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第141話 ゴーンロゼットの退場

「戯言はそこまでにしてください」


今まで黙って聞いていたアルジャーノンが静かに口を開いた。


「ざ、戯言などと……失礼な……」


いつもと違うアルジャーノンの様子に、会場内はピリリとした緊張に包まれた。それでも負けじとゴーンロゼットは語尾を濁しながらも彼に食ってかかろうとする。


「そもそも他国の王になられる方がブライト国のことに口を挟まないでいただきたい!我々はこの国を愛している。だからより良い方向に導かねばならないのです!」


(ベラと一緒にこの国を散々食い物にして来たくせに!)


シャールは彼を諌めようと口を開きかけた。……が、隣に座っていたアルバトロスがシャールの手を握りゆっくりと頷く。


(アルジャーノンに任せておけってこと?でも彼は優しい人だから……)


ゴーンロゼットは狡猾だ。己の私利私欲のためならどんなことでもしようとする。今回だって根回しは済んでいるのだろう。そこいら中からアルジャーノンに対する抗議の声が上がり出した。


「ゴーンロゼット」


「……なんでしょう」


アルジャーノンはゆっくりと立ち上がり彼を見据える。騎士団にいた時とはまるで違うその姿に、ゴーンロゼットは落ち着きなく視線を彷徨わせた。


「国を導く?この国を愛している?それは結構。だがもうそれはあなたの役目ではない」


「なっ?!」


言葉こそ丁寧だが、アルジャーノンの迫力にゴーンロゼットはそれ以上何も言えない。

部屋の中は一気に空気が薄くなり、そこに居た者すべてが恐怖に呑まれた。


「ゴーンロゼット。ベラと共謀し長く国庫から金品を横領をしていた罪で捕縛する」


「はあっ?!どこに証拠があるというのだ!」


他国の王になる者への口の利き方ではない。一緒にヤジを飛ばしていた者たちも一斉に黙り込み焦り出した。


「ベラが口を割った」


「は?え?ベラが?」


「ああ、地獄へ共連れにしたいらしい」


「……?!あの役立たずが!なんてこと!」


「連れて行け」


アルジャーノンの合図で兵士たちが部屋に傾れ込む。そして喚き散らしているゴーンロゼットを乱暴に引っ立てて部屋から連れ出した。


「……ゴミの始末はついた。 続けよう、他に意見のある者は?」


アルジャーノンは鋭い目で先ほどヤジを飛ばしていた者たちを見据える。けれど、もう誰も口を開くことはなかった。



◇◇◆◆◇◇



その後、主要貴族たちの話し合いの末、騎士達の身分や、貴族たちの立場が中途半端になることを鑑みて、それらをすべて廃止し、ブライト王国は正式にブライト共和国になった。

貴族籍にいた者たちは、その名の栄光だけを残し、様々な特権は廃止されたのだ。


「さほど混乱を招かずに済んで僥倖だ……だが」


ゴートロートが飲んでいたお茶をテーブルに置いて、アルジャーノンを見た。


「アルファの威圧を出すのは構わんが、あの場にシャールがいたことは分かってたな?」


「……はい」


「お祖父様、僕なら平気ですよ」


「何を言うか。額から汗が流れておったではないか」


「すみませんシャール様」


あの日の威厳はどこへやら。アルジャーノンは叱られた子供のようにしょんぼりとしている。


優勢アルファの威圧は自身のアルファとしての能力が高ければ高いほど大きくなる。そしてそれはオメガにとってかなりの負担になるのだ。


「責めることはしない。王として立派な態度だった。だがシャールは……」


「お祖父様!忘れてました!お祖父様のためにクッキーを焼いたんです。食べてください」


シャールは小さなカゴに入ったお菓子をゴートロートに差し出した。


「なに?シャールが菓子を作ったのか?自分で?わしの可愛い孫はなんでも出来るのだな」


「はい!心を込めてお祖父様の大好きなアーモンドを沢山入れました」


「どれどれ……うん、美味いな」


「はい、ゆっくり楽しんでくださいね、僕たちは人と会う約束があるので今日はこれで」


「ああ、またな」


「はい!失礼します」


そう言ってアルジャーノンの腕を掴み、シャールは無事、部屋から出ることに成功した。


「ふー、危なかった。お祖父様は本当に優しいんだけど、その優しさが暴走しちゃうところがあるんだよね……」


「……いえ、ゴートロート様の言われることはもっともです」


「アルジャーノン、僕は大丈夫。かっこよかったよ」


「……」


(……正直言えば確かにあの圧は辛かった。意識して僕を見ないでいてくれたにも関わらず、冷や汗が止まらなかったもの)


けれど、それ以上に頼もしかったのだ。これからエイガーの王となり、皆を率いていく立場になるのだ。優しいだけでは務まらない。

ブライト共和国に関してもまだまだ決めないといけないことは沢山ある。

エイガー王国もブライト共和国も、始まったばかりなのだ。





「シャール!」


目の前から早足で女性が歩いて来た。


「サラ!久しぶり!」


シャールは小走りでサラに駆け寄り、二人は抱きしめ合って再会を喜ぶ。


「元気だった?」


「とても!サラはどうだった?」


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