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103 到着



 龍穴までの移動を続ける。

 カル教授は野外での活動にも不満をこぼすことはなかった。

 不慣れな点はあるけれど、それは仕方ない。

 徒歩での移動も、ダンジョン攻略を続けているという言葉通りに、長距離を移動することに慣れた歩き方だった。

 モンスターに襲われても動揺なく、術理技で対応する。

 その術理技がまた見たことのないものだったりするから、気になる。


 旅は、一見順調のように思える。

 だけど……。


「三人揃って【王気】を使ったらどうなるのかしら?」


 カル教授が時々こんな提案をしてきて、それに俺たちも乗ってしまうものだから、予定はどんどんと遅れていた。

 まぁ、それを気にする者は誰もいなかったのだけど。

 俺もスラーナも、カル教授と一緒に行動することに慣れていった。


 ちなみに【王気】を合わせたら、意識が混濁したのでやらない方がいいという結論になった。

 いや、あの時はほんとに危なかった。

 そんなこともあったけれど、旅はカル教授に術理技を教えてもらったり、あるいは思い付きに付き合ったりした。

 思いつくのもカル教授だけじゃなくて、俺やスラーナが呟いたものに反応したりもするものだから、二人して面白がって色々と言って、そしてその度に歩みを止めた。

 背中に負っているものが漬物じゃなくて普通の野菜だったら、絶対に腐ってた。

 うん、漬物でよかった。


 それでもいずれは到着する。


「ああ、見えてきた」


 とはいえ、まだ現場に着いたわけではないけれど、それを見ることはできたのでもう到着したようなものだ。


 それは空へと昇る太い煙という光景だ。


「あの山?」

「そうそう」

「あれが龍穴?」

「頂上からなにか煙のようなものが上がっているね」


 見えてきたものに、二人が目を凝らす。


「ていうか、あれって火山じゃないの?」

「火山?」


 スラーナの言葉に、俺は首を傾げた。

 視線の先にはいくつかの山が連なっており、頂上から煙を吹いているのはその中でも一際大きな山だ。


「スラーナはよく覚えていたね。そう、あれは火山ね」


 とカル教授も言う。


「ダンジョンの地形の種類でありますから」

「そうだね。山岳地帯を再現したダンジョンには火山もあるし、深度が高ければ噴火中だったり、マグマが吹き出したりもしているわ。でも……あれはマグマを吹いたりはしないでしょうね」


 マグマ……そういえばそんなものを授業で聞いた気がする。

 すっかり忘れていた。

 ええと、地面の下にはすごい熱で溶けた土が流れているんだっけ?

 それが火山から外に出たりすることがあるんだっけ?

 ああ、それならマグマの流れる道を龍脈、噴き出す場所を龍穴と呼んでいたってことか?

 でも、スラーナたちは火山って言ってるし……。

 よくわからないな。


 それに、いま龍穴から出ている煙は、マグマの煙じゃない。

 前の俺だとよくわからなかっただろうけど、いまならわかる。


 あれ、魔力だ。


 ただそうしているだけでも、じわじわとそれが肌を撫でているのがわかるし、意識を集中すれば、存在感が全身を包んで圧をかけてくる。


 強力な魔力の気配がここまで届いている。


 でもそれなら、マグマはどこに消えたんだろう?


「さて、さっそくあそこに行ってみたいけれど、どこかに寄るところがあるんじゃなかったかな?」

「あっ、はい、そうですよ」


 龍穴のそばにある村。

 ここがうちの村が交流している中でも一番に遠い。


「ええと……あ、あそこですね」


 視線を巡らせれば、山の合間に煙が見えた。

 今度は普通の煙だ。


 俺たちはそこに向かって移動した。


 村に近づくと、すぐに俺たちは見つかった。

 名乗るとすぐに受けいられたけどね。


 ここにいる人たちは、ちょっと俺に似ている。

 ただし、大人でも背が俺の半分ぐらいで、そして毛量がすごい。

 そしてこの辺りは鉄がたくさん採れるので、それの加工を得意としている人たちだ。


「ドワーフだ」

「ドワーフね」


 二人は、村を見るなりそう言った。


「ほう、よく知っとるなぁ。そうだよ、ワシらは自分たちをドワーフと呼んどるよ」


 案内してくれる人が笑顔で応じてくれる。


「あんたの村の漬物はうまいからなぁ」

「ありがとうございます」

「今回は鋳塊でいいのかな?」

「はい、それで」

「あんた、良い刀を持っとるな、ちょっと見せてくれんか?」

「あんたのところで頼まれて作った金棒は、ほんとにいい出来だったからなぁ。また、ああいうのを頼まれたいねぇ」

「ほう、あんたは弓か? 鏃は? ふうん、とても綺麗に揃っているな。これは面白い」


 そんな風にわちゃくちゃとされながら、龍穴へ近づいてもいいか聞いてみた。

 一応、この里の近くにあるからね。

 勝手をして嫌われたら大変だ。


「龍穴に? 行くのは好きにしていいが……」


 と、なにやら言葉を濁す。


「なにか、ありました?」

「こっちにはなにもなかったよ。どうもうちとは別方向から龍穴に行った者がいたみたいでな。なにやら山が騒がしかった」

「あの辺りは変な生き物も多い。鉄を採る時以外では、ワシらもそうは近付かん。行くんなら、気をつけることだな」

「はい」


 とりあえず荷物を預かってもらい、一泊してから龍穴に向かうことにした。

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