目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第8話 真実の愛

「この間は君が採掘場に行く時に声をかけてくれと言った。その時に傭兵として同行するつもりだったが、同行するだけではなく、この店自体の傭兵として雇ってほしい」



 ユースの言葉に、サインズとカロンは目を合わせて首をかしげた。



「あ、あの、ユースさんはそれでいいんですか?他にもお仕事があるんじゃ……」


「今はちょうど仕事に空きができている。何も問題はない」


「ユースがこの店の専属の傭兵になるなら、おかしな客は減るかもな!確かにそれはいい提案だ!」



 サインズがユースの肩に腕をかけて嬉しそうに笑う。



(そ、それは確かにありがたいけど……)



 サインズの言う通り、ユースがこの店専属の傭兵になってくれれば、ひやかしの客は減るだろう。もしかしたらいなくなってくれるかもしれない。だが、腕の立つユースをここに常在させておくのはなんだか申し訳ない気もする。そう悩んでいると、ユースがカロンの目の前に来た。その美しい蒼色の瞳はカロンを射止めて離さない。



「君が嫌でなければお願いしたい」


「……えっ、そんな嫌だなんてとんでもない。ユースさんがいいのであればこちらはもちろん問題ないですけど。でも本当にいいんですか?」


「ああ、俺がそうしたいんだ」



 有無を言わさないユースのその迫力に、カロンは根負けした。



「早速明日からここに通ってもらえよ、カロンちゃん。ユースもいいだろ?」


「もちろんだ」


「あ、ありがとうございます!」



(なんだかとんとん拍子に話が進んでびっくりしちゃうな。しかもこんな強くてかっこいい人が店に常在するなんて、なんか緊張しちゃう)



 ドキドキと高鳴る胸を隠しながらチラリとユースを見ると、しっかりと目が合う。その瞬間、ユースがほんの少しだけ微笑んだ。



(うっ、イケメンの微笑の破壊力っ!)



「あ、そ、そういえば、ユースさんに渡したいものがあったんです!ちょっとまっててくださいね」



 ユースの微笑みの破壊力に打たれてしまいそうなのを何とかごまかし、カロンは店の奥へ引っ込んで言った。



「お前が自分から女性を守ろうとするなんて珍しいな」



 カロンの姿が見えなくなってから、サインズはユースにこそっと話かける。



「そう、か。確かにそうだな」


「どうしたんだよ、この間の採掘で何かあったか?」



 にやにやと嬉しそうにするサインズを、ユースは真顔で見つめる。



「何か……あったのか?」


「いや、だからそれを聞いてるんだって」



 苦笑するサインズに、ユースはぽつりと呟くように言葉を発した。



「ただ、どんなときでもひたむきで一生懸命なあの子を、俺が守ってあげたいとそう思っただけだ」



 ユースの言葉に、サインズが両目を見開く。



「お前、それって……」


「お待たせしました!」



 サインズが何か言いかけた瞬間、カロンが手に何かを持って奥から戻って来た。



「はい、これ。この間取った雪月光石の一部です。ユースさんにもお譲りしたくて」



 そこには、白く雪のように輝く鉱石花、雪月光石があった。



「いいのか?」


「はい、この石の鉱石花言葉は『真実の愛』なんです。この間ユースさんとお話していて、これをユースさんにあげたいなって思って。ユースさんにとっての真実の愛、いつか見つかるといいですね」



 そう言ってふわっと優しく微笑むカロンの笑顔を見て、ユースの心臓は激しく波打った。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?