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第十三話 『葛西の稽古』・壱

「-ただいま~っ!」

「はい、お帰りなさい。」

 それで、どうだったの?」

 俺達が道場に戻ると、また班長の母親が出迎えてくれた。すると、母親は真面目な顔で結果を聞いてきた。

「とりあえず、候補とその場所を知っているかもしれない人は分かったよ」

「そう。とりあえずは、順調のようね。

 …で、今度はその人を探すのね?」

「うん。

 まあ、知ってる人というのは『申と戌』のお二人で、しかも今の居場所も首都だから直ぐに帰れるよ」

 そして、母親は少し寂しそうにした。まあ、大切な娘だから当然だろう。…はあ、父さん達元気かな?


「…あの二人が?…それに、どうして首都に?

 …まさか、『連中』が関わっているの?」

「…多分だけどね」

「…そう。…っと、いけない。

 貴女達の事を信じないとね」

 母親は不安を抱いたが、直ぐに真剣な顔で俺達を応援してくれた。…流石、道場のおかみさんだけあって強い人だ。

「ありがとう」

「…ありがとうございます」

「どういたしまして。

 -…そうだ。せっかく早く戻って来たんだから二人も『稽古』に参加したら?」

「…っ、そうだね。

 じゃあ、行こうか?」

 ふと、母親がそんな事を提案して来たので班長は直ぐに頷いき、こちらに聞いてくる。

「…分かった」

「じゃあ、行ってくるね。

 あ、場所は修練場?」

「ううん。『外』のほうよ」

「ありがとう」

「二人共、頑張ってね」

 まあ、断る理由が見つからないので俺は気持ちを引き締めて頷いた。…そして、俺達は敷地の奥の方に向かって歩き出した。


『-そっちに行きましたっ!』

『分かったっ!…うおっ!』

 やがて、裏門が見えくると外から複数の声が聞こえて来た。…一体、どんな稽古をしているのだろうか?

「…とりあえず、様子を見てくる。

 -『纏装』」

 すると、班長は素早く氣を練り上げ身体に氣の鎧を纏った。それから、風も纏いあっという間に空に上がった。…っと。

 熟練の技に感心していた俺は、直ぐに気持ちを切り替え氣の兜を纏う。…っ!なるほど。だから、外で稽古を。

 直後、氣の耳は様々な足音を捉えた。するとどうやら、仲間二人は氣の獣を出しているみたいだ。

 多分、屋内の稽古場だと思い切り出来ないしもしかしたら建物を傷付けてしまうから、外で行われているのだろう。

「-…っと。

 どうやら、『鬼ごっこ』をやってるみたい」

「…『鬼』は、兄さんと弟分の生み出した氣の獣か。

 …てか、なんか想像してたのと違うな」

「まあ、確かに他所と違うわね。

 ウチみたいな『闘士』の家は、ああいう修行が中心なの」

 意外な気持ちを口にすると、彼女はそんな答えを返して来た。…ん?


『うわっ!?』

『くっ、まさかお嬢と同じ領域とはっ!』

 そんな話しをしていると、地面が少し揺れ土の壁が生える音が聞こえた。…うわ、『技』の使用も有りなのか。これは、道場の人達に勝ち目はないかも。

『あっ!?』

『ヤバいっ!?』

『-島田、高橋。失格っ!』

『ああっ!?』

 直後、審判の声が聞こえた。…うーん、やはり普通の人と闘士では実力差があり過ぎなんだよな。

「-…ふふ、まだ『結果』は分からないよ?」

 逃げる側を可哀想に思っていると、ふと班長はニコニコしながらそんな事を言った。…?

『さあ、後は上の者達だけだっ!

 さて、栗蔵氏と智一君はあと少しの猶予で彼らも捕まえられるかな?』

 すると、当主は現在の状況を伝えた。…どうやら、熟練の人達は誰も捕まってないらしい。


「…ね?」

「…いや、凄いな。

 氣の獣は早く動き、尚且つ不意打ちで行く手を阻まれる筈なのにどうして?」

「簡単よ。

 彼らは氣の獣だけでなく、二人の闘士にも気を配っているのだから」

「…っ!あれだけ氣の獣が居る中で、二人にも注意してるのか?」

 純粋な疑問を口にすると、彼女はなんて事のないように言う。…当然、俺は信じられない気持ちになる。

「先輩達にとって、造作もないわ」

「……」

 すると、彼女は誇らしげな顔で稽古場の方を見た。一方、俺は呆然とそちらを見る。…なんか凄い所に来たな。

『-あっ!また壁を出しますぞっ!』

『ほいっ!なら、私はあちらにっ!』

 そして、向こうは実に楽しそうに逃げているような気がした。…それだけ、余裕があるという事だ。

『いや、ま~ただっ!』

『どうして、こちらの動きがっ!?』

 逆に、仲間二人は焦っていた。…ああ、これは良くないな。


『-そこまでっ!』

 そして、予想通り二人は最後まで熟練の人達を捕まえる事は出来なかった。…これは、気を引き締めないとな。

「…じゃあ、行くよ」

「…ああ」

 そして、俺達はいよいよ野外の稽古場に足を踏み入れた。…すると、目の前に開けた場所がありそこにぐったりした若手の人達と、元気な熟練の人達が居た。

「皆さん、お疲れ様です」

『…お疲れ様、です』

『お疲れ様です』

「おお。どうやら、探し物は早く見つかったようだな?」

「…あ、お疲れ~」

「…はあ。…あ、お帰りなさい」

 更に、当主と仲間二人もやって来た。…ただ二人は、少し落ち込んでいた。多分、少なからず自信があったのだろう。

「うん。

 あ、二人もお疲れ様」

「…残念だったな」

「…あ、やっぱり見てたか~」

「…はあ、僕はまだまだ未熟でした」

「…いやいや、若手達だけでも捕まえられたのは凄い事だ」

 二人が肩を落としていると、当主は励ましの言葉を掛けた。…確かに、若手も簡単には捕まらなかったように思える。

 実際、猶予に余裕はなかったしな。


「…ありがとうございます」

「どうも~」

 当主の言葉を聞いた二人は、少しだけ気持ちが上を向いたようだ。…多分、この人は褒めて伸ばす人なのだろう。

「…さて、そろそろ休憩は終わりだ。

 次は、君と桃歌が鬼役だ。

 あ、君は直接追い掛けて貰うが大丈夫か?」

「問題ありません」

 当主が聞いてきたので、俺は頷いてから準備を始める。勿論、彼女もだ。

「…じゃあ、皆。宜しくお願いします」

『…っ!押忍っ!』

 そして、彼女は氣の鳥を沢山生み出し真剣な顔で道場の人達にそう言った。…当然、若手だけでなく熟練の人達も気を引き締めた。

「…それでは、始めよう」

 それを見た当主は、新たらしい蝋燭を用意し火を灯した。…なるほど、あれが燃え尽きたら終了か。


『…っ!』

「さあ、まずは少しの間彼らが隠れるのを待って貰おう」

 すると、道場の人達は一目散に木々の中へと走り出し当主は稽古の決まり事を告げた。…なるほど、探す事もやるのか。

 確かに、これは俺達にとってもいい修行になるな。

「…さて、どうしようか?」

「…?…若手の人達に狙いを定めるのが良いと思う。

 でないと、二人よりも残念な結果になるだろうな」

「そうね。…じゃあ、熟練の人達は無視?」

「…この二人ですら熟練の人達は捕まえられなかったんだから、俺達じゃまず無理だ。

 -ただ、一人くらいは頑張ってみよう」

「「…っ」」

 俺の言葉に、仲間二人は驚いた。…まあ、普通は無視するのが正解なんだろうがそれだと格好が悪いからな。

「…仁なら、そう言うと思った。

 やっぱり、やるからには『良い結果』を出したいもんね」

 すると、彼女は不敵な笑みを浮かべた。…どうやら彼女も、同じ事を考えていたようだ。


「…ふふふ、やる気は十分なようだ。

 -では、二人も十分気を付けるように」

「…っ、はいっ!」

「分かりました」

 それを見た当主は、期待の眼差しを向けつつ注意を促してきた。なので、俺達は改めて気を引き締め頷いた。

「じゃあ、私はあっちから」

「なら、俺はそっちを」

 そして、まず俺達は二手に分かれて追い掛ける事にした。…さて、何処かな?

 俺は走りながら、兜の力で気配を探す。けれどそう簡単に、彼らの気配は見つからない。…なら、『あれ』を探してみるか

 なので、俺は地面を良く観察する。…あ、見つけた。

 すると、直ぐに靴の跡を発見した。しかもそれは、複数あり行き先もはっきりしていた。多分大分力強く走っていたのだろう。…はあ、しかし故郷で身に付けた事がこんな風に役に立つとはな。

 俺は、嬉しさよりも複雑な気持ちでそのうちの一つを追ってみた。

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