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第十二話『白の都』・伍

「-ああ、桃ちゃんお帰りっ!」

「あ、鶇(つぐみ)おばさんっ!ただいまっ!」

 西条の家に入ると、割烹着姿の元気な女性が出迎えてくれた。…本当に家族みたいな関係なんだな。

「…そして、そっちの彼が『寅』に選ばれた子だね?」

 すると、女性は明るい顔を真剣な顔に変えてこちらを見て来た。…なので、俺は挨拶をする為一歩前に出る。

「はじめまして、木之本仁です。

 宜しくお願いします」

「…っ。ああ、宜しくね。

 私は、西条鶇。葛西の門下生ではないが、葛西の資料の保管を任せられている者さ」

 こちらが名乗ると、向こうは少し驚きつつ笑顔も笑顔で名乗り返してくれた。…しかも、どうやらこの人が目当ての人ようだ。

「鶇おばさんは、さっき説明した奥方様の孫弟子にあたる方なの」

「そういう事。

 さあ、資料はあらかた出してあるから家の方に行きましょう」

「分かった」

「ありがとうございます」

 すると、管理人はそう言って倉庫の方に歩き出したので俺達も後に続いた。

 それから少し敷地を移動していると、桃歌の家と同じくらい立派なお屋敷が見えて来た。


「-あ、いらっしゃいませ」

「こんにちは。

 さ、どうぞお上がり下さい」

「「お邪魔します」」

 そして、屋敷に入ると先程鳥小屋に居た息子さんが正座して待っていた。なので、俺達は一礼し上がらせてもらう。

「では、こちらの部屋にどうぞ」

 すると息子さんは、直ぐ近くの部屋の襖を開けてくれた。…おお。

 その中には、沢山の机が出されておりその上には手紙やら本が乗っていた。

『-っ!…こんにちは』

 しかも、部屋の中は数十人の男女が居て資料を確認してくれていた。…てっきり、自分達で調べると思っていたがここまでやって貰えるとはな。

「…皆さん、どうですか?」

「…申し訳ありませんが、まだです」

「…やはり、戦乱終結から数年は慌ただしかったので資料が少ないですね」

 家の人達に凄く感謝していると、息子さんは成果を聞いた。…しかし、どうやら難航しているようだ。

「…そうですか」

「…やっぱり、消息を追うの難しいね。

 -そうなると、ここは彼女の『相棒』に聞いてみるしかないね」

「…っ!」

『-…ふうむ』

 すると、管理人は俺を見てそんな事を言う。確かに、寅なら知っているかもしれない。…そんな事を考えていると、寅はゆっくりと姿を現したが何やら悩んでいるように見えた。


(…どうした?)

『…いや、困ったな。我とかつての相棒は、ほとんど普通の話をした事がないのだ』

「…っ」

「…ん?もしかして、今相棒とお話してるのかい?」

『…っ!』

 寅がそんな事を言ったので、思わず反応してしまった。当然、管理人は気付いたし家の人達は一斉にこちらを見てきた。

「…えっと、どうやらあまり力になれないようです。

 どうも、相棒と春川女史は日常会話をほとんした事がないみたいです」

『……』

「…確かに、私もあまりそういう話をしてないな。

 ましてや、戦乱の末期にそんな話をしてる暇はほとんどなかったのかもしれない」

『…あ』

 すると、班長はそんな事を言った。それを聞いた西条の人達は納得した顔をした。…さて、どうたしたものか。


「…でも、ちょっとは普通の話をして事があるんだろう?

 その話を、聞かせてくれないかい?」

(…という事だが、どうだ?)

『…承知した。

 -…そうだな。前にも話したが、あやつは心優しい性格だった。

 それこそ、お前のように争い事が苦手だった』

「…っ!…えっと、まずは春川女史の性格の話ですね」

「…ほう?どんな性格だったんだい?」

「心優しく、争いが苦手だったようです」

「…なるほどね」

「…もしかして、仁と同郷だったりしない?」

「…(…どうだ?)」

 すると、班長は俺と同じ予想をしたので確認してみる。…だが、残念な事に寅はハッキリと首を振った。

(…いや、あやつは大陸の出身だと思う。

 何故なら、あやつは幼少の頃から大陸各地を巡っていた旅芸人一座の者だっなからな)

「……。…えっと、多分ですが大陸生まれだと思います。

 どうやら、春川女史は旅芸人一座の出身のようです」

「…確かに、春川女史は芸人出身でしたね。

 しかし、確かその一座は戦乱の中で解散していた筈です」

 次の情報を話すと、息子さんは補足をしてくれた。…まあ、そう簡単には『道』は繋がらないか。


『…後は、そうだな。

 -もし、戦乱が終わったら何をしたいか聞いた事がある』

「…っ!」

『…っ』

『-自然豊かな土地で、晴耕雨読の日々を送りたい-。…そんな、ささやかな願いを語っていた』

「………」

「…どうしたんだい?」

「…あ、すみません。

 もしかしたら、春川女史は自然豊かな場所で穏やかな余生を過ごしているのかもしれません」

『…っ!』

「…良い情報だね。

 一人でしかも自然の中で悠々自適な生活をするとなると、場所はかなり絞られる」

『…っ』

 管理人がそう言うと、家の人達は部屋の奥にある資料を調べ始めた。…多分、春川女史の動向が書いてある資料があるのだろう。

 そして、恐らく女史は若い時から候補地を探していたのかもしれない。

「-っ!ありましたっ!」

「こちらもですっ!」

 すると、二人の女性が有力な候補を見つけたようだ。なので、管理人と俺と彼女はそちらに行く。


「何処だい?」

「私は、『雲ヶ浦』です」

「私のは、『黄仁境(おうじんきょう)』です」

「…っ!どちらも、名前だけ聞く秘境じゃないか」

「…場所は分からないんですか?」

「ああ。…ただ、まるっきり分からない訳でもない」

「…あ、そうか。

 確か、『あのお二人』なら知っているかもしれないね」

 管理人がそう言うと、班長は何かを思い出したようだ。…あの二人?もしかして-。

「…そうよ。この間話した申と戌の二人の闘士ならこの場所を知っているかもしれないの」

「二人共、自然豊かな土地の生まれだしそのおかげか秘境巡りが趣味だからね」

「…なるほど」

「…まあ、やるべき事は変わらないわ。

 一刻も早く、お二人と合流しましょう」

「…だな」

「そうだね。それが、一番の近道だろう。

 …あ、今二人が何処に居るか分かるのかい?」

「「はい」」

 俺達が改めて決意していると、管理人は同意しつつ大切な事を確認して来たので、俺達は力強く頷いた。


「今、お二人は真清の国の首都である『臙脂』の都に居る筈です」

「…首都に?何でまたそんな所に…っ!」

 居場所を聞いた管理人は、首を傾げるが直ぐに悪い予想を抱いたようだ。…勿論、俺達も居場所を知った時から嫌な予感がしていた。

「…今、この国で最も蒸気技術の開発が進んでいるのは首都ですからね。

 -言い換えば、『奴ら』が一番狙いそうな場所です」

「…それに、仲間の話によると最近首都のほうに向かう大規模な輸送部隊が、何度かお家の前を通過したようです。

 もしかしたら、近々『大きな催し』が行われるのかもしれません」

『……』

「…ほぼ、間違いないだろうね。

 はあ、本当に厄介な連中だ」

「「…全くです」」

 管理人は頭を抱えながら、深いため息を吐き出した。…当然、俺達も同じ気持ちだった。


「…まあ、とりあえず場所と手掛かりがはっきりしたのはなによりだ」

「…ですね。

 あ、皆さん。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

『…っ。どういたしまして』

 けれど、管理人は何とか気持ちを切り替え役割を果たせた事にほっとした。なので、俺達は皆にお礼を言う。

「…では、私達はこれで失礼します」

「失礼します」

「ああ。

 …二人共、これからもきっと大変だろうけど仲間と力を合わせて頑張りな」

『頑張って下さい』

「「はいっ!」」

 すると、最後に管理人と家の人達が応募してくれたので俺達は力強く頷いた-。

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