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一話 帰還と密談! 2

「お待たせしました兄上、デュロ」

 王城の一角、部外者の邪魔が入らない一室に詰めるのはロォワとデュロ、そしてロォワの護衛を務めるの第一騎士団の騎士と、デュロの護衛を務めるラチェ。最後に文官を連れたレィエが入室すると、赤色角灯が起動され密談の場が整う。

「ふぅ、君も掛けてくれて構わないよ。この場において無礼は問われないからね」

 こくりと頷いた文官は椅子に腰掛けてから、自身の首の付け根へと手を回して、変装用の魔法道具を解除していく。

「お初にお目にかかります国王陛下。御機嫌よう、デュロ殿下」

「叔父上の協力者とは君だったのか、ブルード・リン嬢」

「君がブルード男爵の養女か。噂は予々《かねがね》聞いている」

「協力者、という紹介をしたのは私ですが、目的が一致しており、同じ力を有しているだけでして。主従や彼是あれこれがあるわけではありませんよ」

「はい。武具の提供をしていただきましたが、雇われているわけではありませんので」

 やや緊張の色があるリンだが、デュロやロォワに勘違いをされないため、しっかりとレィエとの関係を絶っておく。

「レィエと同じ力ということは、今年度末までの未来を予見出来るというアレで間違いないな?」

「ええ。その『予見』に大きな狂いが生じた事、そしてブルード・リンとの詰め合わせも兼ねてこの場を用意致しました」

「ほう。してブルード・リン予見は何処まで見通せているのだ?」

 ロォワと当事者二人以外は驚愕の表情をしているのだが、そんなことはお構いなし。

「レィエ宰相と同じく今年度末までのものとなっておりました。そして私の方でも…狂いが生じていますね」

「なるほど。同等の力、か」

「すみません父上、状況が飲み込めていないのですが」

「私の方から説明しますよ」

 穏やかな表情のレィエは、デュロと護衛二人に向けて、生まれた時点から未来が見えていたと語る。それは勿論ゲームの経験を『予見とした』話しなのだが細かい部分ははぐらかし、ゲーム内の細々としたフレーバーテキストを思い起こして、ゲームが始まるまでの事件等を対処していたのだ。

(周辺諸国からの立ち位置や国勢が大きく変わっていたのは、当然レィエ宰相が関わっているんだけど。…この感じはゲーム内のフレーバーテキストまで拾ってるっぽいな〜)

 「よくやるよ」と心の内でツッコミを入れつつ、リンもわかる部分は頷いたり補足を入れたりで、記憶を補っていく。

「非スキルの異能ですか。信じ難くはありますが、叔父上とブルード・リン嬢が結託して嘘を付く理由も思い当たりませんし、…今までの実績を考慮すれば不思議ではありませんね」

「流石にもうちょっと疑って欲しかったのですがね、叔父的には」

「申し訳ありません」

「いいさいいさ」

「それで、『予見』の狂いというのは、先の『マフィ領自然公園襲撃事件』に関するものか?」

「はい。私の見たものでは、マフィ領の発展をねた一生徒いちせいとによる魔物の持ち込み程度で、規模が非常に小さくラチェとゼラはおろか騎士団すら必要のない相手でした」

 コクリとリンが頷けば、彼女が護衛の一人としては参加していたことが納得できる。

「それがあの大規模な、一部箝口令を敷く必要がある事件にまで発展したと。…『統魔族とうまぞく』まで現れて」

「ええ、心の底が凍りつく思いでした。統魔族が現れるのは確定事項だと思っていたのですが…、時期が早すぎますから」

「私の予見では統魔族が現れるのは今年度末。場所は幾つかの未来に枝分かれしているのですが、王都近郊、王都内、王立第一高等教育学校、王城の四択」

「…、とんでもない爆弾を隠し持っていたのだな…」

「私の方で対処できるよう準備はしていましたから」

「第六騎士団ですね?」

「そうだ」

「…統魔族、数千年も前の祖神たちが戦っていた、御伽噺おとぎばなしのようなものとばかり思っていたが、まさか当代で復活してしまうとは」

「一部復活といったところなのですが、我々からしたら一部でも脅威なことには変わりませんね」

「周年式典を前に…、あぁ…今回の件以外にもケチが付くと思うと気が重くなる。一大観光地が一時的に穢遺地と化した、というだけでも対処が大変だというのに」

 椅子に凭れ掛かったロォワは、だらしなく茶菓子を手に取り、ボリボリと食んでいた。

「叔父上とリン嬢の目的というのは、統魔族の対処なのですか?」

「そんなところですね、統魔族の出現は防げないだろうと踏んでいますので、それより生じる被害の軽減を主としています」

「生じる被害…人的被害はどうなると見えているのです?」

「「…。」」

「なるほどな。二人の共通点はチマで、協力関係にあり、今回の報告をと考えれば自ずと見えてくる」

「兄上には隠せませんね」

「然し…統魔族などという存在が、チマという一個人を標的にする理由が思い当たらないのだが…」

「それは私も不明でして」

「…、」

「リン嬢は何かあるのかい?」

「その、一つ公言していない、秘匿情報がありまして…。統魔族の『義憤ぎふん』との交戦にて、同じく統魔族の『盲愛もうあい』と名乗る相手に身体の支配権を一時的に奪われました。気がつけば義憤は殺害されており、統魔族も一枚岩ではないようなのです」

「ほう…」「ふむ?」

「そして何より、盲愛はチマ様の安否を私に伝え、盲愛自身がチマ様へ執着している風でもあり。何かしらの鍵である可能性を私は示唆します」

(とはいえチマ様にそんな統魔族に関わりのある設定は出ていなかったんだけど。身体を奪われるのにも理由があったのか?ファンブックにも書かれていなかったし…)

『いいから!私共々、こんの統魔族、を討伐なさい!世に出て良い、存在じゃない、のよ!』

 ラスボスとして統魔族に身体の支配権を奪われるチマは抵抗を試み、終始統魔族への妨害を繰り返すことで、主人公たちの勝利へ導く。というより、ラスボス戦はイベント仕様となっており、前哨戦たるチマ本人の方が強い始末。

 攻略キャラをお供として、若しくは操作キャラとして使え、パーティを構築するゲームなので、平然と複数対一の構図が出来上がるのだが。彼女は苦戦する風もなく、単純に強くあり事実上のラスボス戦と言わしめる相手だ。

(きっとまた誰かを守るため、危険に飛び込んでいくのだろうなチマは…)

「チマは国際公式戦で重要な役割を担ってもらわねばならぬが、こちらから護衛を増やすのは悪手。せめて婚姻でも決まってくれれば…いや、それでも騎士を派遣するのは難しいか」

「ああ、それなのですがね!なんとチマの方から婚姻の打診がありました」

「「はぁっ!?」」「はい!?」

「相手はチマに仕えているキャラメ・シェオ。まだシェオ本人の意思が固まりきってはいないものの、彼本人からもチマの夫となる際に必要となる勉強をしたいと申し出がありましてね。いやぁ、漸く関係が進展したようで何よりですよ」

 今までの神妙な面持ちと打って変わって、ニコニコと娘の相手が決まったと喜ぶ父の顔。

「チマの方から、想像ができんな…」「はい…」「そうですね」「私も驚きですよ」

 ラチェまで目を丸くして一言呟く程。

「恋愛というよりかは、利害で選んだという風なのが惜しいのですが。シェオの方もチマの隣に立てるよう勉強を始めて、…そうですね、チマの卒業までには発表できそうな状況ですよ」

「そうか。アゲセンベ家の当主がチマとなる際には爵量採算がなされるが、レィエの献身と、此度のチマの活躍を考えれば、今すぐに行ったとしても伯爵位は確実に与えられる。アゲセンベ伯爵の夫となれば、身につけるものも多くあろう、出身が市井となれば尚更」

(チマが相手を決めた以上、私も決めなければな…。ふっ…なんだかスッキリとした心持ちだ)

(チマシェオ、もしくはシェオチマルートかぁ、いいね〜。推しカプが結ばれるためにも、)

(我々が導かねばならない。終幕エンディングのその先へ)

「とりあえず、話しは戻そう。統魔族の対処について――」

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