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105 足止め



 村と付き合いのあるドワーフの里が襲撃されるっていうのに、見て見ぬ振りはできない。


「行きます!」

「私もっ!」


 俺の声にスラーナが続く。


「私はここにいるわ」


 問いかける暇はない。

 残るというカル教授の言葉だけを聞き、俺たちは登った山を全速力で下ることになった。

 もう、術理力を使わないなんて言っていられない。

 全力で追いかけていく。


「ねぇ、あれはなに⁉︎」

「わからない!」


 追いかけていけば、姿がわかってくる。

 蛇のように細長い胴体に四肢がある。

 トカゲっぽい体。

 だけど肌に鱗はない。

 そして、頭の部分には、ここからははっきり見えないけど長い茶色の毛が伸びている。

 そして全体の色は……肌色。


 本当に、こんなのは見たことがない。


 だけどなんだか、嫌な予感を感じさせる色だ。


「ねぇ、もしかして……」


 スラーナが嫌な予感を口にしようとしていたその時……。

 翼が空気を叩く音がした。

 頭上。

 近づいてくる。

 こっちは全速力で走っているのに?


 上を見ると、そこには大きな蝙蝠みたいなのがいた。

 こっちも全身肌色。

 それに翼から伸びた手の部分が爪ではなく人の指だ。

 いや、もっとはっきりした部分がある。

 こっちを見下ろすその顔。

 蝙蝠みたいな特徴的な鼻を除いた他の部分が、人の顔だ。


 なら、先を走っているトカゲっぽいのも顔は人なのか?

 不穏な気配を察知してその場から逃げると、地面が爆発した。

 蝙蝠がなにかをしたみたいだ。


「こいつの顔!」

「知ってるのか?」

「知ってるもなにも……私たちを攫ったハグスマド同盟の一人よ」

「ええ⁉︎」


 まさかと思ったけど、スラーナの記憶力を疑う理由もない。

 それに、人間だと思う方が、俺の推測にも当たってしまう。

 最悪な方はハズレたけど。


「なら、あいつもキヨアキではないわね」


 俺の最悪な推測の方をスラーナが言った。

 先を行く肌色トカゲがキヨアキの可能性を考えていたのだけれど、蝙蝠がハグスマド同盟の者だったのだとすれば、蝙蝠もその仲間の可能性が高い。

 もしかして、ヤンだったり?

 いや、ヤンだったら、もっと強力な存在になっていそう。

 それは願望かな?


 上にいる蝙蝠がなにか見えない攻撃をしてきて、それのせいで地面が爆発して走りにくい。


「タケル、こっちは私がやるから。あっちを!」

「わかった」


 スラーナの提案に乗って俺は追いかけることを続行し、彼女は蝙蝠に攻撃をしかける。

 うまく、蝙蝠の意識がスラーナに注がれ、俺は走ることに集中した。

 あんなに苦労した登山だけど、術理力を使って下っていれば一瞬だ。

 だけど、向こうも早い。

 なかなか、前に出られない。


 もうすぐ山を下り終える。

 そうなると里まであと少しだ。

 なんとかその前に、奴の意識をこっちに向けさせないと。


 そう……なると。


【念動】。


 見えない手で奴の胴体を掴むイメージは成功。

 持ち上げるのは……無理か。

 この状態だとそこまで集中を深くできない。


【王気】を使うのを躊躇したのは、まだちょっと腰が引けてる証拠だ。


 でも、この辺りの濃い魔力のおかげか、これでも強い。


「ぐぐぐ……」


 十分かどうかは、難しいけど。

 肌色トカゲはなんでそんなにこだわっているのかわからないけど、ドワーフの里に向かうことにばかり集中して、俺の邪魔を無視しようとしている。


 だけど、そうはいかない。


「こっちを……向けっ!」


【念動】の一部を爪のように鋭くして、肌色トカゲに食い込ませる。

 カル教授に教えてもらった術理技【硝子爪】だ。

【念動】からの応用技は、見えないだけにとても強い。

 これを使いこなせるカル教授は、とても強い。

 それなのに高深度のダンジョンに行けないのだから、俺でも不満は溜まってしまう。


 ギィィィィ。


 肌色トカゲが、変な鳴き声を上げながらこっちを見た。


「ようやく俺と戦う気になったか?」


 だけど、自分で足を止めたのなら【念動】をそっちに割り振る必要もない。


【念爆】。


【俯瞰】の術理力を衝撃力に変換する【虎牙】の応用技だ。

 やっていることは【虎牙】とそう変わりないんだけど、鍛えたからか、術理力じゃなくて魔力を使っているからか、衝撃波の発生がもっと大きくなって、周囲まで爆発している。

 威力が拡散してしまって、勿体無い。

 ううん、もっと制御して爆発力を収束させないと。

 いろいろ勿体無い状態だ。


 属性があればこれを火とかにできるんだろうけど、術理技ではそこまではできない。


 やはり、爆発力の収束が甘かったから、肌色トカゲはあちこちに傷を作っただけで動けている。

 こちらを見たその顔は、やっぱり人間だった。

 だけど、目の色に知性は感じられない。

 手足とか体色とか顔とか、人間要素がこんなに多いのは変化したてだからか?

 時間が経ったら、あの肌に鱗が生えてきたり、顔もあの体に適応したものに変化していったりするんだろうか?


 あの状態で固定されるんだったとしたら、なんか嫌だな。


 カル教授に覚悟を聞かれた時に俺が答えた嫌なパターンを、まさしくこいつらが形にしている。


「顔が人間なら、まだ話せたりするのか?」


 ギィアアアアアアアアッ!


 刃喰を抜いて問いかけてみたけれど、答えは吠え声だけだった。

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