龍穴までの移動を続ける。
カル教授は野外での活動にも不満をこぼすことはなかった。
不慣れな点はあるけれど、それは仕方ない。
徒歩での移動も、ダンジョン攻略を続けているという言葉通りに、長距離を移動することに慣れた歩き方だった。
モンスターに襲われても動揺なく、術理技で対応する。
その術理技がまた見たことのないものだったりするから、気になる。
旅は、一見順調のように思える。
だけど……。
「三人揃って【王気】を使ったらどうなるのかしら?」
カル教授が時々こんな提案をしてきて、それに俺たちも乗ってしまうものだから、予定はどんどんと遅れていた。
まぁ、それを気にする者は誰もいなかったのだけど。
俺もスラーナも、カル教授と一緒に行動することに慣れていった。
ちなみに【王気】を合わせたら、意識が混濁したのでやらない方がいいという結論になった。
いや、あの時はほんとに危なかった。
そんなこともあったけれど、旅はカル教授に術理技を教えてもらったり、あるいは思い付きに付き合ったりした。
思いつくのもカル教授だけじゃなくて、俺やスラーナが呟いたものに反応したりもするものだから、二人して面白がって色々と言って、そしてその度に歩みを止めた。
背中に負っているものが漬物じゃなくて普通の野菜だったら、絶対に腐ってた。
うん、漬物でよかった。
それでもいずれは到着する。
「ああ、見えてきた」
とはいえ、まだ現場に着いたわけではないけれど、それを見ることはできたのでもう到着したようなものだ。
それは空へと昇る太い煙という光景だ。
「あの山?」
「そうそう」
「あれが龍穴?」
「頂上からなにか煙のようなものが上がっているね」
見えてきたものに、二人が目を凝らす。
「ていうか、あれって火山じゃないの?」
「火山?」
スラーナの言葉に、俺は首を傾げた。
視線の先にはいくつかの山が連なっており、頂上から煙を吹いているのはその中でも一際大きな山だ。
「スラーナはよく覚えていたね。そう、あれは火山ね」
とカル教授も言う。
「ダンジョンの地形の種類でありますから」
「そうだね。山岳地帯を再現したダンジョンには火山もあるし、深度が高ければ噴火中だったり、マグマが吹き出したりもしているわ。でも……あれはマグマを吹いたりはしないでしょうね」
マグマ……そういえばそんなものを授業で聞いた気がする。
すっかり忘れていた。
ええと、地面の下にはすごい熱で溶けた土が流れているんだっけ?
それが火山から外に出たりすることがあるんだっけ?
ああ、それならマグマの流れる道を龍脈、噴き出す場所を龍穴と呼んでいたってことか?
でも、スラーナたちは火山って言ってるし……。
よくわからないな。
それに、いま龍穴から出ている煙は、マグマの煙じゃない。
前の俺だとよくわからなかっただろうけど、いまならわかる。
あれ、魔力だ。
ただそうしているだけでも、じわじわとそれが肌を撫でているのがわかるし、意識を集中すれば、存在感が全身を包んで圧をかけてくる。
強力な魔力の気配がここまで届いている。
でもそれなら、マグマはどこに消えたんだろう?
「さて、さっそくあそこに行ってみたいけれど、どこかに寄るところがあるんじゃなかったかな?」
「あっ、はい、そうですよ」
龍穴のそばにある村。
ここがうちの村が交流している中でも一番に遠い。
「ええと……あ、あそこですね」
視線を巡らせれば、山の合間に煙が見えた。
今度は普通の煙だ。
俺たちはそこに向かって移動した。
村に近づくと、すぐに俺たちは見つかった。
名乗るとすぐに受けいられたけどね。
ここにいる人たちは、ちょっと俺に似ている。
ただし、大人でも背が俺の半分ぐらいで、そして毛量がすごい。
そしてこの辺りは鉄がたくさん採れるので、それの加工を得意としている人たちだ。
「ドワーフだ」
「ドワーフね」
二人は、村を見るなりそう言った。
「ほう、よく知っとるなぁ。そうだよ、ワシらは自分たちをドワーフと呼んどるよ」
案内してくれる人が笑顔で応じてくれる。
「あんたの村の漬物はうまいからなぁ」
「ありがとうございます」
「今回は鋳塊でいいのかな?」
「はい、それで」
「あんた、良い刀を持っとるな、ちょっと見せてくれんか?」
「あんたのところで頼まれて作った金棒は、ほんとにいい出来だったからなぁ。また、ああいうのを頼まれたいねぇ」
「ほう、あんたは弓か? 鏃は? ふうん、とても綺麗に揃っているな。これは面白い」
そんな風にわちゃくちゃとされながら、龍穴へ近づいてもいいか聞いてみた。
一応、この里の近くにあるからね。
勝手をして嫌われたら大変だ。
「龍穴に? 行くのは好きにしていいが……」
と、なにやら言葉を濁す。
「なにか、ありました?」
「こっちにはなにもなかったよ。どうもうちとは別方向から龍穴に行った者がいたみたいでな。なにやら山が騒がしかった」
「あの辺りは変な生き物も多い。鉄を採る時以外では、ワシらもそうは近付かん。行くんなら、気をつけることだな」
「はい」
とりあえず荷物を預かってもらい、一泊してから龍穴に向かうことにした。