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二話 試験の終わりにお祝いを! 1

 チマが復学してから暫く経ち、葡萄月8月の半ば。王立第一高等教育学校は夏季試験の時期となっていた。

 授業での細々《こまごま》とした小試験はあったのだが、総合学科試験となると夏季と冬季の二回のみで試験成績の大半はここで決まる取り決めだ。

「はぁぁ…、試験結果をBから落とさないようにしないと…」

「私は追試回避っすね」

「私とリンで面倒みたのだから、ここの面々は最低でもBは取ってもらうわよ」

「「うっ…」」

 険しい顔を見せたのはメレとロア、リキュの友人たちの入学試験で中堅前後に名前を連ねていたチマ派閥の面々。

「まあまあ、圧を掛けないで上げてくださいよチマ様。気圧されて本来の実力を出せなくなってしまいますから…」

「…そうねぇ、じゃあ…B以上の成績を修められたのなら、アゲセンベ家に招待し晩餐会ばんさんかいを設けてあげるわよ。目的を持ったほうが速く走れるでしょ?」

「自分たちは馬ではないので人参を下げたれても…、いや、ですがご褒美があると考えて頑張りたいと思います」

「リキュ、貴女は元からBだった筈だからB+以上ね」

「うぐっ!!―――」

 いらぬ藪を突いたリキュは呼吸を浅くし、ぶつぶつと試験の復習をし始めていく。

「まあ私と同等A+まで引き上げろとは言ってないのだから、気軽に挑戦しなさいな。というか試験勉強中に『暗記』やら『学問』が発現したのだから楽勝よ、楽勝。なくっても天辺が取れるんだから」

 実際に一年の頂点に君臨するチマには、勉学どころか自身の役に立つスキルすら持たないスキル貧乏、傍から見れば血筋と容姿くらいしか誇れるものがない少女だ。

(ゲームのチマもスキルを持たずに成績最上位にいたはずだけど、他人ひとと頭の作りが全然違うとかなのかな?並外れて記憶力が良いとされるサヴァン症候群ではないんだよね、そういう特徴は見られないし。…身体能力は種族的な特性で補っているから納得は出来るけど…謎だなぁ)

 「単純に頭がいいだけかぁ」と一人納得したリンは、他の面々と比べて限りなく高い壁を設けられているので、リキュと同じく復習を繰り返していくのであった。


―――


「「「……。」」」

 後日。試験結果を配られたチマ派閥一同は自身らの成績に息を呑み、チマの方へと視線を向けていく。

「ぽかんとして、成績はどうだったの?」

「私はB+でした」「「私も…」」

 チマ派閥の面々がチマへと成績を見せていけば、リキュはAで他はB+判定。スキルが発現したことも要因としてあるのだが、腕の良い家庭教師からチマが教わったように、その教え子が家庭教師の真似をして教えたのが功を奏したのだろう。全体的な成績の底上げが起きていた。

「やるじゃない、もっと自信を持ちなさいな」

「よっしゃああ!!」「やったわ!!」

 きゃっきゃと盛り上がる一同にチマは小さな笑みをこぼしては、晩餐会の予定を決める。

「都合の良い日時を教えて頂戴な」

「はい!チマ様とリンさんの成績は如何でした?」

「A+の一位1stよ」

「同じく二位2ndです。今回はチマ様を超えられると思ったのですが、…残念です」

「簡単に超えられる壁なわけ無いでしょ。それに今回は皆の勉強を見て、私も復習できていたのだから当然の結果ね」

「次回は負けないよう、精進します」

「ふふっ、頑張ることね」

 因みにA+の条件は九分五厘95パーセント以上の得点となっているので、ひとつ下のA判定でも十分好成績だ。

「チマ様リンさん、ありがとうございました。これで胸を張って実家に戻ることが出来ます」

「どういたしまして。でも卒業するまで何度かあるのだから、終わった風を出すのは良くないわよ。以降は成績を落とさないように頑張らないといけないわねっ」

「はいっ!」

 花片喰オキザリスのように可憐な、輝いた笑顔を見せたメレは成績結果を胸に小さく小躍こおどりをしていた。


―――


「さあさ皆、私の友達が来るからししっかり準備をね」

「「「はい!」」」

「前にも伝えた通り今日はリンだけでなく、他の友達も来るから徹底的に。それじゃあ散って」

 使用人を集めて指示を出す事自体はチマの役割でないのだが、今まで彼女自身が開いた催しでは一番の大きさで、やる気に満ち溢れた表情と行動力である。

「…、ちょっと待って、そこの貴女」

 とチマが口にすれば使用人たちが振り返り、一人に視線を向けていればそれ以外の者は散っていく。

「新人が入ったとは聞いていないけれど、誰?」

「紹介が遅れて申し訳ございません。本日の晩餐会に向けて臨時の使用人として派遣された、―――と申します」

「そう。だけど何処かで貴女の声を聞いたことがあるのよね。前にも来ていたことがある?」

「一度だけあった気がします」

(そんな名前の使用人が出入りした記憶はないから嘘よね)

「臨時ということなら周りの指示に従ってしっかりと動いてちょうだいね」

「っはい!」

 射殺さんほどの冷たい視線を感じ取った不審な使用人は、顔を引きらせてから仕事へ戻っていく。

(これは失敗しくじりましたね…、それなりの晩餐会とあれば人の出入りが多いと思い忍び込んだのですが)

 困った風な使用人は何処かへと姿を消していった。

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