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五話 パスティーチェ! ④

「えー、こほん。皆さま初めまして、ドゥルッチェ王国から参りましたアゲセンベ公爵レィエが娘、アゲセンベ・チマと申します。此度はラザーニャ・ラザ・ベシャールメからの嘆願に応じる形で、マカローニ・マカ・ケンチーズ様にお会いすべく足を運んだ次第です」

「ご丁寧にどうも。儂は知っての通りマカローニ・マカ・ケンチーズ、です。……、ラザーニャからの嘆願とか言っていましたが、どういうご関係で?」

「それはラザーニャから」

「…、実は私、そのー…最初はチマお嬢様を拐かそうと計画してまして」

「は?お前…」

「ちょ、ちょっと待ってください親父。流石に王族を拐かそうなんて、こそ泥の範疇を超えていてチマお嬢様の写っている写真をくすねようとしたんですよね?」

「「……。」」

 子らは絶句。トネッテに関しては立ったまま白目を剥いて気絶していた。

「で、で!それも無理そうだったので、直接嘆願しようとお屋敷へ変装をして忍び込み、部屋に入った途端、手痛い反撃をもらってから、お話しを聞いてもらったのです。そして公爵様にドゥルッチェ周辺諸国の情報を提供する形でチマお嬢様がパスティーチェに遊学する許可を頂き、今こうしてお会いしてもらったというわけです!」

「凄いなあ、お前。よくもまあ厚顔無恥に帰ってこれたものだよ」

「なんで清々しい顔してられるんだコイツ…」「昨日さ、性格悪くないっていったの恥ずかしくなってきた」「というかなんで許されたの…?」「わからん」

「アゲセンベ・チマ様、ラザーニャの言葉は真実で?」

「前半は実行されてないので不明ですが、…侵入の行からは真実ですわ。されたラザーニャは、それはもう情けない姿でした」

 僅かな時間で老け込んだかのように思えるマカローニは、席を立ち土下座をして床に頭を擦り付ける。

不肖ふしょうの娘が多大なるご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません。生先短い老耄おいぼれではありますが、この首をもって罪の精算として頂きたい」

「っ!大丈夫、大丈夫ですわ!私としても素敵な絵画をお描きになるマカローニ様とお会いしたいと思っておりまして、体調が優れず、一生の内に夜眼族を見てみたいという願いを叶えるために、自ら進んで足を運んだのです。ですからどうぞ頭をお上げください」

 チマも大急ぎで席を立ち、衣服が汚れることなど気にせず膝を突いてマカローニに頭を上げるように促す。

「寛大な御心に痛み入るばかり、有難う御座います。……ラザーニャ!」

「はいぃぃ!」

「儂の事を案じて行動してくれたことには感謝する。だが、琥珀の至宝やそのご家族に迷惑を掛けたことは許さねえ、お前はアゲセンベ・チマ様がドゥルッチェに帰る際には同行し、生涯奉公し続けろ」

「っ、っ」

 顔面を蒼白にしたラザーニャは、マカローニから勘当を告げられて、鯉のように口をハクハクと動かすのみに。…こうなることは想定済みだったようだが、実際に本人から言われてしまうのは中々に苦しいものである。

「はぁ…、アゲセンベ・チマ様がどれだけご滞在かはわからんが、この滞在期間を最後に、儂の死に目には会えないと思え。いいな?」

「……はい…」

「アゲセンベ・チマ様とご家族から多大な温情を与えてくれた事は理解できるが、国際問題になりかねない軽率な行動をしたケジメは自分で取らなくちゃならねえ。…馬鹿娘が」

「こちらとしては報酬をもらっていますし、問題ないと思っているのですが…、その」

「察してもらってる通り、親として子としてのケジメです。不肖の娘ですが使用人なり小間使いなり、好きに使ってください」

「今すぐに返答はできません。何度か足を運びますので、その時にでもまた」

 ラザーニャが短慮であったことは確かだが、それでも親であるマカローニを思っての事。今現在、親元を遠く離れているチマからすれば、生涯親に会えない状況など想像しなくなく、成る可く二人が共に過ごせるように思考する。

「実は暫くの間、ジェノベーゼン学園に通うことになってしまして、その間ラザーニャが私の周囲で行動するのは難しく暇を持て余すことになります。先程の事は一先ず脇に置いて、ご家族の時間を過ごしてみては如何でしょう?」

「誠に寛大な…、有難う御座います」

(納得がいくように話し合って頂戴)

(…あ、ありがとうございますっ)

「それじゃあ、マカローニ様の絵画を鑑賞したり、マカローニ様と色々なお話しをしたいのですが、大丈夫でしょうか?」

 重く沈んだ空気を吹き飛ばすため、チマは満面の笑みを咲かせて、本来の目的を提案した。

 尾先をわかりやすく左右に揺らし、期待するような瞳で、だ。

「是非是非、我が家で見れるものなど絵画と猫ちゃんくらいしかありませんが、それでも問題ないのなら」

「寧ろそのために来ていますので!!」

 握手を求めるべくチマから差し出された小さな手を見て、マカローニは自身の服で手を拭いてから握手を応じる。

「大恩のあるアゲセンベ・チマ様から畏まって話されては、儂らも面目が立ちませぬ。どうぞお気軽な、ラザーニャへと話しかけるように我々へもお願いします」

「…ならお言葉に甘えて、砕けた話し方をさせてもらうわね。マカローニさんも言葉を砕いてもらって構わないわ」

「そうか。儂の方も肩肘張った話し方は好みでなかったから助かる。……ラザーニャ、チマさんを連れてきてくれて、ありがとな」

「っ!はい!痛ったぁ!」

 涙目のラザーニャは大きく頷いて、額を机に叩きつけたのであった。

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