包まれた虫なんだけど、一匹が一メートルぐらいある。

 そして、群れる。

 いまも、海岸にある岩場を中心にゾロゾロと集まっている。

 異常事態だ。


「なんで、あんなに?」

「ママ、まだ片付けていなかったの?」

「これでもかなり減った方でしょ。でも、キリがなくって」


 クトラ母も困ったようにため息を吐いている。

 どうやら、うちにトバーシアが襲ってきた時、オクトパシアの里を襲撃したのは、このグソクカブリの群れだったようだ。

 大量発生したグソクカブリは、砂浜にある塩畑を荒らした。

 すでにかなりの数を退治したというのに、それでもどこからともなくグソクカブリはやってくるのだそうだ。


 とりあえず、退治してみるかって……武器がない。

 刃喰はやっぱり抜けない。

 潮風で錆びるのを警戒している。

 この役立たずめ。


「里の武器を貸しましょうか?」

「ううん」


 クトラたちオクトパシアが武器を使う時は槍が多い。

 海の中でそれを構えて泳いで突撃するのだそうだ。

 水の抵抗が大きいから細かい動きは難しいので、自然と海にいる種族はどれもそういう戦い方になるらしい。


 槍でもいいんだけど……ここは修行!

 術理力だけでやってみよう。


「私も手伝うわ」


 スラーナもそう言ってくれて、みんなでグソクカブリ退治をすることになった。

 もちろん、クトラとタレアも参加。


 三人はそれぞれに遠隔攻撃でグソクカブリを退治していく。

 俺も【俯瞰】と【虎牙】の応用で、遠くから潰していく。

 ううん、そろそろ名前でもつけてみようかな。

 遠くから突くように攻撃するんだし、猛禽類の狩りっぽく……【鷹爪】とか?


 うん、うまくいく。


 グソクカブリは虫系特有のしぶとさはあるものの、見た目よりは柔らかいので一匹を倒すのは苦労しない。

 だけど、数は全然減らない。

 本当に、どこから湧いてくるんだというぐらい、ずっと出てくる。


 どこから出てくるんだ?


「これ、タイミング的にヤガンがなにかをしたっていうことよね」


 一時撤退して休憩していると、スラーナがそう言った。


「ああ、そうだろうね」

「なら、こいつを呼び寄せるためのなにかを使ったってことでしょ? それはわかっているの?」


 みんなでクトラの母を見る。


「ああ……そういうのは見つかっていないわねぇ」

「ママ、呑気すぎじゃないかしら?」

「そうねぇ、でも、被害が塩畑だけだからねぇ」

「むう」


 塩は、外と交渉するには役立つけれど、オクトパシアたちでは必要としてない。

 だから、それを守るための作業にも、あまり本気に慣れていないということか?

 もったいないとは思うけど、それもやっぱり種族それぞれか。


「グソクカブリを集めるようななにかって、なんだろ?」


 ヤガンはもういないので、その正体は自分たちで突き止めるしかない。

 生きていても教えてくれるとは限らないけどね。


 それから、それを探すことになった。

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