「何がどうしてッ!外でもこいつらと戦わないといけないのかッ!」
「あは、まさかハードモード以外で戦う事になるとは思わなかったよね」
「笑ってる場合ですか!」
手に握った両手剣を振るい、目の前まで跳躍してきた
現在、イベント『トウキョウ侵食防衛戦』が始まって10分ほど。
その間、私達は状況の確認の為にと街中へと向かおうとした……だが、
「地下の入り口から敵性バグ達が出てくるとか予想出来るかぁ!」
『まぁ防衛戦なのだし……予想してなかった貴女の落ち度よね、これ』
「ホント正論好きだね!」
地下への入り口はトウキョウの至る所に存在している。当然、私達が現在居る街外れにもだ。
そんな入り口から、現在進行形で見覚えのある顔ぶれや、それ以外の全く知らない異形達が出現してはこちらへと襲い掛かって来ていた。
……鉈持ちにメガホン持ち、ゴリラに……流石にアナウンスの奴は居ない!居ないだけだけどさ!
私の知っているだけでも猿夢関係の敵性バグが。ライオネルの口ぶりからするに、無駄に頭の大きい人型の敵性バグは巨頭オ関係のモノだろう。
地上であるが故なのか、流石に下水道のワニ関係である汚水を纏った魚は見当たらないものの……中々に面倒臭い。下手に無視できない敵性バグが混じっているのもまた面倒だ。
目の前に来た鉈持ちに蹴りを加えつつ、私はライオネルへと声を掛ける。
「どうします?!」
「んー……正直、ここで戦ってても仕方ないよねぇ。マギくん、知ってる敵居る?」
「紫鏡は雑魚敵とか居ないタイプのボスだったんで居ないですよ。でも対処は出来ます……やりますか?」
「うん、やろっか」
彼女は自身の近くの敵性バグ達を軽く薙ぎ払いつつ、その場から跳躍する。
敵との距離を調整する為ではない。マギステルから距離を取ったのだ。
……ッ!そういう事!?
その動きの狙いに気が付き、私が遅れながらもライオネルに追従するように跳躍すると同時。
マギステルは指を指揮者のタクトのように動かした。
「――【ヴォジャノーイ】」
マギステルの周囲に水の球が地面から浮かび上がっていく。彼が準備と称して撒いていたモノだ。
それが1つ、2つと浮かび上がっていくにつれ、周囲の敵性バグ達は何かを感じ取ったのかマギステルの元へと殺到し、
「種類掃討、水撃始め」
全ての水の球が大きな音と共に弾け、散弾のように迫って来ていた敵性バグ達へと襲い掛かった。
一発一発の大きさは大した事は無い。しかしながら速度を乗せて放たれた為か、生身はおろか鉈持ちなんかの機械の身体を持つ者達すらも貫き、全身に孔を開けていく。
……うわ……全部制御してる……って事?これ。
当然、そんな攻撃をすれば離れたと言っても私やライオネルの方へも飛んでは来るものの。
それらは全て、こちらに当たる直前に急に進路を真下へと変えて落ちていく。
「ひとまず何とかなりそうかな。神酒ちゃん大丈夫?」
「え、えぇ……凄いですね、マギステルさん」
「いやぁ、マギくんにあの手の発想次第で何でもできる類の能力を持たせたらすっごいからね。アレも……多分、元はワニと同じ液体操作系能力だろうし」
「流石実働隊だぁ……」
そんな事を話しつつも、私達は私達で周囲の警戒を続けている。
ライオネルは【猿の腕】による選択式バフによって索敵に特化したモノを。私はイベントが始まったからなのか起動した【下水道のワニ】の能力によって、周囲の全ての音源を頭へと叩きこんでいた。
……ん、こっちに向かってくるのが……2人?
ライオネルと共に、遠巻きからマギステルへと攻撃を仕掛けようとした敵性バグを狩っていると。
どうやら音を聴きつけたのか、こちらへと走ってくる足音を2つ聴く事が出来た。ライオネルへと視線を投げれば、彼女は苦笑いしながら頷き、
「マギくんもう大丈夫!軽く弾いちゃって!」
「了解、ですッ!」
瞬間、マギステルの周囲の空気が連続して破裂するような音を周囲へと鳴り響かせた。
ただ音を鳴らしただけではない。彼が指を開き、シンバルのように叩く度に周囲の敵性バグ達が何かに殴られたかのように吹き飛んでいくのだ。
殺傷能力自体はそこまで無いのか、吹き飛ばされた敵性バグ達にはダメージが入っているようには見えない。だが、それで良いのだろう。
「あとは任せました!」
「――任されたぁ!」
マギステルが叫ぶと同時。
私が感知していた2人の内、1人の足音が
そうしてソレは私達の元へと突っ込んできた。黒く、しかしながら鏡のように綺麗に磨かれたボディ。
低い駆動音と共に、進路上に居た敵性バグ達を轢き飛ばしながらも目の前に停まったそれは……バイクであり、上にはライダースーツを着たフルフェイスヘルメットの女性プレイヤーが乗っていた。
「ごめんなさいね、ライオネル!待たせたわ!」
「待たせすぎ!次からは勝手に動かずに私かマギくん呼んでくれよ!」
「善処するわ!」
謎の女性プレイヤーはライオネルに対して謝罪をすると共に、虚空から道路標識を出現させ握りしめる。
……いやいやいや、反応から味方なのは分かったけど……どういう事!?
混乱する私を他所に、謎の女性ライダーは道路標識を振り回しながらもバイクに乗って敵性モブを蹂躙していく。
地下の入り口からは、今も敵性バグ達が湧き出ているものの……それもマギステル、謎の女性ライダーによって凡そリス狩りのような形で封じ込められていた。
「あは、これじゃあ私達やる事ないねぇ。近くには何も居ないっしょ?」
「居ませんね。居るとしても……うん、遠めです」
「よし。じゃあ……マギくん封じ込め1人でいけるでしょ!ハロウはこっちに戻っておいで!」
「あらそう?……いつも大変ね、行ってくるわ」
「もう慣れましたよ……」
ライオネルの声と共に、こちらへとバイクに乗って近づいてくる女性。
身長は大体ライオネルと同程度。ただ、顔は依然としてフルフェイスヘルメットを被っている為に見る事が出来ない。
「メアリーちゃんは?」
「途中でバイクに切り替えたから置いてきちゃったわね。まぁ、あの子なら大丈夫でしょう。どこに居るかは分かってるわよね?」
「私と神酒ちゃんはね。ハロウはそうじゃあないだろうに……よし、紹介するぜ。このライダースーツは私の友人で、協力者の1人のハロウさ。絶対遅れたのは彼女の所為だね」
「あら心外ね、ちょっといつも通り迷っただけじゃないの。どうも、紹介に与ったハロウよ。よろしくね、神酒さん」
そう言って、彼女はこちらへと手を差し出し握手しようとして手を止める。
どうしたのかと思っていると、
「おっと、流石に初対面なのにヘルメット被ってたままじゃ失礼よね。よいしょっと」
「へッ?!え、あッ!」
「あはははは!ハロウそれどうしたんだい?!頭無いけど!」
フルフェイスヘルメットを脱いだ先。
普通人間の頭部があるであろうそこには、何もなく……どうやって固定していたのか、そもそも被っていたと言えるのかと、確実に今聞くべきではない質問によって頭の中が埋め尽くされていく。
「これ、私のアルバンの影響なんだけどウケが良いのよ。このネタだけでもう5人はフレンドになったわ」
「最高じゃあないか。私なんて特にその手のネタ無いんだぜ?」
「あらら、それを聞けただけでもこのアルバンが当たりだって分かるわねぇ」
彼女が指を鳴らすと同時、ライダースーツは私達が着ているような装備へと切り替わり。
何もなかった頭部には整った女性の顔が出現し、こちらへと優しく笑いかけてくる。
……中々濃い人がまた1人増えちゃった……。
握手を交わすと同時、私の中ではライオネルの知り合いにはキャラクターが濃い人しか居ないのではないか?と少しばかりの不安が湧き出てきていた。