「ふざけんなああああ!!」
増長が怒声とともに、拳を大地に叩きつける。
ズゥゥゥン――!
地面が砕け、無数の瓦礫が四方に飛び散る。
「……っ!」
私は剣を握り直し、瓦礫の隙間を縫うように駆け抜けた。
――だけど、足が沈む。
体が重い。肺が焼けるように痛む。
「……くっ……!」
副作用が、もう始まっている。
風過災撃の負荷が限界に達し、筋肉が悲鳴を上げていた。
あと……一撃で決めなければ――!
「ハァッ!!」
増長が跳び上がり、振り下ろした拳が大地を叩く。
ズガァァァァン!!
「……!」
瓦礫が弾け、衝撃波が全方向へ広がる。
その波を裂くように、私は前へ――
だが、足がもつれた。
「っ……!」
視界が揺れる。
身体が言うことを聞かない。
このままでは――!
「この戦争が終わったらさ――」
耳に、あの懐かしい声が蘇る。
「美雪って、何かしたいことある?」
いつもの昼休み。
凪ちゃんと並んで購買でパンを選びながら、そんなことを聞かれた。
「したいこと?」
「そう! だって、戦争が終わったらさ、今までできなかったこと、何でもできるようになるんだよ?」
凪ちゃんはそう言いながら、トレーにメロンパンをのせた。
「……私は」
私は少し考えてから口を開いた。
「どこか、静かな場所に行って、本を読みたいですね」
「えぇー! それだけ!?」
「私は、それでいいんです」
「むー……じゃあさ、海とかどう?」
「海、ですか?」
「うん! 私、泳ぐの好きなんだよね! 美雪は?」
「……泳ぐのは、あまり」
「じゃあ決まり!」
凪は私の手をとり、笑った。
「戦争が終わったら、一緒に海に行こう! その時は、私が泳ぎ方を教えてあげるから!」
「えっ」
「いいでしょ? 約束だよ!」
"約束"
戦争が終わったら、凪ちゃんと一緒に。
この戦いが終わったら、私たちは――。
「……まだ終われません!」
私は、最後の力を振り絞り――
「風過災撃・最終撃――!!」
ゴオォォォォッ!!
増長の巨体が揺れる。
私は風の刃となり、一気に彼の懐へと飛び込む。
「お前……!」
増長が拳を振りかぶる――
だが、遅い。
すべてがスローモーションに見える。
「これで……終わりです!!」
私は、渾身の突きを繰り出した。
レイピアが増長の胸部を貫く。
ズガァァァァン!!
その瞬間、風の刃が全方向へと広がり、増長の体を切り裂いた。
「ぐ……おおおおおっ!!!」
増長が絶叫しながら、膝をつく。
私は、剣を引き抜き、一歩後ろへ下がった。
「……はぁ……はぁ……」
私は息を切らしながら、増長の巨体を見つめた。
彼の体は静かに揺れ、そして――
「ハッ……速いってのは……こうも強かったのか……」
苦笑し、血を吐きながら、地面に倒れ込んだ。
「勝った……」
私は、ふっと息を吐き出す。
だが、その直後――
視界が揺れ、足元がふらついた。
「……あ」
力が抜け、私は膝をつく。
「……ぐっ……!」
全身が鉛のように重い。
意識が、遠のく――
ドサッ……
「……やれた、よね……?」
意識が薄れる中、私は仲間たちのことを思い浮かべた。
頼みました……みんな……賢くん……どうか、凪ちゃんを……
私は静かに目を閉じ、意識を闇に沈めた――。