目次
ブックマーク
応援する
8
コメント
シェア
通報

Episode13 - ハローエモーション


「――成程、大体私がさっきマギから貰った情報と同じね」

「あ、ライオネルさんの話とはやっぱり違いますか」

「違うというか、本当に情報が無いわよ?今回だって『久々に遊びたいから!同僚もいるけど!』ってメッセージが来たくらいだし」

「そう言わないと、君最近忙しいから来ないだろうに」


 一度その場の敵性バグを軒並み倒し切り、マギステルの手が空く状況を作った所で街の中、こちらへと近付いてきていたもう1人の方へと向かって移動を開始した。

 その道中、ハロウとの情報共有を手短に済ませつつも、私は現在の街の様子を確認していく。

……侵食自体はまだ少ししか進んでない……けど、やっぱりプレイヤー側の混乱が凄いな。

 前倒しで開始し、尚且つほぼ延々と地下から敵性バグ達が出現し襲い掛かってくるのだ。

 生産区に到達しているプレイヤーなら兎も角として、それ以外の……それこそ、敵性バグとの戦闘経験が少ないプレイヤーにとってはかなり辛い状況ではあるだろう。


「ん……何かやってるね。神酒ちゃん」

「やってますね。これは……1人?1体?が大勢に囲まれてる?どちらにせよ敵性バグが進路上に大量です。……うわ、囲まれてるのに全部捌いて倒していってますよこれ」

「あ、それ多分置いてきちゃったもう1人よ。多分、形的には馬じゃない?」

「これは……多分、馬?馬ですね。いや、馬……なのかなぁ……?」

「歯切れ悪いねぇ。いやまぁ蹄っぽい音が聞こえてるから多分馬だと思うぜ?」


 範囲内に入ったのか、私の頭の中に何かが暴れている音が伝わってくる。

 但し、それが何なのかがハッキリとは分からない。馬のようでありながらも、在るべきものがないからだ。

……頭が無い馬、っていうと……東西どっちにも伝承があるから絞り込めないな……。

 一応、その背にはプレイヤーらしき人が乗っているのは音で分かる。否、乗っているというよりは振り回されている、と言った方が正しいか。

 どう感知しても、制御出来ているとは言い難い状態であるのは確かだった。


「どうします?先行しましょうか?」

「私だったらバイクですぐよ?」

「じゃあ神酒ちゃんだけで先行してもらおうかな。マギくんはその援護を……ここから出来る?ハロウはダメ。変に単独で先行させたらまた迷いそうだ」

「大丈夫です。精密操作は出来ないですけど」


 言われ、私はすぐさま首元から片手剣を2本具現化させる。

 両刃剣も使いやすくはあるのだが、乱戦気味の戦場では手数の方が欲しかったのだ。


「うぐ……前科があるから何も言えないじゃないの」

「まぁまぁ。後詰めは期待してるぜ。……あぁ、それと神酒ちゃん。飛んだ後だけどさ」

「はい?どうしました?」


 私がすぐに【メリーさん】の能力を使い飛ぼうとした所で、ライオネルが一度止めてくる。

 その顔は先程ハロウが登場した時のように苦笑を浮かべており、


「多分だけど、そこに居る子とは意思疎通がしにくいと思うから覚悟してね」

「え?んん?はい……?……いや、良いか。とりあえず分かりました。じゃあ行ってきます!――『あたし、メリーさん』」


 言われた事が少しだけよく分からず困惑しつつも、私はすぐさま行動を開始した。

 片手剣の柄を握りつつ、少し無理がある形で電話の形を手で作り能力を発動させ転移する。

 猿夢のハードモード時も行った、見えてはいないものの【下水道のワニ】の能力によって遠く離れた場所へと転移する、ちょっとした応用技。それによって飛んだ先は、


「『今あなたの後ろにいるの』ッ!ッとォ!?」

『おぉー、こりゃ中々壮観ねぇ。イケるの?』

「行くしかないでしょ!」


 見覚えのある大量の敵性バグ達が、1匹と1人のプレイヤーを取り囲んでいた。

 そこがトウキョウのどこにあたるのか分からない。だが、私の頭に叩き込まれていく音的に、中央へと近付いているのは間違いないだろう。人の喧噪や戦闘音がまだ遠く聞こえる事から、近くはないものの……【下水道のワニ】の能力範囲に知らないプレイヤー達が入るくらいには近付いたわけだ。

 だが、それを考えるよりも今は目の前の事態をどうにかするべきだろう。

 ドーナツのように周囲を囲む敵性バグ達の1体の背後へと転移した私は、すぐさまその背中を蹴り足場にする事で跳躍し、中心部へと飛び込んでいく。

……頭のない馬と……金髪の女の子?!

 そこに居たのは、暴れ狂う首無しの馬と必死にその背にしがみついている小さな女の子の姿だった。

 私と似たような装備を身に着けている事からプレイヤーである事には変わりない。


「助太刀します!一応言うと、ライオネルさんの仲間です!」

「ッ!~~!!」


 こちらの声に反応しつつも、何とかコミュニケーションを取ろうとしているのかボディランゲージで頑張っている姿に疑問を覚えつつ。

 私は迫ってくる敵性バグ達の対処を優先する事にした。とは言え、私1人で全てを相手に出来るとは思っていない。

……マギステルさんの援護は……来てるね!

 音を聴き、攻撃動作に入る一瞬前の駆動音や足の運びを感知する事で攻撃を避けつつ。

 私は大量の刃物を具現化させては投げ、振るい、突き刺し蹴り飛ばす。

 全部を相手にする必要はない。今も少女が乗る首無し馬が敵性バグ達を倒しながらも暴れているし……何なら、私の頭にはこちらへと近付いてくる大量の水音・・・・・が伝わっているのだから。


「お待たせしました!」

「全然!寧ろ早い!」


 そうして軽く凌いでいると、それは来た。

 どこから水を集めたのか、この短い時間で作られた巨大な津波。それの上には、サーファーのように波に乗るマギステルの姿が在った。


「絶対動かないでくださいね!メアリーも!」

「了解ッ!」


 彼は少しばかり辛そうにしつつも、波の上で先程の様に指を振るう。

 その瞬間、津波は砕け散り……9本の巨大な蛇のような形へと変化して私達の周囲へと迫って来ていた敵性バグ達へと襲い掛かっていく。

……って落ちてるじゃん!?

 蛇の操作に夢中になっているのか、マギステルはそのまま空中から落下していく。助けようと跳躍しようとしたものの、私の周囲ではその蛇が暴れているが故に下手に動けない状況であるのを思い出し、


「――おぉっと、流石にここで退場はやめてくれよマギくん」

「かっ飛ばすわよ!」

「いやもう着いたよ、ハロウ」

「すいません、助かります。まだ残ってるので少しの間、このままで」


 後方から飛ぶようにして駆けてきたバイクによって回収された。

 ハロウと、2人乗りのような形で同乗しているライオネルだ。

 その姿に胸を撫で下ろしつつ、私は蛇から漏れた敵性バグ達を手首のスナップだけで刃物を投げる事で牽制し続けていく。

……何とか終わりそうだね。

 だが、それをする必要がないくらいにはマギステルの津波の蛇は全てを呑み込み破壊していく。

 巨大な渦潮の中心、ちょっとしたアトラクションの様に思いながらも、ちらと近くに居る暴れ馬と少女に目を向けた。


「えぇっと……大丈夫、です?」

「……ッ!」


 だが、声を掛けたとしても声が返ってくることはない。

 恥ずかしそうに暴れる馬の背に顔を伏せてしまうからだ。


「ふぅー終わり終わり!ハロウが置いてっちゃってごめんねメアリーちゃん!」

「先輩、僕達は分かりますけど神酒さんが」

「あ、確かにそうだね。メアリーちゃんお願いできる?」


 と、そんな事をしていると。周囲の掃討が終わったのか、ライオネル達がこちらへと近付いて来てメアリーと呼ばれた少女を私達のパーティへと追加した。

 その瞬間、


『いやぁごめんね!ハロウが1人でバイクに乗っていっちゃうから焦ってサブのこの子出しちゃった!(´・ω・`) あ、神酒さんだよね?私はメアリー!よろしくね?』


 パーティチャットという形で自己紹介をされた。

 気が付けば暴れ馬も光の粒子となって消えていっており、中々に理解が追いつかない。

……へっ?えぇ?!

 どういう事なのか、と私が固まっていると。


「あは、やっぱり初見は驚くよねぇ。この子はメアリーちゃん。私達の協力者兼ゲーム仲間で……言っちゃえば、極度の無口、恥ずかしがり屋さんさ。代わりにこんな感じにチャットでは滅茶苦茶喋ってくれるんだけどね」

『前よりは喋れるようになったもん!('ω')』

「……濃い……ッ!やっぱりライオネルさんの周りの人キャラが濃い……ッ!!」

「諦めてください。僕はもう慣れましたよ」

「あら、マギも多分濃い寄りのキャラクターしてると思うわよ?」


 と、戦闘とは別の部分で精神的に疲れが来たものの。

 一応合流できそうなライオネルの知り合い達とは合流する事が出来た。あと1人ほど本当は招集していたとの事だが……その人物については、元々集合場所に辿り着けるとは思っていなかったらしいので、端からパーティ人数としてはカウントしていないそうだ。

……時間は……進んではいるね。

 ここまで長い様で約30分程度の出来事。

 空中に浮かぶ時計へと視線を向ければ、確かに30分ほど針が進んでいるのが分かるものの……未だタイムリミットが何分後、何時間後なのかははっきりとしない。


「さて、じゃあ移動しながら街の様子を確認しつつ……1YOUくん側の情報を聞こうか」

「そうですね。……どうします?さっきと同じように、私とマギステルさんが先行しますか?」

「いんや、さっきみたいな緊急時じゃないし適度にその辺の敵性バグを倒しながら行こう。オーケィ?」

「「『了解』」」

「よし、じゃあ出発だ」


 そうして私達は1YOUの居るであろう、トウキョウの中心部へと改めて移動を開始したのだった。

 街への侵食は、今も進んでいく。

 私達の頭上では未だ、時計の針は止まらない。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?