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稽古停止、しかし・・・ 4

 そこから、これまでの戦いでは上原主導だったが、今度は自分も攻撃しよう、という気持ちになった。

 しかし、これまでの稽古の経験から、上原のように積極的に自分から積極的に仕掛けるというより、相手からの攻撃を受けて反撃する、という方が性に合っている。

 ということで、今度は相手の攻撃を誘い、それを逆利用して反撃することを考えた。

 その場合、構えを工夫し、相手からの攻撃を誘導するようにすることになる。

 颯玄は最初の構えの時よりも上肢を下げ、上原の上段攻撃を誘った。具体的な仕掛け技までは読めないが、少なくとも上段が攻撃の対象になるようにしたのだ。

 そういう想定ができれば、集中しやすいので防御も容易だし、そこからの反撃もやりやすい。先ほど上原は2回、上段突きで仕掛けてきたので、それが得意な技なのであろうと考えたのだ。

 上原は颯玄の読み通り、再び上段突きで仕掛けてきた。

 ただ、今度はこれまでのような刻み突きではない。間合いが少し遠かったこともあり、追い突きだった。基本稽古ではよくある技だが、よほどしっかり行なわないと仕掛けた時に突きや蹴りを合わせられることがある。

 追い突きにした上原の思いは、同じ技でばかり仕掛けていては読まれるのではという考えからだが、上段突きという括りはそのままでこれまでと違えた技にしたのだ。

 颯玄の予想とは異なったが、上段への誘いを意識していた以上、この技でもきちんと対応できた。

 構えた状態での奥手による手刀回し受けだ。颯玄から見て右回しで行なう技で、上原にとっては尺骨側から受けられることになる。こういう方向での対応の場合、立ち方との関係から姿勢を崩しやすい。

 そして今回、上原の誤算だったのは足場だった。いつもの稽古場と違って草が生えている分、運足がきちんとできなかったのだ。通常であればもっと鋭い踏み込みになっていたであろうが、草に足を取られ、踏み込みの質が不十分だったのだ。

 だが、これは場が読めなかった上原の失態だ。

 颯玄はそういうところを見逃さず、手刀回し受けで防御し、同時に崩しを行なった。前足を素早く上原の膝関節に絡め、そこから腰を捻り、地面に上原の膝を着かせたのだ。その瞬間、颯玄は右の正拳で上原の頭部を突いた。

 ただ、上原は死に体になっているので実際に当てることは無く、寸前で止めた。この時、勝負がついた。


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