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11-7: Paths of Fate(仲間たちの行方)

ヒュウウウウ……

渓谷の風が静かに吹き抜ける。

俺たちはひたすらに駆けていた。

「美雪は大丈夫なのか?」

秋月一馬が息を切らしながら問う。

「……知らないよ」三輪蓮が短く答えた。

「大丈夫。彼女は速い」浮水が言う「ま、僕ほどじゃないけど」

遠野美雪は、速い。そして、強い。

彼女がやられたとは思えない――そう信じたい。

だが、俺たちは後ろを振り返る余裕などなかった。

今は、前へ。

黒磯風磨と水上凪を取り戻すために。

「待って」

浮水が足を止めた。

その動きは滑らかで、まるで風が止まるかのように静かだった。

「……何か聞こえるね」

彼は微かに首を傾げると、目を細め、周囲の気配を探る。

俺たちは一斉に耳を澄ませた。

ギシ……ギシ……

かすかな音が風に乗って流れてくる。

「……足音?」

俺が呟くと、蓮が首を振った。

「いや、違う」

彼は慎重に地面を踏みしめながら、渓谷の岩壁を見上げた。

「音の反響がおかしい……これは、何かが"上"にいる」

「上だと?」

一馬が眉をひそめる。

「確かに……まるで、"張られた糸"の上を何かが動いているような音だ」

浮水はゆっくりと双閃刀を構えた。

「罠だね」

「ガシャアアアッ!!!」

突如、渓谷の岩壁が崩れ、俺たちの目の前に巨大な蜘蛛の巣のようなものが広がった。

「なっ……!?」

俺はとっさにガン・ダガーを構え、仲間と距離を取る。

ギシ……ギシ……

蜘蛛の巣のような構造の糸の上で、何かがゆっくりと動く音がする。

「……どうやら、次の敵が来たようだね」

浮水が静かに呟いた。

「ようこそ、この俺――広目こうもくの領域へ」

声が響いた。

頭上を見上げると、渓谷の岩壁に張り付くようにして、一人の男がこちらを見下ろしていた。

長い髪を揺らし、薄笑いを浮かべた神徒。

広目こうもく――特級神徒四人衆のひとり。

「おまえらも連続通過クエストなんだろ?」

「……も?」

俺が顔をしかめる中、広目は余裕たっぷりに笑いながら、指を鳴らした。

すると、蜘蛛の巣のような糸が俺たちの周囲を覆い始める。

「ここでお前らは、俺が片付ける」

「クソ……!」

一馬が拳を握る。

「また足止めかよ!」

「……しかたないね」

浮水が小さく息を吐いた。「こいつは、僕がやるよ」

「ははっ!おまえは賢い」

広目が、浮水に向かって指を差す。

「おまえ、俺が四人衆の中で一番強いと見切ったな?」

「うーん……別に」

浮水は静かに言った。

「君が"一番早く倒せる"敵だから、僕が残るだけ」

「……は?」

広目の笑みが消えた。

「僕たちは黒磯を追うために、できるだけ時間をかけずに突破する必要がある」

浮水は淡々と続ける。

「君の戦闘スタイルを見る限り、"戦況を分析してデータを蓄積する"タイプだね。なら、戦いが長引けば長引くほど君の優位になる」

「つまり――」

双閃刀を構えながら、浮水が言い放つ。

「短期決戦に持ち込めば、僕の勝ちだ」

「………………あ?」

広目が、今度は完全に表情を歪めた。

「俺を"最も倒しやすい"と判断したってか?」

その声は、笑っているようで、怒りが滲んでいる。

「おいおいおい……マジで言ってんのか?」

「うん」

浮水は一切の迷いなく答える。

「君はデータ収集型で、敵の動きを把握することで戦闘力を上げていく。でも、それって"相手がデータを与えなければ勝てない"ってことだよね?」

「……ッハハハハ!!!」

広目が爆笑した。

「いいぜ……いいぜ……お前、相当気に入った!」

彼は巻物を広げると、そこに文字を綴り始めた。

「書き記された戦場の記憶は、お前の動きを全て封じる」

「……データ管理型の敵か」

浮水が呟く。

「だったら、こっちも"情報を与えない"戦い方をするだけ」

彼は静かに笑い、双閃刀を構え直した。

浮水は、後ろを振り返り、仲間たちを見た。

「ここからは、副リーダーに任せるよ」

「……俺か?」

蓮が驚いたように眉を上げる。

「うん、賢くんも一馬も戦闘タイプだからね。冷静な判断ができるのは君だけ」

浮水は淡々と言った。

「後の指揮は任せた。僕はここで、この敵を片付ける」

「……わかった」

蓮は短く答え、エレクトロブレードを握る。

「行くぞ!」

俺たちは浮水を信じ、渓谷を先へと進む。

だが、その背後で――

ギシ……ギシ……!

糸が鳴る音が聞こえた。

「さて、お前はどこまで耐えられる?」

広目と浮水の戦いが始まる――。

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