「昼食も済んだことですし、もう一つの鉱石花も取りに行きましょう。すぐ近くなので!」
カロンは弁当箱をしまうと、よいしょ!と腰を上げてユースに微笑みかける。ユースも立ち上がって頷いた。
「もう一つの鉱石花は、ジェダに壊された鉱石花か」
「そうです。結構希少価値が高いので、多く採ってくることはできないんですよ。だから壊されて悔しいです。あ、ここですね」
馬で少し走ったところに、開けた場所があった。周囲はゴツゴツとした低い岩で囲まれていて、所々にキラキラと光が見える。
トルマリンのような色をした鉱石が、花が咲いたように岩から飛び出ていた。
「すぐに終わるのでちょっと待っててくださいね」
そう言って、カロンが採取用の道具を取り出したその時。
「おい、お前たち、そこで何をしている」
背後から声がする。振り向くと、そこには騎士服に身を包んだ男が二人いた。
「王国騎士団?なぜここに?」
「この場所は騎士団管轄の場所になった。勝手に採取することは罷りならん」
「そんな通達、店には来ていませんよ!」
「今日決まったからな。通達は明日以降順次届くだろうよ」
「通達が来ていないんだったら採取してもいいですよね?店としては通達が正式に届いていないのに採取できないなんて納得いかないです」
ムッとしてカロンが言うと、騎士の一人が気に食わないという顔をしてカロンを睨む。
「良い訳ねえだろ。お前みたいな奴がいるから、こうして現地に俺たちが見張りでいるんだよ。さっさと帰れ!」
「そんな!」
カロンが騎士と睨み合っていると、ユースがカロンの隣に来て騎士に金貨の入った袋を出した。
「あ?なんだこれは?騎士を買収するつもりか?そんなことできるわけないだろ、クソ下民が」
「ジェダという騎士を知っているか?以前、店に来て鉱石花を割って行った。壊したお詫びに、と行って金貨を置いて行ったが、金貨はいらない。その代わりに
壊した分の鉱石花を採取させてほしい」
「な……ジェダ隊長が!?」
「随分と店の中で勝手なことをしてくれたからな、騎士団本部へ抗議をしに行ってもいい。目撃者だってたくさんいる。ジェダの経歴に傷をつけてもいいのか?傷がついたらお前たちのせいだぞ」
ユースの言葉に、騎士の二人は顔を見合わせて青ざめる。
「ジェダ隊長なら確かにやりかねないな……くそ、いいだろう、壊された分だけさっさと採取していけ!」
「……!ありがとうございます」
カロンは騎士へとりあえずお礼を言うと、ユースを見て嬉しそうに微笑む。そしてすぐに採取に取り掛かった。
◇
「しかしびっくりしましたよ、ユースさん。あの日、目撃者なんていなかったのに」
採取が終わり、採取場からすぐに退散して馬で駆けながら二人は話をしていた。
「ああいう時はハッタリも必要だ。ジェダは身分が良いからな、おそらく騎士団の中でも偉そうにしているだろうと思ったんだ。ああ言えばあの騎士たちは採取させるしかなくなる」
「なるほど。勉強になります。採れて本当によかったです、ありがとうございました!」
顔を少しユースの方に向けて嬉しそうに笑うカロンを、馬から落ちないようにそっと支える。ユースの体がさらに密着して、カロンは体温が一気に上がった。
(話ができるのは嬉しいけど、話すたびに後ろからユースさんの良い声が耳元にダイレクトにくるからドキドキしちゃう。体も密着してるし……ああもう、なんでこんなにドキドキしちゃうんだろう)
前を向いたカロンの耳が赤くなっているのに気づいて、ユースはまんざらでもなさそうに口角を上げ、カロンの腰に回した手の力をほんの少しだけ強めた。
◇
馬を走らせ二人はレーヌたちの宿に戻ってきた。
「お帰り!無事だったんだね!」
「はい!ユースさんのおかげで怪我もなく、採りたいものを採ってこれました!」
「いっつも帰ってくるたびにどこかかしら怪我をして、レーヌにこっぴどく怒られてたのになぁ」
店主がそう言って笑うと、ユースが目を細めてカロンを見つめる。
「そんなに毎回怪我をしていたのか?」
「うっ、えっ、はい……でもちょっとした怪我ですよ!数日経てば治るものばかりで」
「でもあちこち怪我してただろ!こんな細っこくて白い手足にあちこち傷つけて帰ってくるからいつもヒヤヒヤしてたよ」
「……すみません。でも、今回はユースさんがいてくれたおかげなのか、面倒な魔獣が近寄ってこなかったんですよ!」
騎士団の魔香炉のせいでワイバーンとは対峙する羽目になったが、いつも近寄ってくる魔獣は一匹も来なかった。おそらくユースの纏う覇気に恐れて近寄れなかったのだろう。魔獣は自分よりも強い覇気や魔力に敏感らしい。
「ユースのおかげだね、カロンを守ってくれて本当にありがとう」
「いや、俺は俺のしたいことをしているだけだ」
ユースがそう言うと、レーヌはそうかいそうかいと嬉しそうに笑う。
「疲れただろう、今日はゆっくり休んでいきな。あ、今日も同じ部屋でいいだろ?相変わらず繁盛してて部屋が二人部屋ひとつしかないんだ」
レーヌの言葉に、カロンとユースは目を合わせ、照れたようにすぐ目を逸らした。