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11-1: The Forced Decision(迫られた決断)

戦場の喧騒は消え去り、沈黙が支配する――。

作戦本部は、オペレーターたちの指示が飛び交い、モニターには無数のデータが映し出されていた。壁一面を覆う大型スクリーンには、各部隊の損傷、戦果、プレイヤーのステータスがリアルタイムで流れている。

そんな無機質な場所で、俺たちは勝利の余韻に浸る暇はなく、その知らせを聞いた。

「矢神のアカウントデータ、確認した」

早乙女美月の冷静な声が響く。

その言葉に、俺は息をのんだ。

「じゃあ、矢神さんは……戻ってくるのか?」

秋月一馬が拳を握りしめながら尋ねる。

「データは無事よ。でも……」

美月の声が一瞬、ためらいを含んだ。

「ただの復元ではなく、『解凍』が必要だっていうの。つまり、解凍すれば……」

「矢神臣永は……ピーターパンではなくなる」

白波梓が静かに言葉を継いだ。

「……どういうことだよ?」

一馬が顔をしかめる。

「そのまんまの意味よ。解凍すれば……ピーターパンの枠組みから外れて、"ただのプレイヤー"になる」

「それって……まさか引退ってことか?」

「可能性は高い」

その言葉に、場の空気が凍りついた。

俺たちの矢神臣永が、戦場に戻ってこないかもしれない――。

「でも、もう十分じゃない?」

沈黙を破ったのは、ヴァレンティナだった。

「矢神はこの戦争で何年も戦ってきた。もう、彼が戦う理由はないはずよ」

彼女は腕を組み、冷静に言い放つ。

「このまま彼を引退させる。それが最善じゃない?」

「そんな……!」

俺は叫びそうになったが、言葉を飲み込んだ。

ヴァレンティナの言うことも、間違ってはいない。 矢神はもう十分に戦った。誰よりも長く、誰よりも多くの仲間を救ってきた。 彼がこのまま安らげるなら――それが一番なのかもしれない。

「しかし、お姉さま」

EU支部の戦乙女、フレイヤがヴァレンティナに言った。

「ここで矢神臣永を失うのは、世界にとって損失では?」

「そうそう」同じく戦乙女のひとり、サーラも頷く。

「それに、解凍しないことには、復帰か引退かもわかんないしなあ。なあ、イーダ?」

「知らない」戦乙女の一人、イーダは興味なさそうに肩をすくめる。

EU支部の面々が勝手に話を進める中、俺は拳を握り、ただ黙っていた。

その時――。

「黒磯先輩が……」

小さな嗚咽が、静寂を破った。

天草結衣が、涙をこぼしながら震えていた。

「黒磯先輩が……戻ってこないんです……」

その一言に、俺たちは息を呑んだ。

「……どういうことだ?」

「わからないんです……」

天草の声が震える。

「でも、どこにも、ログアウトの形跡がなくて……」

「……まさか」

俺の心臓が冷たくなった。

「それだけじゃないです……」

天草は目を赤くしながら続ける。

「凪ちゃんも、いないんです……」

その言葉に、場の空気が一気に重くなる。

「何だと……?」

俺は喉が詰まるような感覚に襲われた。

水上凪――彼女もまた、黒磯と共に姿を消したというのか?

「水上を最後に見たのはいつだ……?」

美雪が小さな声で呟いた。

「わかりません……凪ちゃんは……」

「今いないということは、そういうことだ」

ヴァレンティナが淡々と告げた。

「だから、諦めなさい」

「そんなの、諦められるわけないだろ!」

一馬が怒鳴った。

「黒磯と水上は仲間だぞ!? 放っておけるわけねえだろ!」

「戦場では、割り切ることが大切よ」

ヴァレンティナは表情ひとつ変えずに言う。

「今は次の作戦を考えるべき。彼らを取り戻すための戦力は?」

「そんなの……」

俺は拳を握りしめた。

今、俺たちに何ができる?

ピーターパン部隊は満身創痍。プレイヤーたちも消耗しきっている。

ここで、俺たちは――。


ピロン――!


突如、電子音が鳴り響いた。

「……新しいクエスト?」

早乙女美月が画面を操作しながら眉をひそめる。

「二つ……出てるわね」

その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。

「二つ……?」

俺は緊張しながら、彼女の画面を覗き込んだ。

「美月さん、そのクエストの内容は……?」


《クエスト①: 解放の鍵》

――最強の戦士を取り戻す鍵を探せ。危険度: SSS

《クエスト②: 闇の深淵》

――失われたプレイヤーを救え。危険度: SS

※なお、本クエストは必須クエストとはみなさない。


「……このクエストは…………"矢神を取り戻す鍵"……?」

息を呑む。

「あの人を……救えるかもしれないってことか?」

「いや、それだけじゃない」

三輪蓮が慎重な声で言う。

「もう一つのクエスト……”失われたプレイヤーを救え"……?」

「つまり……」

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

「黒磯と水上を、助ける手がかりがあるってことか……?」

場の空気が、一気に変わる。

そして、俺たちは決断を迫られた――。

最強のプレイヤー、矢神臣永を取り戻すか。

友人であり戦友の、黒磯と水上を救うか。

この決断が、俺たちの未来を大きく変えることになる。



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