ズゥゥゥン……!
大地が震え、俺たちの視界を土埃が遮る。
「……みんな、平気か!?」
俺が言うと、周囲からみなの声が聞こえた来た。
「やれやれ……手荒だね……」
浮水が双閃刀を振り、土埃を一気に切り払う。
その時――
「ここから先は、行かせねえ」
巨大な影が、消えゆく砂塵の中からゆっくりと姿を現した。
肉厚な体躯。堂々とした立ち振る舞い。
特級神徒・
俺たちを睨みつけながら、不敵に笑う。
「お前たちみたいな連携重視のチームが一番面倒くせぇんだよ」
増長は肩を回しながら、地面を踏みしめた。
「だからあえて、まとめてブッ潰す」
ゴゴゴゴ……
地面が揺れ、空気が重くなる。
「チッ……」
秋月が苛立たしげに拳を鳴らす。
「こいつ、ひとりで全員やる気かよ……!」
「一馬、落ち着いて。こいつと真っ向から力で戦ってもダメだ。戦術で対応しないと、ジリ貧の長期戦になるぞ」
三輪が冷静に分析する。「長期戦になったら、黒磯と水上が危ない……」
「じゃあ、どうすんだよ――!」
「誰かが一人残ってこいつを相手する……とか」
「特級相手にひとり!? 蓮、それこそ無茶だぜ!」
ふたりの会話を聞き、俺も唇を噛む。
一体、どうすれば――……
「私がやります」
静かに、美雪が前に出た。
「美雪……?」
「私が増長を引き受けます」
彼女はレイピアを構え、真っ直ぐに増長を見据える。
「ここで誰かが足止めをしないと、黒磯くんも、凪ちゃんも救いにいけない」
「いや、でも……」
俺は思わず言いかけた。
「大丈夫です。私、こう見えて逃げ足には自信があるんです」
美雪は微笑んだ。「だから、いざとなっても、死にはしませんよ」
その笑顔には、少しの嘘と、強い覚悟が宿っていた。
「……遠野」秋月が唇を噛む。
蓮も一瞬迷ったような表情を見せた。「リーダー、どうする……?」
問われた浮水は、細く息を吐いてから、「うん。頼んだ」と遠野に頷いた。
俺は拳を握りしめたまま、美雪の背中を見つめた。
「賢くん」
美雪が俺の方を向く。
「凪ちゃんを、よろしくお願いします」
「……任せろ」
それだけ言って、俺たちは走り出した。
美雪を信じて――黒磯を救うために。
* * * * *
――――ドンッ!!
賢くんたちが駆け出した瞬間、増長の拳が地面に叩きつけられた。
ズガァァァン!!
巨大な衝撃が走り、大地がめり込む。
「おいおい、俺を無視して行くつもりかよ?」
増長がゆっくりと顔を上げる。
だが、その前には――
「行かせません」
私が立ちはだかった。
「チッ……」
増長は舌打ちをしながら、私を睨む。
「お前が相手ってわけか。へぇ、女が来るとは思わなかったな」
増長は肩を回しながら、ニヤリと笑う。
「まぁいい。俺のやることは変わらねぇ。ぶちのめして、先へ進めないようにするだけだ」
私は静かに剣を構えた。
増長は低く笑いながら、こちらに歩み寄る。
「くくっ、お前みたいな細いのはな、速さがウリだろうが、それだけじゃ、戦場じゃあただの足手まといなんだよ」
増長は嗤いながら拳を鳴らす。
「……」
私は静かにレイピアを構え直した。
増長の言葉には、何の意味もない。
ただ、そう思おうとした。
だが――
「考えてみろよ。今まで、お前が戦場でやってきたことをな」
増長は肩を回しながら続ける。
「味方のサポート? カバーキル? そんなもんじゃ、戦場じゃ生き残れねぇ」
私は歯を食いしばる。
「お前みたいな奴がいくら細工を凝らそうが、俺みたいな格上に一発殴られたら、それで終わりだ」
増長はゆっくりと拳を振り上げた。
「そういうやつを、俺は何人も見てきた。そして、全員同じ結末を迎えた――」
「速さじゃ、力には勝てねぇんだよ」
「……そんなこと、あるわけない!」
私はレイピアを強く握る。
「戦場では、力だけじゃない。速さこそが、生存を分けるんです!」
「……へぇ?」
増長はニヤリと笑う。
「なら証明してみな。お前の"速さ"が、俺の拳を超えられるってことをな!」
ドンッ!!
増長が地面を踏みしめただけで、衝撃波が走る。
「っ!」
私は即座に跳躍し、空中で回避する。
しかし――
ズガァァァァン!!
増長が跳び上がり、拳を振り下ろした瞬間、爆発的な衝撃が走った。
「ぐっ……!」
私は吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。
口の中に血の味が広がった。
「お前の言う"速さ"は、今どこにある?」
増長が笑う。
「お前がどれだけ速く動こうが、こうして迎え撃てば意味ねぇんだよ」
「……」
私はゆっくりと立ち上がる。
「あなたの攻撃は確かに重いです」
傷ついた身体を支えながら、増長を見上げる。
「ですが、重い分だけ……"遅い"」
「何だと?」
増長が鼻で笑った。
「遅い……だぁ?」
「戦場では、"速さ"が力を凌駕することもあるんです」
私はレイピアを握りしめ、瞳を鋭く細めた。
「どれだけ力が強くても、当たらなければ意味がない」
「ほう?」
増長が腕を回しながら構える。
「言ってくれるじゃねぇか……じゃあ、見せてもらおうか」
私は静かに息を整えた。
「私の速さが、あなたの拳を上回ることを」
次の瞬間、私は地を蹴った――。
風を切る速さで、増長へと駆ける。