生徒会役員たちが魔法道具の確認等を行っている最中、チマは髪をポニーテールに髪を結い、可愛らしいひらひらの、アイドルっぽい衣装に身を包んでいた。
「凄いわね…」
「動きを阻害しないよう丈を短く、そして可愛らしさを一二分に振り撒けるよう設計させていただきました」
自慢気な表情で語るリンは男装をしており、こちらも髪を後ろで結っている。
「まさか服飾の才能までもがあるとは驚きよ」
「なはは、私一人でやったわけじゃないんで。一応リハも問題なかったし、衣装も大丈夫、振り付けも問題ないし…」
どうにも落ち着きのないリンに呆れた視線を向けつつ、ペチッと手を鳴らした。
「リンが監督なんだから落ち着かなくてどうするの。ドンと構えて本番を待ちなさいな」
「はいっ!然し…チマ様めちゃんこ可愛いですね」
「みんなのおかげよ。シェオに見せたらどんな反応をするのかしら」
くすくすと悪戯っぽく笑ったチマに、リンは小さな驚きを露わにした。
(最近のチマ様はシェオさんを弄ったり甘えたり、行動が分かりやすく変化をしてる。仲のいい友達だって自負はあるけど、そういった事をしてくる風はないから、好きな相手にしかしないのかな?うーん…胸熱!)
リンが衣装の最終確認を終えれば、控室にラザーニャが入室しチマの姿に目を丸くする。
「これはすごい、マカローニが見たら昇天しちゃうんじゃないですかね?」
「縁起の悪いことを…」
「きっと本望ですよ。それじゃあこっちも色々とやりたいんで、リンさん借りますね」
「ええ。私の方は大丈夫だから、ふふっ観終わった後に感想を聞かせてちょうだいね」
「はーい、行きましょ」
「はい!」
(お父様とお母様だけじゃない、伯父様や伯母様、お祖父様お祖母様まで観劇にいらっしゃるのだから、絶対に成功させるのよ)
立ち上がったチマは脳内で音楽を奏で、声を出さないよう歌いながら、簡単に振り付けの確認を行う。
「お嬢様、入ってもよろしいでしょうか?」
「本番前に私の衣装を見ちゃっていいの?一観客としての驚きが半減しちゃうわよ?」
「…。承知しました、本番まで楽しみに待っております。お嬢様なら最高の舞台にしてくれると信じております故、ご自身の思うように踊ってくださいませ」
「ええ。期待に応えるわ」
チマが軽く扉を叩けば、扉の向こうからシェオも軽く叩き返し、言葉を発することなく踵を返し遠ざかっていく足音が耳に届いた。
(――――――。)
意識を研ぎ澄ましたチマは耳に届くはずの全てを遮断し、最後の瞬間まで振り返り続ける。
―――
「学校へ足を運ぶのが卒業以来なので、懐かしいものです」
「私たちは昨年にも来ているが、同じ事を思ったな。そこそこの時間が経っているというのに、当時のままだと錯覚させられてしまう」
「当時のロォワさんはやんちゃな王子殿下で、うふふ楽しく毎日を過ごさせていただきました」
「やんちゃしていたのですか?意外です」
「若い頃の話を出すのはやめてくれ、恥ずかしい」
生徒会の催しを観るために足を運んだ王家の面々は、楽しそうに思い出を語る。
「私もレィエさんと一緒に勉学へ打ち込めれば、もっと楽しめたかと思うと少しばかりの物悲しさを覚えますね」
第一騎士団がガチガチに固めている中、王族で唯一マイのみがサーベルを佩いており、やや異質な雰囲気を纏っていた。
マイは王后陛下に侍り身の回りの世話や一応の護衛を務めており、今回の観劇にも佩刀の許可が下りている。勿論のことチマに夜眼剣術を教えたのは彼女だ。
そんなマイは学校の生徒や教師から物凄い視線を浴びていた。
原因はチマとの対比だろう。
可愛らしいイエネコ味ある可愛らしい容姿のチマと、飼い慣らされていないネコ科の美しさが前面に出ているマイはその雰囲気が大きく異なる。
成長したらああなるのか、混血だからああなのか、チマの容姿を知る者たちは小さな議論を繰り広げいていた。
「チマはマイように成長すると思うかい?」
「どうでしょう。『お肉を沢山食べると男の子が産まれやすくなる』のような迷信と同等なのですが、『可愛がられて育った夜眼族は
くすり、と笑みを零したマイの表情は、チマの笑った表情に酷似しており、「子は親に似るものだね」とレィエは呟いた。
その後ろを歩く先王夫婦は子供たちの成長と、孫たちの舞台を楽しみに微笑んでいたのだとか。