グソクカブリ退治のためのヒントがスラーナの口から出た。
奴らが集まってくる理由がここにある?
ヤガンがそれを仕込んだのだとしたら、それはどこに?
「そんなに難しく考える必要はないんじゃないかな」
スラーナの視線は、奴らの集まる岩場に向けられていた。
なるほど。
たしかに、そこまで難しく考える必要はないかもしれない。
そんな複雑なことができるような虫でもないし。
「そういえば、畑の方はもうほとんどいないのに、あそこにはいつまでも集まっているのよね」
クトラの母の言葉が後押しとなって、俺たちは休憩終わりにあの岩場に突撃することにした。
とりあえずは、倒すことに専念する。
探すにしても、こんなにいたら邪魔されてしまってなにもできない。
少しでも数を減らして、時間を稼ぎたいんだけど……。
難しい。
どれだけ倒してもグソクカブリは次々と現れて、この岩場を占拠しようとする。
「これで探し物は、ちょっと無理じゃない⁉︎」
スラーナが悲鳴をあげた。
「言ったのはあなただけどね!」
「そうだそうだ!」
「そうだけど。それとこれとは別でしょ!」
言い合うぐらいに仲良くなったんだなぁって……そんなことをしみじみ思ってる暇もない。
グソクカブリは次々と集まってきて、足元を確かめている暇もない。
どれだけ倒しても意味がない。
一度、クトラが大波を呼んで押し流したけれど、すぐに戻ってきて無駄に終わった。
なにか、方法は……。
倒さなくても、時間を稼げればいいんだけど。
ああ、この手があった。
「ちょっとみんな、魔力を借りるよ」
「「「わかった」」」
三人は、ほぼ同時に承諾してくれた。
説明もしなくていいんだから、信頼してくれててありがたい。
「よしっ」
【王気】を使ってスラーナたち三人の魔力……術理力になるのはスラーナの体内を通した後でのことだから、体外に無意識に解き放たれているのは魔力なんだった……三人の魔力をまとめて、そのまま使う。
俺はそれを術理力にする必要はなく、魔力のまま、術理技として使うことができる。
できるようになったというか、学園に通っていなかった頃は、無意識に魔力のまま使っていたのだと気付かされた。
だから、その無意識だった時のことを思い出して、なんとか意識下で制御する。
形にする術理技は【念動】だ。
岩場全体に不可視の力を発動させ、グソクカブリが近づけない壁を作る。
【鷹爪】で一体一体倒そうとすると、無駄に手間がかかる。
全体に【念動】を使うのなら、使用する魔力は大きいけれど、手間は少ない。
とはいえ……。
「あんまり時間がないかも。早く調べて」
「わかったわ」
グソクカブリは【念動】でできた壁をよじ登って、こちらに入ってこようとしている。
壁を円蓋にするのは無理だったけど、ネズミ返しみたいにすることはできた。
これでもう少し、時間を稼げそうだけど……。
集結するグソクカブリが自分たちを足場にして【念動】の壁を越えようとしている。
考えてそうしたわけではなく、一箇所に集まった結果そうなってしまっているという感じだ。
とはいえ、時間がないんだけど。
んん……あれ?
これでこの【念動】を【虎牙】に変化させたらどうなるんだろ?
【念動】も【俯瞰】と同じく……ていうか【俯瞰】からの変化なんだから、使いまわせる状態のはずだ。
とはいえ【俯瞰】よりは変換効率が悪い……かも?
「あった! これだわ!」
叫んだのはクトラだ。
「え? なにこれ?」
「うわぁ」
他二人がドン引きしているけど、いまはそれどころではなくて……。
グソクカブリの群れが【念動】の壁を越えようとしている。
こうなったら、やるしかない。
なにしろ、このままだと逃げ場もない。
「ちょっと、大きい音が出るかも!」
三人にそう声をかけ、越えられる前に【念動】を【虎牙】に変化させる。
周囲で大量の衝撃波が発生する。
その大音量に三人の悲鳴は飲み込まれた。
「うわあ、目が回る」
「クラクラする」
「ちょっと、まだ取れてない」
スラーナが目を回しながらなんとかそう言った。
彼女たちの足元を見ると、岩の隙間になにかがある。
なにかの腸で作った半透明の袋の中になにかがある。
金色の……粒々?
ちょっと……きもいな。
「それを取って、あいつらに投げるの」
「わかった!」
クトラの言葉に従い、岩の隙間からそれを引き摺り出し、再びここにやって来ようとするグソクカブリに向かって投げた。
ちょっと強く投げすぎて、群れの先頭を飛び越えた。
そうすると、グソクカブリたちは急旋回して金色の粒々を追いかけた。
みんなで群がり、袋が破れて金色の粒がバラバラになる。
それを求めるように、さらにグソクカブリが山になる。
「なんなんだ?」
「ああ、女王グソクの卵があったんだ」
クトラ母がのんびりとそう言った。
「女王グソクの卵?」
「あの金色の粒よ。グソクカブリはね、オスばかりなの。メスは女王グソクって呼ばれる。数が少なくて、さらに大きいのよ。女王は金色の卵をたくさん産んで死ぬ。グソクカブリはその卵の塊から一つを取って、放精して、大事に育てるの」
「そんなので、あんなに増えるものなんですか?」
なんだか、すごく非効率な繁殖方法な気がする。
「それはね、あの卵一つでた〜くさん産まれるから。いまはあんなに大きいグソクカブリも、卵から出たときは目にも見えないぐらいに小さいんだから」
「はぁ、そんなもんですか」
「そんなものよ。ご苦労様、ありがとうね」
「塩、お忘れなく」
「わかってる〜」
素で忘れそうな雰囲気があるから、念押ししておかないと不安になる。
なにはともあれ、なんか新しい技もできてしまったし、お土産の塩も手に入ったし、よかったよかった、かな?