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最終話


 王宮は礼拝堂と王の間がほぼ壊滅状態にあり、大規模な復旧作業が必要だった。城下町もハデスが魔物たちを倒して被害を最小限に食い止めたものの、破壊された家屋も多くこちらも通常の生活を取り戻すのにしばらく時間がかかりそうだった。


 亡くなった者は勇者約千名、民衆は百名ほどと言われている。街にはこの一連の出来事で亡くなった者たちの魂を慰めるための石碑と、民衆を救ってくれた女神像が建てられることとなった。


 国は「ここ数年の魔物の襲撃は、偽物の国王が引き起こした出来事だった。新国王アーノルドは魔王サーシャと協定を結び、今後決して魔物による襲撃が行われない旨の条約の締結を行なった」という声明を出した。


 最初は半信半疑だった国民も、以後ぱたりと魔物による襲撃が無くなったことを受け、安堵の声を上げた。



 ◇◆◇



 ――それから数年後。


 アーノルドは城下町を一人歩いていた。王都もほとんど復興が終わり、街は賑わいを取り戻してきた。


「おっ、アーノルド様! これ今朝採れた果物! 持って行ってくださいよ!」


「アーノルド様! 先日はどうも!」


「王様! リースの街からサンドドラゴンの肉、入荷してますよ!」



 すれ違う人々や店先に立っている店主らが笑顔で声をかけてくる。アーノルドもそれに笑顔で丁寧に答えていく。

 国王となった今でも民衆との距離感は変わらず、絶大なる人気を誇っていた。いや、慕われていたといったほうが適切だろうか。



「あっ、アーノルド様だ!」



 アーノルドに気づき、道の向こうから一人の少女が手を振りながら近づいてきた。


「やあノノン。元気そうだね」


 彼女もすっかり大きくなっていた。左脇にはいっぱいの花束を抱えていて、どこかへ出かける途中なのかもしれなかった。


 ノノンはアーノルドの足元から頭の上までをじっくりと眺め「やっぱりアーノルド様、何だかたくましくなったね! もうかけっこでは勝てないかも!」と相変わらずの上から目線で褒めちぎった。


「ははは、ありがとうノノン。僕も少しは強そうに見えるかい?」


「うん! ところで、今日は王妃様は? 一緒じゃないの?」



 ノノンはアーノルドの周囲を見て、いつも隣にいるはずの王妃がいないことを気にした。


「ああ、リディアはお城で休んでいるんだ。お腹もだいぶ大きくなってきたからね」


「へえ、じゃあもうすぐ王子様かお姫様が生まれるんだね!」

 じゃあ、これプレゼント! と言ってノノンは持っていた花束から数本抜き取り、アーノルドに手渡す。


「ありがとう、ノノン。ところで君はそんな花束を持ってどこへいくんだい?」


「えっとね、女神像にお祈りにいくの! アーノルド様は?」


「僕はいつものように慰霊碑にお参りにね」


 ノノンはもしかしたら一緒に女神像に行けるかもと思っていたのか、少し残念そうな顔をした。

「そっか、また一緒に遊ぼうね! ってもう王様だから忙しいかなぁ」


「そんなことないよ。また一緒に遊ぼう、ノノン」


「うん、またね!」



 ――女神像。ああ、ハデス様をモデルにした石像か……あのときはハデス様一人でこの街を守ってくれていたんだもんな、本当にすごい。感謝してもしきれないなぁ……。


 アーノルドはそんなことを思いながら、走り去っていくノノンに手を振って別れた。



 ◇◆◇



 賑やかな街並みから幾筋か入った街の外れの静かな場所に慰霊碑は立っている。かつて生き残った勇者が、亡くなった仲間達を一か所に集め供養した場所だという。


 アーノルドが慰霊碑に着くと、そこには先客がいた。地味だが重厚な鎧に身を固めている大きな男は、慰霊碑の前で膝をついて花を添えていた。そのまま手を合わせて祈りを捧げた。


「ウルフさん!」


 アーノルドが呼びかけると、「孤高の槍使い」神速のウルフがこちらを振り返って笑顔を見せた。


「国王陛下」

「いつもありがとうございます、おかげで勇者の腕輪もほとんど回収できました」


 戦いが終わってからこれまで、ウルフは全国各地を旅しながら腕輪を付けたままの勇者を探している。彼らを見つけると事情を話し、腕輪を破壊していった。


 勇者制度が終わり、そして魔物が全く出てこなくなった今、腕輪を付けている理由がなくなったことでそれを拒む者はいなかった。

 ウルフがそんな旅の途中でたまたま王都に立ち寄ったところ、ちょうどアーノルドと出会ったというわけだ。



「それでも、まだ腕輪を付けた勇者は残っているかもしれません。全ての腕輪の破壊、それが残された俺が果たすべき責任だと思っています」



 ウルフは祈りを終えて立ち上がり、アーノルドの目を真っ直ぐに見てそう言った。


「僕は……国王としてもう二度とあんなことが起こらないように、魔族と共存できる世界を目指そうと思います」


 アーノルドもウルフの横に立ち、ノノンからもらった花を一輪、慰霊碑に捧げた。そして手を合わせて祈りを捧げた。



「あなたなら……きっとできるでしょう」


 ウルフは青く晴れた空を見上げながら言った。アーノルドも同じように空を見上げた。




 雲はゆっくりと流れ、優しい風が頬を撫でた。





 ――勇者レベル0 完――












 おいおいおいおい! 「完」じゃねぇよ!

 俺様が出てきてないじゃねぇか!

 忘れたとは言わせねぇぜ! ガ・ル・シ・ア・様! だ!


 ちょっと俺様の後日談でも聞きやがれ!



 千人の魔物と戦って気を失ってよ、目が覚めたときは朝日が眩しかったんだよ。確かに切り落とされたはずの右腕も元に戻ってるし。なんか夢でも見ているような気分だったぜ。


 なんか気を失う前にハデス様にあったような気もするんだが、覚えちゃいねぇ!


 で、広場には千人の勇者たちの死体が転がっていてよ……あれ、俺が戦っていたのは魔物だったはずなのに……やべぇ、これ兵士に見つかったら捕まっちまうんじゃねぇの? 面倒くせぇ! と思って誰かが来る前に王都から逃げ出したぜ。



 勇者の腕輪もなくなったから、また犯罪者に逆戻り……ってのもシャクだから、リースの町あたりに行ってほとぼりが覚めるのを待つとするか。


 え? リースの街は壊滅状態だって? いいんだよ。俺様の生まれ故郷だからな。壊滅したなら一から作りなおして、俺様が街の長にでもなってやろうかね!

 そんときゃお前を招待してやるよ。絶対来いよ! 断ったりしたら……ただじゃおかねぇからな!!



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