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11-2: The Special Task Force(特別小隊、始動)

「クエストが二つ――?」

美月の静かな声が響いた。

俺たちは戦場に残されたまま、通信機に映し出された新たなクエストを見つめる。


《クエスト①: 解放の鍵》

――最強の戦士を取り戻す鍵を探せ。危険度: SSS

《クエスト②: 闇の深淵》

――失われたプレイヤーを救え。危険度: SS

※なお、本クエストは必須クエストとはみなさない。


「……矢神を取り戻す手段があるってことか?」

秋月一馬が眉をひそめながら画面を見つめる。

「でも、もう一つのクエストは……」

三輪蓮が慎重な声で言う。「"失われたプレイヤー"……って、黒磯のことか?」

「……たぶん、そうだろ」

一馬が言う、

そんな時、遠野美雪が小さく呟いた。

「助けに行きたい」

彼女の声は静かだったが、その奥には強い決意が感じられた。

「……だが、本部は矢神の解凍と第二波に備えて人員は割けない」

美月の言葉が場を支配する。

「いま、龍崎指令がEU部隊と調整中よ。おそらく、解放の鍵のクエストに回す。中国支部と合同で大隊を結成することになるはず」

「つまり、"黒磯奪還"のほうは、手をつけないってことか?」

一馬が語気を強める。

「そうよ。いま、任意クエストをやっている暇はない」

「任意……?」

天草結衣がぽつりと呟いた。

「黒磯先輩が……いなくなったのに?」

天草結衣の震える声が、静まり返った作戦本部に響いた。

だが、早乙女美月はその言葉に答えず、そっと視線を逸らした。

「……分かってるわ。でも、優先すべきは矢神の解凍。それに、第二波が来る可能性もある。無闇に戦力を割くことはできないのよ」

「そんなの……!」

天草の目に涙が溜まる。

「黒磯先輩は……まだきっと生きてる! なのに、見捨てるんですか!?」

その言葉に、沈黙が広がった。

「……」

誰も、すぐには答えられなかった。

「EU部隊は大型クエストに専念する。ピーターパン部隊も戦力を温存すべきだ」

その冷徹な声が響いた瞬間、作戦本部の入り口が開き、龍崎司令が姿を現した。

「龍崎司令……」

美月が敬礼をする。

彼の表情には深い疲労が滲んでいた。

先ほどまで各国との調整を行っていた彼が、重たい決断を下したのは明らかだった。

「EU支部、中国支部と協議し、部隊を再編成した」

龍崎は疲れた様子で椅子に座り、無造作にモニターを操作しながら続ける。

「結論として、現状で、SS級の救出クエストに戦力を割く余裕はない」

その言葉に、場の空気がさらに重くなる。

「じゃあしゃあねえな。な、イーダ?」

サーラが肩をすくめながら隣の戦乙女に話しかける。

「だから……知らないって」

イーダはつまらなそうに視線を逸らす。

「ふんっ……これが現実だ……矢神臣永を優先するのは当然」

フレイヤが冷静に言い放つ。「友人のことは、"あきらめる"んだな」」

その言葉に、天草の顔が歪んだ。

「なら、私ひとりでも…!」

天草が涙を拭い、必死に訴えた。

だが――

「舐めるな。難易度SSのクエストだぞ」

ヴァレンティナが冷たく告げた。

「気持ちだけではどうにもならない壁という者がある――下がっていろ。力のない者がむやみに戦場に出れば、損失を増やすだけだ」

鋭い言葉が天草の胸に突き刺さる。

「……私は、何もできないんですか?」

天草の震える声が、静まり返った作戦本部に広がった。

ヴァレンティナは答えなかった。ただ、静かに背を向ける。

「……自分で考えろ」

天草は唇を噛み締め、拳を握りしめた。


――寮の談話室。

俺たちは無言でソファに座っていた。

テーブルには誰も手をつけないままのコーヒーが冷めている。

気まずい空気。誰もがこの状況に苛立ち、しかしどうすることもできない。

その沈黙を破ったのは――

「俺たちだけで行こう」

その場に静寂が落ちた。

俺の言葉に、全員が驚いたようにこちらを見る。

「賢くん……」

美雪が目を見開く。

「行くって、どういう意味だ?」

一馬が問いかける。

「もちろん、黒磯と水上を助ける」

俺ははっきりと言った。

「誰が見捨てるって決めた? ここで行動しなかったら、絶対に後悔する」

「だが、戦力は……」

三輪蓮が慎重に言葉を選ぶ。

「だから、特別小隊を作る」

俺は彼を見て言った。

「本隊の戦力を割かずに、少数精鋭で挑む」

「数人程度ならなんとかなるだろ。ログインして、クエストを開始しちまえばこっちのもんだ」

「でも、SSクエストなら、クエストを始めるのに、少なくともピーターパンがひとり必要」

三輪が静かに指摘する。

「緋野は?」と俺

「彼女はエース級、能力も応用が効くから、さすがに削れない。それに、まだ候補だし」

「じゃあ、僕が出るよ」

唐突に通信が入った。

モニターに映し出されたのは、チャットウィンドウ。

そこに表示された名前を見て、俺たちは息をのんだ。

「浮水……!?」

彼はピーターパン部隊の一員。いまは冷凍睡眠中のはず――。

「浮水さん……いいんですか?」と美月。

「いま、僕が出るって言ったはずだけど」

画面の向こうで、浮水は相変わらず淡々としていた。

「よし、ならこれで決まりだな!」

一馬が拳を鳴らす。

「リーダーは浮水。メンバーは俺、天草、蓮、一馬、美雪!」

「ちょっと待って」

「ああ? なんだと」

「えっと、天草……かな。君はだめだ」

浮水の冷静な一言が、場を凍らせた。

「なんで!」と天草

「戦力的に。それに、君、さっきのクエストでも、みんなを守るために無茶ばかりしてた。そういう子は危なくて使えない」

天草は拳を握りしめ、震えながら唇を噛み締めた。

「……わかってるんです」

彼女の声は震えていた。

「私が力不足だってこと……みんなみたいに戦えないこと……足手まといだってこと……!」

握り込んだ拳が、白くなるほど強張っている。

「黒磯先輩を助けたい。でも、私は弱いから、邪魔になる……?」

彼女は俯きながら、肩を震わせる。

「無理して、何かを守ろうとしたら、それは"無茶"になるんですか……?」

俺は何も言えなかった。

天草は普段、控えめで人の後ろに立つことが多い。けれど、あの戦場では、誰よりも必死に動いていた。

皆を守るために、全力で戦っていた。

それを"無茶"と呼ぶのか――。

「じゃあ、どうすればいいんですか……?」

彼女は顔を上げ、涙を浮かべながら俺たちを見た。

「私が今できることって……何なんですか?」

答えられる言葉は、なかった。

「君はまだ強くなれるよ」

浮水が静かに言った。

「でも、今の君を連れていくことはできない」

「……!」

天草は唇を噛み締める。

「今のままじゃ、君はきっとまた無茶をする。そして、それが仲間の負担になる」

浮水の言葉は冷静で、淡々としていた。でも、彼なりの優しさが滲んでいた。

「だから、今回は俺たちに任せて」

天草は震えながらも、それでもなお、何かを言おうとした。

「……でも……」

けれど、その言葉は最後まで続かなかった。

彼女は瞳を閉じ、深く息を吸い込んだ。

そして、まるで自分に言い聞かせるように――

「……お願いします……!」

彼女は涙をこぼしながら、俺たちを見た。

「私の代わりに、黒磯先輩を助けて……!」

「ああ」

俺は静かに頷いた。

「俺たち5人で必ず助け出す」

待ってろよ、黒磯!水上!

天草の想いを胸に、俺たちは走り出した。


――作戦本部・廊下

廊下を歩きながら、蓮が冷静に問いかける。

「お前、本当にやれると思ってるのか?」

「やるしかないだろ」

俺は即答した。

「……ったく。なんで僕のまわりは前向きバカばかり……」蓮は肩をすくめ、前を向いた。

その時――

「監視されてるってこと、知らなかったの?」

背後から、静かな声が響いた。

振り向くと、そこには早乙女美月副指令が立っていた。

「副指令……!」

「あなたたちの行動は、逐一監視しているわ」

彼女は淡々と告げる。

「それに、クレイドルのある部屋も、私の権限で開閉が制御できる」

「じゃあ!」

俺達は立ちすくむ。

しかし、次の瞬間、

「許可する」

と、早乙女美月の声が廊下に響いた。

「え、いいんですか?」

遠野美雪が不安げに聞く。「副指令……これって規律違反になるんじゃ……?」

「なるわよ」

美月は淡々と答えた。「それでも、これが"大人の役割"よ」

「早く行きなさい。時間は限られている。龍崎指令が気付いたら、上位権限で部屋を封鎖される」

彼女の言葉に、俺たちは何も言えない。

「無駄な戦闘は避けること。それと、私からの追加のミッションよ」

彼女は続けて言った。「必ず生きて、7人で戻りなさい」

「はい!!」

その声に背中を押されるように、俺たちは動き出した。


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