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108 キヨアキの炎



 キヨアキは考える。

 どうして自分は強くないのか?

 強いはずじゃなかったのか?

 そして、強ければそれで全てがうまくいくはずじゃなかったのか?


 キヨアキの父はそう言っていた。

 家の誇りだと。

 お前が、家をさらに飛躍させるのだと。

 だからこそ、強く生まれたのだと。


 だが、父は不正によって逮捕された。

 父が不正をしていたことよりも、父がしていたことが正しくなかったことがキヨアキにとってはショックだった。

 つまりそれは、父の言っていたことも正しくないということになるのではないか?


 ならばそれは、キヨアキが強いということも正しくないということなのか?


 いいや、そんなはずはない。

 父の全てが間違っていたとしても、この事実だけは間違っていないはずだ。


 俺は、強い。


 キヨアキはそれだけを念じる。


 いまの力が足りないのだとしても、強いという事実を確定させるための道をキヨアキは進み続けているはずだ。

 その道の先に立ち塞がるように現れた男。


 山梁タケル。


 キヨアキよりも明らかに強い存在。

 意識してしまった当初は、排除してしまえばいいと思っていた。

 不快な存在。

 いなくなってしまえと。

 どんなものだって、見なければそれは存在しないも同じなのだから。


 だけど、父の不正が発覚してキヨアキ自身の状況が変わったときに思った。

 つまりこいつは、強くなるための障害なのだと。

 倒し、乗り越えることがキヨアキに課せられた試練なのだと。


 カル教授も言っていたではないか。


「君の属性は一見すると平凡なものだが、面白いものが潜んでいる気がするよ。そう、まるで運命そのものを操作しているかのような、ね」


 ……と。


 つまりやはり、俺は強い。

 そしてそれを確固たるものにする道は存在する。


 ヤンの存在には驚かされた。

 自分たちとは勢力を別にするダンジョンで生きる人類がいることは知っていたが、そんな人間に遭遇するだけでなく、はるかに強い存在という者を見た。

 学園にいるだけではわからない、熟練の適性者の強さと、そしてそれを敵にする恐ろしさを知った。

 だが、それはいずれ克服する道でしかない。


 それよりもヤンたちに捕まった先でタケルに会うことになるとは思わなかった。

 そこで地上にいくことになるのも。


 そこから、さらに自分の道が混迷していくことも。


 タケルの指示を信じられない者たちと行動をともにした結果、地上のモンスターに捕まることになった。

 人の形をしていないものと意思の疎通ができることは、なにか気味が悪い。


 そしてそれ以上に、こんな状況であのタケルにたすけられなければならないという状況は、もっと気持ち悪い。


 だから、拒んだ。

 トバーシアたちの、キヨアキから見ればもどかしい戦い方の末、タケルが勝ち続け、囚われていた仲間はキヨアキだけとなった。

 自分までタケルにたすけられるなんて、絶対に嫌だ。


 そうしていると、なぜか荒くれ者のトバーシアに気に入られてあることを教えてもらった。

 それが龍穴だ。

 教えてもらってすぐにそこに向かったのだが、煙を噴き上げるその異様と、吹き付けられる魔力の風を受けて、短気なキヨアキですらこのままではダメだと思った。


 だから、龍穴が見える場所で修行を行った。

 それは独学ながら魔力を濾過して術理力を抽出していた元来のやり方をやめて、魔力を直接体に取り入れて活用する方法であり、そしてキヨアキは無事にそれを成功した。


 キヨアキの属性が『火』であったことも、功を奏したのかもしれない。

 龍穴は元来、火山だ。

 そこに残るマグマの熱が、キヨアキの属性を奮い立たせたのかもしれない。


 ヤンたちと再び出会ったのも偶然だ。

 だが、キヨアキはそれが自分の導き出す道であると確信した。

 いまこそ、動くべき時なのだと。

 カル教授の接触を受けたヤンたちはキヨアキも受け入れ、ともに龍穴へ向かった。


 濃密な魔力が自分たちを取り巻く。

 ダンジョンでも感じたことのない高揚感が湧き上がる。

 当初感じた危機感はもうない。

 修行した意味があったのだと思わせた。


 ヤンたちは五人だった。

 もっといたはずだが、合流するまでに色々あった結果、減ってしまったのだろう。

 そのうちの二人が、山を登る途中で変化した。

 その二人は、後から来るだろうカル教授……に付属してくるかもしれないタケルたちを引き剥がす役が与えられた。

 命じたのはヤンだ。

 キヨアキに命令権などないのだから仕方ない。

 それよりも変化して知能が下がっている様子があったのが気になった。

 次の変化は山頂の側だった。

 その人物は、元の知能を戻しているようだった。

 さらに前の二人よりも強力そうだ。


 なら、もっと近づけばどうなのか?

 ヤンともう一人、フーレインとかいう女も同じ考えに至ったようだ。

 三人で火口へと向かっていく。


 最初にフーレインに変化が訪れた。

 そして次に、ヤン。

 キヨアキはなんとか耐えきり、青く輝く火口の中に足を踏み入れた。


 これが俺の道の終着点なのか?

 それともさらに先があるのか?

 あるはずだ。

 そしてこの道までだ。

 奴が、タケルが障害として居座るのは。


 ここで、奴を排除する。

 もう、前にいることは許さない。

 それだけ強く願い、キヨアキは沈んでいった。

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