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93 グソクカブリ退治



 グソクカブリ退治のためのヒントがスラーナの口から出た。

 奴らが集まってくる理由がここにある?

 ヤガンがそれを仕込んだのだとしたら、それはどこに?


「そんなに難しく考える必要はないんじゃないかな」


 スラーナの視線は、奴らの集まる岩場に向けられていた。

 なるほど。

 たしかに、そこまで難しく考える必要はないかもしれない。

 そんな複雑なことができるような虫でもないし。


「そういえば、畑の方はもうほとんどいないのに、あそこにはいつまでも集まっているのよね」


 クトラの母の言葉が後押しとなって、俺たちは休憩終わりにあの岩場に突撃することにした。

 とりあえずは、倒すことに専念する。

 探すにしても、こんなにいたら邪魔されてしまってなにもできない。

 少しでも数を減らして、時間を稼ぎたいんだけど……。

 難しい。

 どれだけ倒してもグソクカブリは次々と現れて、この岩場を占拠しようとする。


「これで探し物は、ちょっと無理じゃない⁉︎」


 スラーナが悲鳴をあげた。


「言ったのはあなただけどね!」

「そうだそうだ!」

「そうだけど。それとこれとは別でしょ!」


 言い合うぐらいに仲良くなったんだなぁって……そんなことをしみじみ思ってる暇もない。

 グソクカブリは次々と集まってきて、足元を確かめている暇もない。

 どれだけ倒しても意味がない。

 一度、クトラが大波を呼んで押し流したけれど、すぐに戻ってきて無駄に終わった。


 なにか、方法は……。

 倒さなくても、時間を稼げればいいんだけど。


 ああ、この手があった。


「ちょっとみんな、魔力を借りるよ」

「「「わかった」」」


 三人は、ほぼ同時に承諾してくれた。

 説明もしなくていいんだから、信頼してくれててありがたい。


「よしっ」


【王気】を使ってスラーナたち三人の魔力……術理力になるのはスラーナの体内を通した後でのことだから、体外に無意識に解き放たれているのは魔力なんだった……三人の魔力をまとめて、そのまま使う。

 俺はそれを術理力にする必要はなく、魔力のまま、術理技として使うことができる。

 できるようになったというか、学園に通っていなかった頃は、無意識に魔力のまま使っていたのだと気付かされた。

 だから、その無意識だった時のことを思い出して、なんとか意識下で制御する。


 形にする術理技は【念動】だ。


 岩場全体に不可視の力を発動させ、グソクカブリが近づけない壁を作る。

【鷹爪】で一体一体倒そうとすると、無駄に手間がかかる。

 全体に【念動】を使うのなら、使用する魔力は大きいけれど、手間は少ない。

 とはいえ……。


「あんまり時間がないかも。早く調べて」

「わかったわ」


 グソクカブリは【念動】でできた壁をよじ登って、こちらに入ってこようとしている。

 壁を円蓋にするのは無理だったけど、ネズミ返しみたいにすることはできた。

 これでもう少し、時間を稼げそうだけど……。

 集結するグソクカブリが自分たちを足場にして【念動】の壁を越えようとしている。

 考えてそうしたわけではなく、一箇所に集まった結果そうなってしまっているという感じだ。

 とはいえ、時間がないんだけど。


 んん……あれ?

 これでこの【念動】を【虎牙】に変化させたらどうなるんだろ?

【念動】も【俯瞰】と同じく……ていうか【俯瞰】からの変化なんだから、使いまわせる状態のはずだ。

 とはいえ【俯瞰】よりは変換効率が悪い……かも?


「あった! これだわ!」


 叫んだのはクトラだ。


「え? なにこれ?」

「うわぁ」


 他二人がドン引きしているけど、いまはそれどころではなくて……。

 グソクカブリの群れが【念動】の壁を越えようとしている。


 こうなったら、やるしかない。

 なにしろ、このままだと逃げ場もない。


「ちょっと、大きい音が出るかも!」


 三人にそう声をかけ、越えられる前に【念動】を【虎牙】に変化させる。

 周囲で大量の衝撃波が発生する。

 その大音量に三人の悲鳴は飲み込まれた。


「うわあ、目が回る」

「クラクラする」

「ちょっと、まだ取れてない」


 スラーナが目を回しながらなんとかそう言った。

 彼女たちの足元を見ると、岩の隙間になにかがある。

 なにかの腸で作った半透明の袋の中になにかがある。

 金色の……粒々?

 ちょっと……きもいな。


「それを取って、あいつらに投げるの」

「わかった!」


 クトラの言葉に従い、岩の隙間からそれを引き摺り出し、再びここにやって来ようとするグソクカブリに向かって投げた。

 ちょっと強く投げすぎて、群れの先頭を飛び越えた。


 そうすると、グソクカブリたちは急旋回して金色の粒々を追いかけた。

 みんなで群がり、袋が破れて金色の粒がバラバラになる。

 それを求めるように、さらにグソクカブリが山になる。


「なんなんだ?」

「ああ、女王グソクの卵があったんだ」


 クトラ母がのんびりとそう言った。


「女王グソクの卵?」

「あの金色の粒よ。グソクカブリはね、オスばかりなの。メスは女王グソクって呼ばれる。数が少なくて、さらに大きいのよ。女王は金色の卵をたくさん産んで死ぬ。グソクカブリはその卵の塊から一つを取って、放精して、大事に育てるの」

「そんなので、あんなに増えるものなんですか?」


 なんだか、すごく非効率な繁殖方法な気がする。


「それはね、あの卵一つでた〜くさん産まれるから。いまはあんなに大きいグソクカブリも、卵から出たときは目にも見えないぐらいに小さいんだから」

「はぁ、そんなもんですか」

「そんなものよ。ご苦労様、ありがとうね」

「塩、お忘れなく」

「わかってる〜」


 素で忘れそうな雰囲気があるから、念押ししておかないと不安になる。

 なにはともあれ、なんか新しい技もできてしまったし、お土産の塩も手に入ったし、よかったよかった、かな?



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