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第85話 密談

「そうなんだよねー」


シャールに甘いセスも里帰りだけは頑として許可しない。なんでも一度帰ったら里心がつくとかなんとか……。

それだけここの居心地が悪いと自分で言ってるようなものなのにとシャールはギリリと歯噛みする。


「何か動きがあればすぐ私に連絡が入ります。気が急かれると思いますがもうしばらくお待ちください。……それより今日は陛下と庭でお茶をご一緒されるお約束ではなかったですか?」


「あっ!そうだった。支度を手伝ってくれる?」


「承知しました。ただちに」


メアリーは侍女を呼び、彼女らと一緒にシャールを美しく飾り立てた。元より優れた容姿をしていたシャールだが、特にここ最近は綺麗というだけではない、内から輝くような秀麗さを纏い始めている。


(成人する頃にはどれほど魅力的になるんでしょう)


メアリーはそんなシャールに仕えることが出来た事を誇りに思った。




「お待たせして申し訳ございません。帝国の太陽にご挨拶いたします」


約束の時間には間に合ったが、既にガゼボで寛いでいた国王を前に、シャールは慌てて膝を折った。


「なに年寄りは暇なんだ気にしなくて良い。それに堅苦しい挨拶もなしだ。さあ座りなさい」


「失礼いたします」


レオンドレスは人の良い笑みを浮かべシャールに着席を促した。


(……まだ僕が小さい頃、父上と登城して迷子になり泣いていた時に優しくしてくれたあの頃の陛下に戻ったみたいだ)


シャールは嬉しくなった。


「お加減は如何ですか」


「シャールのおかげですっかり元気になった。いや、元に戻ったと言うべきか。あんなに一日中ぼんやりと頭に霞がかかっていたのが嘘のようだ」


「それは良かったです」


「外に出るのも久しぶりだ。いい天気だし風も気持ちいい。そしてあの泣き虫だったシャールがすっかり大人になって私の目の前にいる。何もかもが素晴らしいよ」


「そうですね。長く臥せっておられましたから……」


今から思えばそれもすべて皇后が毒を盛っていたからだった。だがすべてを医者のせいにされた今、証拠もない状態で彼女を罪に問うことは出来ない。しかも証言者になりうる存在だった件の医者はさっさと皇后の手によって家族ともども殺されてしまったのだ。


「ようやくシャールとゆっくり話すことが出来る」


「そう言えば本日、皇后陛下はおられないのですね」


病み上がりで心配だとベラはレオンドレスの側を片時も離れず世話をやいていた。……それが本心だとはシャールもレオンドレスも思ってはいなかったが……。


「ああ、調子が悪いふりをして一日寝ていると言ったら安心して街へ宝石を買いに行った。なんでも最近、品質がよく細工も素晴らしい宝石を売る店があるらしいな。しかも珍しい色もあるらしく、その店の宝石を舞踏会でつけるのがステータスになっているとか。普通の宝石商のように外商はしないらしくブツブツ言っておったがな」


(まさかその宝石がうちの領地から出てるなんて夢にも思ってないだろうな。さすがクラン。商売の腕も一流だ。ミッドフォード公爵家はこれから先も安泰だな)


シャールの微笑みを宝石の話のせいだと勘違いしたレオンドレスはその宝石をシャールに贈ろうと提案した。シャールは笑いを堪えながら辞退する。するとレオンドレスはシャールを清廉だと褒め称えるのだった。


「ところでそろそろ本題に入ろうか。皆、下がってくれ」


「はっ」


レオンドレスの一言で騎士や侍女達が姿を消す。もちろん有事に備えて警備はしているが、二人の声が聞こえない場所まで移動したのだ。シャールはそれを確認してから座っていた椅子から立ち上がり、陛下の側の椅子に座り直した。


「アフロディーテ様のお産みになられた皇子の件ですね」


「ああそうだ。シャールを信じていないわけではないが半信半疑でいる。詳しく話をしてくれ」


「承知しました」


それからシャールは、ゴートロートが大神官から聞いた話を始めた。そしてその結果、ゴートロートは襲われ一時は死の淵をさまよった事も。ゴートロートをもう一人の父のように慕っていたレオンドレスは痛ましい顔でそれを聞いていた。


「ではアフロディーテは私のことが嫌になったのでも他に思う相手が出来たわけでもなかったんだな」


「はい。アフロディーテ様は陛下のお子を守るためだけに姿を隠されたのです」


「そんなつらい話があるものなのか……すべては私のせいだ。跡継ぎのことをうるさく言われ、周りに流されるままにベラを城に入れることを許可した。もちろんアフロディーテを心から愛していたからベラとは顔も合わせなかったが、形だけの側室の分際で皇后を手にかけようとしていたとは……」


「まだ遅くはありませんアフロディーテ様の忘れ形見である皇子……アルジャーノンは生きています。でも行方が分からないのです。何とか探し出すことはできませんか」


「もちろん全力で探そう。だが何故皇子が生きていると分かるのだ?」


「何故か分かるのです。アルジャーノン皇子をお慕いしているからかもしれません」


「なんと……セスではなくアルジャーノンを?だがそんな簡単に婚約をなかったことには……」


シャールは椅子から降りてガゼボのタイルの上に座る。そしてレオンドレスを見上げた。


「陛下がお眠りになっていた間の僕の話を聞いていただけますか。僕とセス殿下、そして従兄弟のルーカ、それからアルジャーノン皇子と過ごした毎日のことを」


「……随分と私の知らない苦労をかけたようだな、聞こう。全部話しておくれ」


「はい」


シャールは包み隠さずすべてのことをレオンドレスに話して聞かせた。





「目がさめたのね!良かった。すぐおじいちゃんに知らせなきゃ!」


(……誰だ?それにここはどこなんだ)


目が醒めてすぐ、視界に入ってきたすべての物がアルジャーノンにとって見覚えのないものばかりだった。

木でできた壁も低い天井も、声をかけてきた妖精みたいに元気のいい少女も。


「驚いた。あの状態から目を覚ますなんてよっぽど強靭な肉体を持っておったんじゃな。今医者を呼んだからそのまま寝てなさい」


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