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10-6: Shadows of Purpose(目的の影)

戦場を駆ける。

俺――黒磯風磨は、一人で神徒の群れを押し返していた。

振り下ろした巨剣が黒い血を撒き散らし、呻き声と共に一体の神徒が崩れ落ちる。

だが、それでも戦況は変わらない。押し寄せる敵は止まる気配がなかった。

俺は前へ、ただ前へと進む。

「オオオオオ!!」

巨体の下級特殊神徒が襲いかかる。

俺はすかさず横に跳び、巨剣を地面に突き刺す。

「喰らえッ!」

剣に込めたエネルギーが炸裂し、衝撃波と共に神徒の腕を吹き飛ばす。

「ハァッ……!」

そのまま剣を振り抜き、体勢を崩した神徒の胴を断ち切る。

黒い液体が噴き出し、倒れる。

「次……!」

俺は息を整える間もなく、別の神徒を迎え撃つ。

塔の時計は残り20分を指している。

この時間を持ちこたえられるのか?

いや、それ以前に……。

結局、俺は……なにをやっている……?

俺は、この戦場で、なにを成せた……?

周囲を見渡す。

特級神徒と戦うイニシエーターズの姿が目に入る。

彼らは桁違いの力で敵を圧倒していた。

一方、まだピーターパンですらない雷と翠すらも、特級神徒を足止めしている。

その戦いぶりに、俺は思わず足を止めた。

……皆が全力を尽くしているのに、俺だけがただ戦場を駆けているような気がした。

「くそっ……俺がもっと強ければ!」

巨剣を握りしめる手に、力がこもる。

何人もの仲間が倒れた。

なぜ俺は守れなかった。

矢神臣永――あの人なら、どうしていただろう?

俺は……このままでいいのか?

「ねえ、強くなりたくない?」

ふいに背後から声が聞こえた。

戦場の喧騒とは別の、まるで耳元で囁かれたかのような、静かな声。

俺は反射的に振り向いた。

そこにいたのは、黒いフードを目深に被った謎の人物だった。

「誰だ……?」

巨剣を構えながら睨みつける。

だが、相手は微動だにせず、ただそこに立っている。

「あなたの力を引き出してあげられる。条件は一つ――私に従って」

低く響く声。

その言葉は、どこか聞いたようで……わずかに甘美で……そして不気味だった。

「ふざけるな!」

俺はすぐさま距離を詰め、剣を振るおうとした。

だが――。

この距離なら、斬れるはずなのに、剣が届かない。

剣を振り下ろした瞬間、何かが揺らいだような感覚があった。

目の前の人物は、影のように消えていた。

「クエストの終了間際、4の門。城壁の下。あるはずのない影を見つけたら、飛び込んで」

どこからか、声だけが響く。

「飛び込んだら、どうなる?」

「あなたに、この戦争の――世界の、秘密を教えてあげる」

「……」

「考えておいて。その秘密を知れば、あなたは、もっと強くなれる」

その言葉を最後に、影は完全に消えた。

俺は何も言えず、ただ剣を握る手に力を込めた。

影の中で聞こえたあの声は、戦場の騒音とは異質だった。

俺に選択を迫るかのような、冷たく、それでいて確信に満ちた声。

強くなりたいか?

俺は、ゆっくりと剣を握り直した。

そして――

塔の時計を見上げる。

残り15分。

俺の心は、戦場とは違う何かに揺れ始めていた。



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