「俺はカロンを引き抜きにきている。王国騎士団専属の魔鉱石師にならないかってな。そろそろ良い返事をもらいたいんだけど」
ジェダと呼ばれた騎士はそういってカロンを見ながら微笑む。だが、その微笑みは優しさのかけらもない冷たいものだった。
「何度もお伝えしている通り、私はこの店から出るつもりはありません。この店をずっと守っていくと全店主と約束しましたし、この街のお客様のために魔鉱石を探しに行きたいんです」
胸の前に両手を合わせて、カロンはジェダをしっかりと見つめて言った。そんなカロンに、ジェダは微笑みを絶やさぬまま近寄ろうとする。だが、それをユースが体で遮った。
「こんな小さな店にいるより騎士団専属になったほうが収入は安定するし、魔鉱石花の採掘だって行きやすい。いい話なのにどうして断ろうとするのかな」
ジェダはそう言って、近くに飾ってある魔鉱石花を手に取り、目の前にかざす。そして、ニヤリと笑うと手を離した。
ガシャン
落ちた魔鉱石花は床に落ちて粉々になる。
「何をするんですか!」
「あぁ、ごめんごめん、手が滑ってしまったよ。ちゃんと弁償するから。ね?これで足りるかな」
そう言って、懐から金貨を取り出すとカウンターにバラバラとまき散らす。
「こ、こんなにいりません」
「そう言わないで、お詫びも兼ねてだから受け取ってよ」
「結構です!」
カロンがそう言って壊れた魔鉱石花の代金だけを取って残りを差し出すと、ジェダはふうん、と呟いて手を伸ばした。
金貨を受け取りながらカウンター越しにぐいっとカロンの手を掴み、引き寄せる。
「なっ!」
「そういう強情なところも好きだよ、カロン。ますます俺のものにしたくなってきた」
カロンの耳元でねちっこく囁く。カロンがあまりの気持ち悪さに目を瞑り身震いしたその時。
「店主から手を離せ」
ユースがジェダの手を掴んでカロンから遠ざけた。
「おやおや、ヒーロー気取りかな?落ちぶれた騎士のなりそこないのくせに」
ジェダはニヤニヤとしながらユースを煽る。だがユースは真顔のままジェダを睨みつけた。
「はっ、まぁいいや。今日は大人しく帰ってやるよ。この店にお前がいるってわかって尚更面白くなってきたしな。また来るよ」
そう言って、同行していた騎士をドアへ促しながら店を出ようとする。そしてジェダはドアへ手をかけてから振り返った。
「ああ、そうだ。こんな店、騎士団でいつでも簡単に潰せるってことだけは覚えておけよ、カロン」
冷たい微笑みを浮かべてそう言うと、店から出ていった。