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11-4: Blades of Determination(美雪の戦い・前編)

ズゥゥゥン……!

大地が震え、俺たちの視界を土埃が遮る。

「……みんな、平気か!?」

俺が言うと、周囲からみなの声が聞こえた来た。

「やれやれ……手荒だね……」

浮水が双閃刀を振り、土埃を一気に切り払う。

その時――

「ここから先は、行かせねえ」

巨大な影が、消えゆく砂塵の中からゆっくりと姿を現した。

肉厚な体躯。堂々とした立ち振る舞い。

特級神徒・増長ぞうちょう

俺たちを睨みつけながら、不敵に笑う。

「お前たちみたいな連携重視のチームが一番面倒くせぇんだよ」

増長は肩を回しながら、地面を踏みしめた。

「だからあえて、まとめてブッ潰す」

ゴゴゴゴ……

地面が揺れ、空気が重くなる。

「チッ……」

秋月が苛立たしげに拳を鳴らす。

「こいつ、ひとりで全員やる気かよ……!」

「一馬、落ち着いて。こいつと真っ向から力で戦ってもダメだ。戦術で対応しないと、ジリ貧の長期戦になるぞ」

三輪が冷静に分析する。「長期戦になったら、黒磯と水上が危ない……」

「じゃあ、どうすんだよ――!」

「誰かが一人残ってこいつを相手する……とか」

「特級相手にひとり!? 蓮、それこそ無茶だぜ!」

ふたりの会話を聞き、俺も唇を噛む。

一体、どうすれば――……

「私がやります」

静かに、美雪が前に出た。

「美雪……?」

「私が増長を引き受けます」

彼女はレイピアを構え、真っ直ぐに増長を見据える。

「ここで誰かが足止めをしないと、黒磯くんも、凪ちゃんも救いにいけない」

「いや、でも……」

俺は思わず言いかけた。

「大丈夫です。私、こう見えて逃げ足には自信があるんです」

美雪は微笑んだ。「だから、いざとなっても、死にはしませんよ」

その笑顔には、少しの嘘と、強い覚悟が宿っていた。

「……遠野」秋月が唇を噛む。

蓮も一瞬迷ったような表情を見せた。「リーダー、どうする……?」

問われた浮水は、細く息を吐いてから、「うん。頼んだ」と遠野に頷いた。

俺は拳を握りしめたまま、美雪の背中を見つめた。

「賢くん」

美雪が俺の方を向く。

「凪ちゃんを、よろしくお願いします」

「……任せろ」

それだけ言って、俺たちは走り出した。

美雪を信じて――黒磯を救うために。

* * * * *

――――ドンッ!!

賢くんたちが駆け出した瞬間、増長の拳が地面に叩きつけられた。

ズガァァァン!!

巨大な衝撃が走り、大地がめり込む。

「おいおい、俺を無視して行くつもりかよ?」

増長がゆっくりと顔を上げる。

だが、その前には――

「行かせません」

私が立ちはだかった。

「チッ……」

増長は舌打ちをしながら、私を睨む。

「お前が相手ってわけか。へぇ、女が来るとは思わなかったな」

増長は肩を回しながら、ニヤリと笑う。

「まぁいい。俺のやることは変わらねぇ。ぶちのめして、先へ進めないようにするだけだ」

私は静かに剣を構えた。

増長は低く笑いながら、こちらに歩み寄る。

「くくっ、お前みたいな細いのはな、速さがウリだろうが、それだけじゃ、戦場じゃあただの足手まといなんだよ」

増長は嗤いながら拳を鳴らす。

「……」

私は静かにレイピアを構え直した。

増長の言葉には、何の意味もない。

ただ、そう思おうとした。

だが――

「考えてみろよ。今まで、お前が戦場でやってきたことをな」

増長は肩を回しながら続ける。

「味方のサポート? カバーキル? そんなもんじゃ、戦場じゃ生き残れねぇ」

私は歯を食いしばる。

「お前みたいな奴がいくら細工を凝らそうが、俺みたいな格上に一発殴られたら、それで終わりだ」

増長はゆっくりと拳を振り上げた。

「そういうやつを、俺は何人も見てきた。そして、全員同じ結末を迎えた――」

「速さじゃ、力には勝てねぇんだよ」

「……そんなこと、あるわけない!」

私はレイピアを強く握る。

「戦場では、力だけじゃない。速さこそが、生存を分けるんです!」

「……へぇ?」

増長はニヤリと笑う。

「なら証明してみな。お前の"速さ"が、俺の拳を超えられるってことをな!」

ドンッ!!

増長が地面を踏みしめただけで、衝撃波が走る。

「っ!」

私は即座に跳躍し、空中で回避する。

しかし――

ズガァァァァン!!

増長が跳び上がり、拳を振り下ろした瞬間、爆発的な衝撃が走った。

「ぐっ……!」

私は吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。

口の中に血の味が広がった。

「お前の言う"速さ"は、今どこにある?」

増長が笑う。

「お前がどれだけ速く動こうが、こうして迎え撃てば意味ねぇんだよ」

「……」

私はゆっくりと立ち上がる。

「あなたの攻撃は確かに重いです」

傷ついた身体を支えながら、増長を見上げる。

「ですが、重い分だけ……"遅い"」

「何だと?」

増長が鼻で笑った。

「遅い……だぁ?」

「戦場では、"速さ"が力を凌駕することもあるんです」

私はレイピアを握りしめ、瞳を鋭く細めた。

「どれだけ力が強くても、当たらなければ意味がない」

「ほう?」

増長が腕を回しながら構える。

「言ってくれるじゃねぇか……じゃあ、見せてもらおうか」

私は静かに息を整えた。

「私の速さが、あなたの拳を上回ることを」

次の瞬間、私は地を蹴った――。

風を切る速さで、増長へと駆ける。


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