目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

15-5: The War Between Worlds(世界の真実)

訓練の終わり際、空気が変わった。

数字の舞う演習場の中心に、ガドラは足を止め、腕を組んだ。

「そろそろ詳しく話しておくか。“この戦争”の正体を」

俺は水筒を傾けながら、彼の横顔を見た。

「……“正体”って?」

「俺たちが今いる世界。その座標軸を、便宜上α世界と呼んでる」

「α世界……」

「そうだ。ゲーム世界という意味じゃない。本当に“世界そのもの”を管理している情報層だ」

ガドラは足元に指で印を描いた。

「ここ、α。隣にβ、γ、Ω……と、無数に“世界”が並列してる」

その印が連なり、地面に円環が浮かび上がった。

仮想空間であるはずなのに、まるで重みを持って刻まれるような錯覚。

「そして、SENETは“その座標間”を繋ぐ装置なんだ」

「……繋ぐ? どういうことですか」

「つまり、俺たちがプレイしているSENETは――この戦いは“並行世界の代表者たち”が、世界ごとぶつかり合うトーナメントなんだ」

思考が止まる。黒磯の言っていたことが頭によぎる。

「俺たちは……“この世界”の代表……?」

「そう。お前も、黒磯も、俺も、矢神も。みんな、真の意味で、この世界の命運を担う《プレイヤー》だ」

「じゃあ、あの“神徒”ってやつらは……」

「他のサーバーの《プレイヤー》たちさ。視覚情報がいじられていて、人には見えないがな」

ぞくりと背筋が冷える。

「最初から、戦わされていたのか……?」

「そう。これは“上位存在が催したゲーム“だ。そして、“最後の世界”だけが、生き残る」

俺は無言で拳を握った。

「……じゃあ、もし俺たちが負けたら」

「この世界は、“切り捨て”られる」

「そんな理不尽な……!」

「理不尽だ。だから、俺たちは戦ってきた。矢神も、ヴァレンティナも、俺も」

ガドラの目に、熱が宿る。豪放な態度の奥にある、譲れない誇り。

「臣永は、その意味を“最初に見抜いた”男だった」

「矢神さんは……この仕組みを知ってた……」

「だからこそ、敵を“倒しすぎなかった”。臣永は、全体のバランスを維持しながら、可能性を残し続けた」

「可能性……?」

「一つでも多くのサーバーが“存続する”道を探っていたんだよ。臣永は最後の瞬間まで、誰も見捨てなかった」

俺の胸に熱いものが込み上げてくる。

(だから、あんなに迷いのある目をしてたんだ)

「お前はどうする、灰島賢。お前は“誰のために戦う”?」

その問いに、俺は答えを出せなかった。 まだ、答えが揺れている。

だが、その揺れもまた──“前に進むための揺らぎ”なのだと、ガドラは言った。

「答えが出なくてもいい。だが、拳を止めるな。それだけは、矢神から託されたものだろう」

彼の言葉は、豪放で熱く、けれどどこまでも優しかった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?