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100 カル教授の目的



 カル・スー教授は村の鬼たちに囲まれたまま防護服のヘルメットを脱いだ。


「いいんですか?」

「いいわ。阻むものが少ない方が、こちらの方々も信頼してくれるでしょう?」

「ああ、それはそう?」


 ジョン教授たちとは壁一枚あるような付き合い方だったような気もする。


「同じ空気も吸えないような人と仲良くなれるわけがないじゃない」


 カル教授の言葉は正論だなと、俺でも思ってしまった。

 ヘルメットを外したことで、村の人たちの警戒心も失せてしまったようで、彼女の扱いは俺に任されることになってしまった。

 とりあえず、スラーナも生活している村長の家に案内した。


「でも、どうして一人で?」

「ああ、それは気になることを教えてもらったから」


 と、カル教授はとてもいい笑みで俺を見た。


「まず一つ。【王気】を身につけたそうね」

「え? あ、はい。そうです。やっぱりあれって、【王気】だったんですね!」


 そうだ。

【王気】を身につけるきっかけをくれたのはカル教授だ。

 それを思い出した俺は、興奮してあれでよかったのか確認した。

 もし違っていたとしたら、それはそれでカル教授は別のなにかを隠していることになるので、それも気になる。

 むしろ、そうであって欲しい?

 でも、当たりだったみたいだ。

 嬉しいけど、ちょっと残念。


「術理技を研究しているときにね、偶然にみつけたのよ。より多くの術理力を手に入れるためにはどうすればいいかを考えていて、ね」

「なるほど」

「それより、キヨアキくんの件だけれど」

「キヨアキですか?」


 どうしてカル教授があいつのことを?

 聞いてみると、キヨアキというか、彼の父親が問題を起こした時、あいつを学園に残れるようにしたのはカル教授なのだそうだ。


「後見になった責任として、彼のことを追いかけようかと思って」

「危険ですよ」


 キヨアキはトバーシアとともにどこかに行ってしまった。

 あの連中は乱暴者の集まりだ。

 撤退する時には、大義名分としてちょうどいいからと利用された感じがあるけれど、いまもそれが通用しているかどうかわからない。

 正直、途中で捨てられていたとしてもおかしくない。


 そう考えると探しに行くべきなのかなとも思うのだけど、キヨアキが俺に助けられたいかと自問してみると、たぶん助けられたくないだろうなという答えになってしまう。


「どちらにしても、私はもうダンジョンには戻れないだろうし、ここで研究を続けるのもいいわね。住まわせてもらえるなら、だけど」


 俺とスラーナは目を合わせた。

 キヨアキの件はともかくとして、カル教授が生活する許可は取らないといけないので、いろんなところに顔合わせをしてもらう。

 カル教授は持ち込んだお土産をみんなに渡したし、話上手だしで、あっという間に村のみんなに受け入れられた。

 とりあえず、スラーナと一緒に村長の家に泊まってもらうことになる。


 カル教授は術理技の研究者ということで、まだ習っていない術理技をさらにいくつか教えてもらった。


「君は本当に飲み込みが早いね」

「ありがとうございます」

「まぁ、どれよりも難易度の高い【王気】を勘だけで身につけられるんだ。それに比べれば他の技なんて児戯のようなものかもしれないね」

「そんなことはないですよ!」


 どんな技にもその難局を潜り抜けるための創意工夫が感じられる。

 技の根本部分を無視してしまうと、意味不明なものもたくさん出てくるのかもしれない。

 だけど、どうしてその技が生まれたのか? という疑問を追求して、技を生み出した者がどんな状況に立っていたのかを考えるのも面白い。


「……君は、情熱を向けられるものにはとことん集中できるタイプのようだね」

「はい。その分、興味のないことには全然」


 カル教授の言葉に、スラーナが勝手な付け足しをする。


「まぁ、そういう集中するタイプだからこそ、目に属性が出ているのかもしれないけどね」

「属性? それはどういうことですか?」


 カル教授の言葉にスラーナも興味を示した。


「まぁ、これはまだ研究の段階で答えは出ていないけれどね。属性は、その適性者の個性に影響をうけて発現するのではないかと考えているんだ。スラーナさんの属性が風なのも、偶然ではなく、そういうものが生まれる素地があったはず。君の目もね」


 と、順に俺たちを見る。


「それがどのような形で現れるのかを事前に予測するレベルにまではまだ至っていないからね。なので、これはあくまでも私の仮説に過ぎないのだけれど」

「カル教授の属性は……」


 前に誰かに教えてもらった気がするような?

 でも、すぐには思い出せなかった。


「『鑑定』よ。ダンジョンのドロップ品の性能なんかがわかる能力。なんでも知りたがる性格が、こんな目にしたのかもしれないわね」

「それはすごい」

「おかげでダンジョン攻略の前線からは追い出されちゃったから、悔しくて術理技の研究を始めたのだけどね」

「おおう」


 俺は単純にすごいと思ったけど、受け取った側がどう思うかはまた別の問題か。

 自分の個性から現れたはずの属性が、自分の思いを実現させてくれないというのはどういう気持ちなのだろうか?


 たぶんだけど、俺はこの時、カル教授の心の闇みたいなものを覗きかけたんだと思う。

 でも、それで全てを察するなんてできない。

 属性があっても、俺の目は所詮はその程度しかないってことなんだろうな。

 万能ではない。


 なにより、カル教授は自分を隠すのがとても上手いのだろう。


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