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11-5: Wings of Resolve(美雪の戦い・中編)

ズゥゥゥン……!!

大地が震え、渓谷全体に轟音が響く。 増長が拳を地面に叩きつけた衝撃で、地面が陥没し、巨大な亀裂が広がった。

「くっ……!」

私は素早く跳躍し、足元が崩れ落ちるのをギリギリで回避する。だが、その瞬間――。

界穴かいけつ!!」

増長が低く呟くと、周囲の岩が歪み、瞬く間に私の足元を包み込んだ。

「なっ……!?」

膝下までが土に埋まり、まるで鉛のような重圧が足を固定する。

「お前みたいな足だけが取り柄の小賢しい奴は、こうやって封じるのが一番手っ取り早いんだよ」

増長は嗤いながら拳を鳴らす。

「さあ、ここからどうする?」

「うぅ……」

ダメだ。このままじゃ――。

「……凪ちゃん……」

足元の土の感触が、遠い記憶を呼び起こした。

かつて、水上凪が私にそっと渡してくれた、小さなクリスタルのペンダント。

『美雪ちゃん、これね、不思議な力があるんだって』 『なんの力?』 『うーん、わかんないけど……「ここぞ」って時に使うといいらしいよ!』

凪はそう言って、屈託のない笑顔で渡してくれた。

あの時の笑顔が、脳裏によみがえる。

「……今が、その時みたいね」

増長が不審そうに私を見下ろす。

「なに企んでんだ?」

私は震える指で、懐に隠し持っていたペンダントを取り出し――。 それを、力強く握り潰した。

パリンッ――!

砕けた瞬間、淡い青い光が私の全身を包み込む。

「――これが、私のすべてです」

私は決意を込めて、その光を受け入れた。

ゴォォォォ……!!

灼熱が全身を駆け巡る。血が沸騰するような感覚に、思わず歯を食いしばった。

「うっ……!!」

筋肉が軋み、神経が研ぎ澄まされていく。 感覚が研ぎ澄まされると同時に、身体が異常なまでに軽くなる。

「な、んだと……?」

増長の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。

「スキル――風過災撃ふうかさいげき

私の姿が、瞬間的に消えた。

ヒュンッ!!

「なっ……!? どこに――」

増長が狼狽する間に、私はすでに彼の背後に回り込んでいた。

「そこです」

ズバァァッ!!

一閃。増長の左腕に深い切り傷が刻まれる。

「ぐっ……!」

「何が起こったかわからない?」

私は静かに言う。

「これが風過災撃。私の反応速度と身体能力を、限界を超えて引き上げる技です」

増長は傷口を押さえながら、苦々しく笑った。

「チッ……! だがな、そんなもんで俺を倒せると思うなよ!!」

「次は、もっと深く斬ります」

私は増長を見据えながら、再び姿を消す。

ヒュンッ!!

「くそがああ!!」

増長が拳を振り回すが、すでに私は彼の攻撃範囲から消えている。

「風過災撃・乱舞!」

ズバババババッ!!

連続する斬撃が増長の身体を抉り、血飛沫が舞う。

「ぐっ……!!」

ついに彼の巨体が揺らいだ。

「これで……決める!」

私は一気に距離を詰め、渾身の突きを繰り出した。

「風過災撃・最終撃!」

ドゴォォォン!!

増長の巨体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。

「……決まった!?」

私は息を切らしながら、倒れ込んだ増長を見下ろした。

「……や、るじゃねぇか」

増長が血を流しながら笑う。

「けどな、そのスキルってのは、効果がいいぶん、長く持たねぇんだろ?」

「……っ!」

急激に視界が歪み、全身の力が抜ける。

「副作用……が……」

その場に膝をつきかけ、私は前を見た。

まだ敵は倒れてない。 この戦いは、まだ終わっていない――!


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