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一話 帰還と密談! 3

「おかえりなさいませ、お父様お母様。今日はご一緒の帰宅…あらリンも一緒とはどういう?」

「「ただいまチマ」」

「こんばんはチマ様。実は本日王城へと提出する書類が有りまして、帰り際にばったりとお二人とお会いしたのです」

「それでこれも縁と夕食にと誘ったわけさ、賑やかでいいだろう?」

「ええ!流石ですわ、お父様!さあさあリン、こっちにいらして、…河畔かはんで助けに来てくれた時以来よね?」

「私はチマ様の寝顔を拝見していますが、直接お話しするんは暫くぶりです。体調は如何でしょうか?」

「問題ないわ。次の登校日だから、明後日から復学できるわよ」

「はぁ~、それは良かったです」

「学校の方はどう?」

「変わりないです。各班は同伴の教師陣や騎士たちの指示で手早く逃げられようで怪我人もなく、楽しみにしていた巨大パンケーキ会がなくなったことを悲しんでいるくらいでした」

「パンケーキの件は私も悲しくてしかたないわ、準備に結構時間を使ったんだもの」

「バァナ会長とデュロ殿下は、今年中の何処かでパンケーキ会だけでも行おうとお話していましたので、チマ様が復帰次第議題にあがるかもしれませんね」

 パッとわかりやすくチマの表情は明るくなって、尻尾が垂直に立ち上がる。

「ふふーん、話したいこともあるし、今日は泊まっていきなさいな。いいですよね?お父様お母様」

「ああ、いいよ。どっちもね」

「やったっ」

(話したいことってシェオさんとのことだろうなぁ。もう聞いちゃってるし、驚く準備だけしとかないと)

(私から聞いたことは言わないようにな、ブルード・リン)

(うわぁ…露骨な目配せ…。あたしもチマ様から直接聞いて驚きたかったよ!)

「未だ公式発表は出来ないけれどね、シェオを伴侶とすることにしたのよっ」

 「じゃじゃーん」とチマは自前で効果音を口にしながら、シェオを前に出す。事前にレィエから聞かされていた通り、色恋から発展したと婚姻とは見て取れないのだが、チマ本人が楽しそうにしているところを見れば、これも有りなのだろうと納得する。

「いやぁ、驚きました。実は今までの恋仲だったり?」

「そういうことはないわね。シェオが生涯を掛けて私に仕えてくれるって事だから、特等席を用意してあげたのよ」

「なるほど〜、頑張ってくださいねシェオさんっ!」

(チマ様を悲しませたら許しませんからね!)

(は、はいぃ!)

 リンはシェオへ圧を掛けながらチマの隣に腰掛けた。

(ゲームのチマとは異なり、今のチマ様には居場所があって、居場所となってくれる相手も出来た。…まだ恋愛感情は無さそうだけど、きっと時間を掛けて愛情を育んでいくんだと思いたい)

 四方山話よもやまばなしを始めては視線を僅かにレィエへと向ければ、彼と視線が合わさって二人、いや事情を知るロォワたちとの目的を思い起こす。

(チマ様がラスボスになることは無さそうだけど、統魔族が何をしてくるかはわからないし、無理矢理に身体の支配権を奪っては凶行に臨む可能性が無じゃないんだ)

琥珀こはく怠惰たいだと呼んでチマに関心を示していたとされる統魔族『盲愛もうあい』は、統魔族とは相反し『義憤ぎふん』を倒しているとのことだけど…真偽は不明。…それに自然公園で出没した魔物は、本来のものより高いレベルの化け物揃いで、派典ショウビなんてクリア後のエンドコンテンツに登場するレベル80前後の敵だ)

(シェオさんが貴族になるために勉強なり稽古事が入るとなると、護衛が手薄になるだろうから私も警戒しないとね)

「――、夏季試験が終われば夏季休暇だし、ようやく羽根が伸ばせるわね。リンはブルード領へに帰省するの?」

「そうですね、家族と顔を合わせたいので帰省します」

「なら私も夏季休暇の何処かでブルード領へと行ってみたいわ。友達の家に遊びに行くのをやってみたかったのよっ」

「前にも言ってましたね。日時さえ決めてくれればこちらで準備をしますから、決まったら教えてくださいね」

「お願いね!」

 レィエからの許可も取り付けて、夏季休暇を待ち望むチマであった。


―――


 青味がかった銀色の髪を後頭部で一纏めにし、男物の衣服を纏ったチマは鏡の前で一回転、自身の姿を確かめる。

「結構見栄えが変わるものね」

「っ」

 同年代の女子と比較してもやや小柄な体格のチマが男装をすると、ちんまりとした少年になるのだが、これを見たリンは絶句しながら様々な角度から姿を目に焼き付けていく。

「顔は変わってないから、ちょっと不自然かしら?」

「いやいやいや、全然全くそんな事ないショタケモ美少年っぷりですよ!」

「なんか、意味深な言葉が聞こえた気がするけど…」

「気の所為ですよ、気の所為!然し、然し!写真機を持っていないのが悔やまれます、こんなの永久保存版じゃないですかっ」

「大興奮ね…」

 リンがアゲセンベの屋敷に宿泊した翌日、「もしもブルード領へと行くなら変装とか必要かしら?」とチマが一言発したことが切っ掛けで、女性使用人と共に沢山のお着替えをしていた。

「キリっとした表情かおお願いしまーす!」

「まあいいけれども…」

 なんだかんだ一部の使用人も楽しくなってしまったのか、表情や体勢を指定しチマはそれに応え続けていた。

「上目遣いで、きゅるんってしてください!」

「きゅるん…?」

 リンと使用人がきゃーきゃー悲鳴めいた歓声を上げていれば、シェオが連行されてきて。

「どーよ、シェオ。お嬢の姿は?」

「美少年風ですか。似合っていますが、…衣服の格式が足りない気がしますね。少年風であるのなら、幼少のデュロ殿下くらいの衣服は用意しないと、お嬢様の品を損なってしまいます。考えても見てください、こんな美少年が街中を歩いている姿を、無理ではありませんか?」

「「「!!」」」

「王城とはいかなくとも、屋敷の庭で大型犬と戯れているくらいには、品がないと納得できませんよ」

「よくわからないけど、そういうものなの?」

「そういうものなのです。お嬢様にはお嬢様として品位を失わない衣服をお召しにならなくては、それがこの世の摂理に御座います」

 納得をしたリンたちはシェオの言葉に頷き、自分たちが間違っていたと非を認めていく。チマや少年趣味のない使用人たちの瞳は胡乱である。

「まあなんか本筋から外れちゃったし、私の分はこれで終わりね」

 つまりは着せ替え人形にしていた側着せ替えるべく、姐さん使用人に指示を出し逃げようと試みていた者を全員捕まえては、チマの指示で着飾っていくことになる。

 最後にはシェオが女性用の使用人衣を着用し、彼のよく引き締まった身体に似合わない面白可笑しい姿を見て、チマは大爆笑していたのだとか。

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