ズゥゥゥン……!!
大地が震え、渓谷全体に轟音が響く。 増長が拳を地面に叩きつけた衝撃で、地面が陥没し、巨大な亀裂が広がった。
「くっ……!」
私は素早く跳躍し、足元が崩れ落ちるのをギリギリで回避する。だが、その瞬間――。
「
増長が低く呟くと、周囲の岩が歪み、瞬く間に私の足元を包み込んだ。
「なっ……!?」
膝下までが土に埋まり、まるで鉛のような重圧が足を固定する。
「お前みたいな足だけが取り柄の小賢しい奴は、こうやって封じるのが一番手っ取り早いんだよ」
増長は嗤いながら拳を鳴らす。
「さあ、ここからどうする?」
「うぅ……」
ダメだ。このままじゃ――。
「……凪ちゃん……」
足元の土の感触が、遠い記憶を呼び起こした。
かつて、水上凪が私にそっと渡してくれた、小さなクリスタルのペンダント。
『美雪ちゃん、これね、不思議な力があるんだって』 『なんの力?』 『うーん、わかんないけど……「ここぞ」って時に使うといいらしいよ!』
凪はそう言って、屈託のない笑顔で渡してくれた。
あの時の笑顔が、脳裏によみがえる。
「……今が、その時みたいね」
増長が不審そうに私を見下ろす。
「なに企んでんだ?」
私は震える指で、懐に隠し持っていたペンダントを取り出し――。 それを、力強く握り潰した。
パリンッ――!
砕けた瞬間、淡い青い光が私の全身を包み込む。
「――これが、私のすべてです」
私は決意を込めて、その光を受け入れた。
ゴォォォォ……!!
灼熱が全身を駆け巡る。血が沸騰するような感覚に、思わず歯を食いしばった。
「うっ……!!」
筋肉が軋み、神経が研ぎ澄まされていく。 感覚が研ぎ澄まされると同時に、身体が異常なまでに軽くなる。
「な、んだと……?」
増長の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。
「スキル――
私の姿が、瞬間的に消えた。
ヒュンッ!!
「なっ……!? どこに――」
増長が狼狽する間に、私はすでに彼の背後に回り込んでいた。
「そこです」
ズバァァッ!!
一閃。増長の左腕に深い切り傷が刻まれる。
「ぐっ……!」
「何が起こったかわからない?」
私は静かに言う。
「これが風過災撃。私の反応速度と身体能力を、限界を超えて引き上げる技です」
増長は傷口を押さえながら、苦々しく笑った。
「チッ……! だがな、そんなもんで俺を倒せると思うなよ!!」
「次は、もっと深く斬ります」
私は増長を見据えながら、再び姿を消す。
ヒュンッ!!
「くそがああ!!」
増長が拳を振り回すが、すでに私は彼の攻撃範囲から消えている。
「風過災撃・乱舞!」
ズバババババッ!!
連続する斬撃が増長の身体を抉り、血飛沫が舞う。
「ぐっ……!!」
ついに彼の巨体が揺らいだ。
「これで……決める!」
私は一気に距離を詰め、渾身の突きを繰り出した。
「風過災撃・最終撃!」
ドゴォォォン!!
増長の巨体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「……決まった!?」
私は息を切らしながら、倒れ込んだ増長を見下ろした。
「……や、るじゃねぇか」
増長が血を流しながら笑う。
「けどな、そのスキルってのは、効果がいいぶん、長く持たねぇんだろ?」
「……っ!」
急激に視界が歪み、全身の力が抜ける。
「副作用……が……」
その場に膝をつきかけ、私は前を見た。
まだ敵は倒れてない。 この戦いは、まだ終わっていない――!