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102 龍穴へ



 というわけで龍穴へ行ってみることになった。

 そのついでに近くにある集落にお届け物をする。

 うちの村の野菜で作った漬物と、その容器で使ってある焼き物。

 どちらも人気だ。


「それにしても漬物や焼き物とは」


 俺の背負った籠の中に詰められた壺たちに、カル教授が驚きの目を向けている。


「人の変異した世界だというからどんなものかと思っていたけれど、他の集落と物々交換をするなんて、普通ね」

「いったいなにを想像していたんですか?」

「もっと混沌とした世界」

「それならそもそも、ジョン教授が交渉できてないじゃないですか」

「それもそうね。あの人は戦えないから、そんな修羅の世界では一度目に調査失敗だわ」


 行くのは俺とカル教授とスラーナ。


「クトラとタレアは?」

「言わなくて来そうな気がするし、来ないなら二人とも理由があるんだろうし」

「ふうん、そういう信頼ね」


 スラーナに聞かれて答えるとそんなことを言う。


「どういう?」

「……まだわからないのが本当に謎なのよね」

「いや、だからわかんないって」

「ともかく、変に思われたくないからこっちから連絡しにいくわよ」

「ええ、遠回りになる」

「いいから! いいですよね、カル教授!」

「いいわよ。見てるだけでも面白いから」


 そんなわけで、クトラとタレアのところにも回った。

 結果は、珍しく二人とも不参加。

 クトラは荒れた塩畑の作り直しで人手がいるという理由。

 タレアは近々大きな狩りが控えているということだそうだ。


「知らせに来なかったら勝手に抜け出せていたのに」

「スラーナ、それが正妻のやり方? 汚いわ」

「違うのに!」


 二人してなにか文句を言われて、スラーナはとても不服そうだった。

 ともかく、これで龍穴に向かえる。


 トバーシアを追いかけた時に比べると、信じられないぐらいに穏やかな旅路となった。

 とはいえ、なににも襲われないというわけでもない。

 肉食獣の集団には何度か襲われた。

 だけど、不意を打たれる前に俺もスラーナも接近に気付けるし、カル教授も撃退の手段をたくさん持っている。

 危険なことはなかった。


「そういえばこの道、トバーシアを追いかけた道じゃないの?」


 マガメガと遭遇した森を避けていると、スラーナがそう言った。


「そういえばそうだね」


 あの時は、タレアが攫われて終わったんだったか。

 結果的にヤガンを見つけることができたので、これ以上進む必要がなくなったんだけど。


「それなら、この先にトバーシアがいるんじゃ」

「それはどうだろ」


 トバーシアも定住を持たない連中だから、同じ方向に逃げたからっていまもそちら側にいるとは限らない。


「そっか。なら、キヨアキがいるとも限らないのね」

「そういうことになるね」


 キヨアキの話題になったことでカル教授の様子を見たけれど、彼女はなんでもない顔をしていた。


「そうね、心配ね」


 俺たちの視線に気付いて、カル教授は話を合わせたかのように言う。


「キヨアキくんに関しては、私が煽ったところもあるから気になるけどね」

「煽った?」

「そう。父親の事件や、彼自身もモンスターに操られてしまったりで精神的に乱れていたからね。余計なことを考えないように、自分の成長に集中するようにと言ったのよ」


 なるほどと思った。

 キヨアキの状況を考えると、ひどく落ち込んでいただろうし、余計なことを考えないようにするというのは正しいことのように思えた。


「だけど、これもまた彼の人生なんじゃないかなと思うわ」

「人生?」

「私の研究は術理技や術理力、そして属性に関することだけれど、適性者が目覚める属性は個性に関係するという話はしたわよね」

「はい」

「属性は、当人の個性に関係する。それならば、人生にも関係しているのではないか? そうとも考えているのよ。個性というのは人の行動の指針になる。それなら、それによって発現する属性は、もっと強く影響を与えるのではないかしら?」


 かしら? と問いかけられても、俺にはなんとも言えない。

 でも、言われてみればそうかなとも思う。

 どう行動するかは個性によるんだから、その個性に関係して属性が出てくるなら、属性即ちその人物の性格ということにもなるのかもしれない。


「キヨアキくんの属性は『火』。火にもいろいろなイメージがあるけれど、どちらにしろ燃え上がることこそが彼の人生の本領のはず。きっと、彼は素晴らしく成長していると思うわ。うまくいっていれば」


 あいつと再会した時、俺に対して「負けない」というようなことを言っていた。

 ライバル視されているのは明らかだった。

 その考えが、あいつをダンジョンに戻さず、トバーシアと共に消えることになったのだとしたら?

 そう唆したのはカル教授、ということになるのだろうか?


 なら、いまのキヨアキの状況はカル教授のせい?


 でも、それはそれで違う気はする。

 カル教授はただ、キヨアキが学園にいられるようにしただけだし、落ち込んでいたあいつを励ましただけだ。


 でも、なんだか。


「カル教授って、ちょっと怖いわね」


 夜の休憩時間の時に、スラーナと二人になる瞬間があったんだけど、その時に彼女がそんなことを言った。

 よくわかると、思ってしまった。

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