王家の面々が大講堂の関係者席に着けば、マフィ家やマシュマーロン家など生徒会に属する生徒の家族らがやってきては、ロォワらへ慇懃な礼を行ってから着席する。
名だたる家々が到着する中、顔を青く緊張の面持ちでやってきたのはウィスキボン家やブルード家。此方は家格が低く王族との関わりがあまりない家々だ。
これらの対応に慣れきっているロォワらは簡単に対応しつつ、生徒会役員から手渡された団扇を手にして首を傾げていた。
「これは?」
「応援するための団扇だそうです(ブルード・リン嬢曰く)。順番的にはチマ様、バァナ様、デュロ殿下、最後に三人となりますので、お出になられた際は団扇を掲げて応援なさってください」
「ほう。珍しい観劇方式だ。チマとブルードの娘はパスティーチェに遊学していたから、そういう知識も得てきたのだろうな。…して、名前を見るにデュロのものしかないのだが」
「え」
「自身の子息しか応援できないような狭量な王ではない。バァナも昔から知っておる子であるし、チマは姪っ子、余は全員を応援したい思っておる」
「はっ、はいっ!今直ぐに準備をしてまいります!」
踵を返し大急ぎで控えに戻った生徒を見送り、レィエは呆れの混じった溜息を吐き出す。
「兄上、生徒をいじめるのは
「然し三人共応援したいのは事実だ。異国ではどういう風に行っているかは不明だが、一人しか応援してはならないなどという習わしはなかろう」
(箱推しはありますが…)
「皆様、こちらをどうぞ!」
両手に数え切れないほどの団扇を抱えた生徒は息を切らし、全員に三人分の団扇を手渡して回って、平謝りをしていた。
「謝る必要はない、よく出来た団扇を欲したのみ。誇るといいぞ」
「は、はいっ!!それでは失礼いたします!生徒会の音楽劇をお楽しみくださいませ!!」
「心に傷を負わないと良いのですがね…」
心配するレィエ横目にロォワは彼の家族に、彼を褒め称える言葉を掛けていた。
その後、賑やかしく生徒やその家族らが足を運ぶのだが、ロォワらがいると知って少しばかり静かさを取り戻すのだが、やはり人数が多くなれば自然と喧騒が戻ってくる。
(敵意の視線、レィエさんを狙ったものね。流石にこの場で事を起こす者はいないと思いたいけれど、牽制はしておきましょうか)
感じていた敵意を手繰ったマイは、相手を見つけては牙を見せつけるような笑みを贈り、佩いたサーベルの柄に手を置いた。
(夫人、その有事の際は我々が対処できるように配置しておりますので…)
(有事になっては遅いのですよ、ラチェくん。私は三人の音楽劇を見に来ているのですから)
(…。承知しました)
冷や汗を浮かべたラチェからは普段のお
「グミー騎士、舞台が始まれば会場が暗くなる。一応のこと危険や敵性の察知に集中するように頼むよ」
「暗くなるのですか?」
「ああ。そのために様々魔法道具を用意したからね」
「…もっと此方にも配慮をして欲しかったのですが…」
「出来ると思うかい?」
「親バカになりましたね、レィエ様」
「何を今更」
(せめて殿下と姫様の舞台を瞳に収めましょうか。…気が付けば大きく成長しましたね。お立場的に関係が拗れる可能性も、…殿下は少し拗らせましたが、お互いの関係は良好なままお互い大人になれそうで嬉しいですね)
感慨深く馴染みのある大講堂へ視線を向けていれば、騎士の服を身に纏っているのにも関わらず、チマを応戦する団扇を手に飲みのものを飲んでいたゼラの姿が目に入る。
(…………。まあ良いでしょう…)
騎士団でも指折り、装備次第ではラチェさえも圧倒できるゼラは呑気な性分だ。
そうこうしていれば大講堂の照明魔法道具が明度を落としていき、これから行う音楽劇の紹介が簡単にされる。
「えー、今年生徒会が主催する学芸は各学年の生徒会役員から一人ずつ選出された三人による音楽劇となっております。作詞作曲から踊りの振り付け、果ては衣装まで生徒会で準備した例年に類を見ない、近年最大の催しとなるでしょう。会場にお越し皆様は大講堂の入口にて、演者を応援する為の団扇を配布させていただいており、出演の際にはそれを振っての応援をお願いします。それではお楽しみください『L'unione fa la forza(団結は力となる)』」
(なんですかな今の言葉は?)(旧帝国時代に用いられていた北方多言語の一つですな)(あぁ、アゲセンベの娘はパスティーチェに足を運んだと聞きましたから、北方文化に
嘲りを孕んだ不愉快な笑い。チマを懇意にする者たちからすれば一言かましてやりたい気持ちになるのだが、催しを台無しにするほうが彼女に対して無礼だと飲み込んで、視線を固定していれば左右の舞台袖から衣装の異なるチマが二人現れ、大講堂には驚嘆が漏れ出た。