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第135話 アルジャーノンの意外な才能

「謀反?ブライト王国で?!」


エイガーで足の治療を続けていたシャールは、祖国からの緊急の知らせに、驚いて跳ね起きた。


「ああ!シャール様、治療中は動かないでください」


わらわらと小柄な魔法使いたちが慌てて駆け寄りシャールに横になるよう促す。

けれど、落ち着いていられない。


「他に情報は?父上やお祖父様、サラたちは大丈夫?」


矢継ぎ早の質問に、使者はオロオロしながらも、的確に答えをくれた。


結局、群衆は城を襲っただけで他の貴族に被害はなかった。王室と一緒になって甘い汁を吸っていた貴族たちはとっくに国外に逃げていて、残っていたのは、普段から寄付や救済を欠かさない人道的な貴族ばかりだったというのが理由のようだ。


「セスや皇后は逃げたままなんだよね?」


「はい、まだ見つかっておりません。隠し通路があり、追いましたが既にそこから遠く離れた後だったようで。……出口には赤ん坊の亡骸だけが残されておりました」


「赤ん坊……まさか……ルーカの?」


「恐らく。……連れて帰っても罪の子として碌に埋葬もしてもらえないと考えた兵士たちが、近くの森に手厚く葬ったと聞いております」


シャールは胸がキリリと痛んだ。誰の子だろうと子供に罪はない。それなのに一番最初の犠牲者が無垢な赤ん坊なんて。


「国王不在の状態か……城は無人?」


「はい。半分近くが焼け落ちて危険な状態なので、副団長のエイベル様が指揮を取り後始末をしておられます。また、騎士たちが城に残っていた骨董品などを売り払い、その金で飢えた民に炊き出しを行っているようです。エイベル様が、アルジャーノン様がお戻り次第罰は受けると……」


「そう……でも罰の必要はないよ。引き続き、売れるものは売って民の生活の向上に努めるよう伝えて。病気の者も多いだろうから医者の手配も頼んだよ」


「承知いたしました!」


国王不在となった今、シャールが立てた計画を実行する時かもしれない。そのためには早く祖国に帰らねば。


「アルジャーノンを呼んでください」


「はい」


シャール付きのメイドがパタパタと足音を立てて走って行った。……ブライト王国なら城勤めのメイドが走るなんてとんでもない事だが、この国のそんな自由さが今では心地よく感じていた。


「シャール様!お呼びと聞いて参りました」


アルジャーノンも走って来たのか、額に汗をかいていた。普段着を着ているところを見ると、剣の練習でもしていたのだろうか。


「ごめんなさい、呼び立てて。まだ治療中で動けなくて」


「いえ、光栄です」


アルジャーノンはいつものように、シャールの手を取ってその甲に口づける。


(……国王になるんだし、そろそろこういった態度も改めてもらわないといけないな)


アルジャーノンは拒否するだろうが、こればっかりは仕方がない。シャールはそれまでに彼の機嫌を取っておこうとにっこりと彼の好きな笑顔を見せた。


「シャール様、ご機嫌ですね。私も嬉しいです」


「ご機嫌っていうわけじゃないんだけど……一緒にブライト国に帰りましょう」


「謀反の件ですね、それなら私が行きます。シャール様は足の治療に専念してください。最短でも半年かかると言われているんですから」


「……その件について、考えたんですが」


「何ですか?」


シャールは治療を施してくれていた、一番年嵩の魔法使いに声を掛けた。


「私より、まずはこの方の話を聞いてください」


「……?はい」


「あー先ほどシャール様にある仮説をお伝えしました」


「仮説?」


アルジャーノンは怪訝な顔で年嵩の魔法使いを見た。


「アルジャーノン様のお母様、アフロディーテ様はとても強い力を持った魔法使いでした。しかも薬師でもあり、才能に溢れていたのです」


「はい」


それで?と言いたげにアルジャーノンは僅かに首を傾げた。


「その血はアルジャーノン様にも受け継がれているはず。そこでご提案です。魔法の手解きを受けてみませんか?」


「え?私が?」


驚いたアルジャーノンは、振り向いてシャールを見るが、シャールは魔法使いと同じ表情で同じように頷いている。


……そうなると、シャール至上主義のアルジャーノンとしては抗うことなど出来るはずもない。

仕方なく小さな声で、「よろしくお願いします」と呟くと、あっという間に好奇心旺盛な魔法使いたちに連れ去れてしまった。


「……良いのですか?確かに血筋はありますが、アルジャーノン様が魔法を使えるとは限りませんよ」


「ええ、でも可能性があれば試してみても良いでしょう?」


「まあ確かに。それほど仰るなら私も尽力しますが……」


「お願いします」


シャールの微笑み一つで魔法使いたちは何でも言う事を叶えてくれる。最近、あざとさを覚えたシャールはまさに無敵だった。



それから約一週間。

最初こそ、魔力の流れを体で覚えることに手こずっていたアルジャーノンだが、持ち前の器用さで、あっという間に魔法が使えるようになった。

しかもアフロディーテ譲りの魔法量で、シャールの足の治療も難なくこなせるようになったのだ。


「こんな事なら早く教えて貰えば良かったね?アルジャーノン」


毎回、魔法使いたちがシャールの足に触れるたび、胡乱な目で彼らを見つめ、恐怖に震え上がらせていた事を考えれば、確かにこれが一番の平和的解決だろう。


「すごいね、これで一緒に国に帰れるよ」


「……なるほど、それが狙いでしたか」


「だってこんな時にのんびりなんてしてられないよ」

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