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第十三話『葛西の稽古』・弐

『-うわっ!?』

『斎藤、小金井、脱落っ!』

 直後、後ろの方から悲鳴が聞こえた。…どうやら、彼女は何人か捕まえたようだ。本当に凄いな。

 俺は彼女に尊敬を抱きつつ、足跡を追い掛けて続けた。…っ!近い。

 そして、ある程度追い掛けていると近くから微かな気配を感じた。…さて、行きますか。

 そこで俺は、足に氣を集中させて靴を作り直後思い切り駆け出した。

『…っ!?』

『嘘っ!?』

 当然、向こうもこちらに気付き慌てて逃げ出すが時既に遅く、俺は容易く彼らの背中に触れていく。

「…ん?」

 すると、上の方から鳥の羽ばたきが聞こえ当主の居る方に飛んで行った。…あ、なるほど。あの鳥達は、報告役か。

『田中、進藤、三木、脱落っ!』

「…お見事です」

「まあ、山の中での鬼ごっこは慣れてますから」

「…な、なるほど」

「では、失礼します」

 そして、俺はお辞儀をしてからまた足跡を探してみた。…お、また見っけ。

 どうやら、複数の人達がこちらの方に来ているようだ。なので、俺は焦らずに追い掛ける。

『-ああっ!』

『しまったっ!?』

『佐渡、子安、藤本、脱落っ!』

 途中、またもや彼女は何人か捕まえていた。この速さなら、もしかしたら猶予に余裕が出るかもしれないな。…っ!

 そんな予想をしていた俺だが、また複数の気配を感じたので気を引き締める。…あ、向こうは既にこちらに気付いてるな。

 どうやら、向こうは大分気を付けて行動しているようだ。…多分、同じ方向に逃げた仲間が捕まった事で警戒を強めたのだろう。

 そして、このまま追い掛けた所で簡単には捕まらないだろう。


『-ならば、技を使ってみるのだ』

 どう攻めるか考えていると、ふと相棒が現れてそんな事を言う。…今回は何を教えてくれるのだろうか?

『まずは、我の象徴たる力を手に集めそれを玉にしてみるのだ』

(…っ!)

 期待していると、相棒は指示を出したので俺は言われた通りにした。…卯の闘士との闘いから少し経った今、俺は少しだけ成長していた。

 多分、相棒の姿と力を間近で見た事で力を想像しやすくなったからだろう。…まあ、力事態は故郷で見た事があるのがあの時は半分意識が無かったからな。

 それに、もしかしたらその時無意識に相棒の力を恐れていたのかもしれない。…でも、相棒の力は俺だけでなく多くの人を守ってくれた。

 だから、恐怖が消えてしっかりと想像できるようになったんだと思う。

 そんな事を考えている内に、俺の手の中に小さく黄色い玉が出来ていた。

『…本当に、可笑しいくらいの成長速度だ。

 それは、雷玉という技で数々の技の起点となる技だ』

(…なるほど)

『さあ、それを敵陣のど真ん中に投げ込んでみるのだ』

(分かった-)

 感心していると、相棒はそう言ったので俺は彼らの所に玉を投げ込んだ。


『-うわあああああっ!?』

『眩しっ!?』

 次の瞬間、彼らの所から閃光と大きな音が発生した。…当然、彼らは激しく混乱した。

「…ふっ」

『…っ、しまっ!?』

 なので、その隙に俺は素早く駆け出し彼らに近付く。すると、彼らは慌てるが直ぐに動く事が出来なかった。

『…あっ!?』

 そして、俺は彼らを捕まえていく。…ふう。いやはや、本当に凄い効果だ。

『-森谷、磯崎、峰、脱落っ!』

「…ああ~。さっき続いて、最速脱落だ…」

 技の凄さに感動していると、若手の門下生達は肩を落としていた。…けれど、その内の一人はこちらを不思議そうに見て来た。

「…なあ、お前本当に闘士になったばかりなのか?」

「そうですよ?…まあ、此処まで成長出来たのは『必要に迫られた』からですかね」

『…っ!』

「…本当、なんでお前みたいな平和な所で暮らして奴が、闘士に選ばれたんだろうな?」

「…そんなの、俺が聞きたいですよ」

 彼の純粋な疑問に、俺は少し気持ちを暗くさせながら返してしまう。…はあ、本当になんでなんだ?

「…悪い。…っと、引き留めてしまったな。

 まあ、引き続き頑張れよ」

「…っ、ありがとうございます」

 すると、彼は申し訳なさそうに謝りそして応援してくれた。なので、俺はとりあえず頭を下げて鬼役を続けた-。



 -それから、俺達は順調に若手を捕まえていき残るは熟練の人達だけになった。…しかし、やはりというかそう簡単に彼らを捕まえる事は出来なかった。

「(…いや、本当に参ったな。…まさか、足跡をたどれなくなるとは)」

 なんと、彼らは足跡を残さずに逃げているようで簡単には追えなかった。だから、俺は兜の力で耳と眼を強化して必死に探していた。

「(…うーん、このままじゃ時間切れになってしまう)…?」

 焦っていると、微かに風が吹いた。…しかもただの風ではなく、氣の風だった。…あ。

 なので、風の吹いて来た方を見ると桃歌がこちらに近付いていた。

「-…っと。

 …いや、本当に上の人達は凄い」

「…だな。…で、どうする?」

 そして、彼女は俺の前に降り立ち俺と同じ感想を口にする。…当然、わざわざそれを言う為に来たのではないと分かっているので、同意しつつ作戦会議を始めた。

「…そうね。…此処からは、仲間らしく協力して行きましょう」

「…やっぱ、個人戦は無謀だよな。

 で、具体的には?」

「私は上から追い掛けるから、仁は下で追い掛けて。

 ああ、さっき身に付けた雷玉も使ってね」

「…了解」

「じゃあ、この子を持っていて」

 彼女の視野の広さに感心しながら頷くと、当人は小さな氣の鳥を生み出し渡して来た。どうやらこいつが、連絡役らしい。


「じゃあ、頼んだよーっ!」

「応っ!」

 そして、彼女は再び空へと飛んで行った。…さて、どうなるかな?

『ピィッ!』

 いつでも走り出せるようにしていると、連絡役は後ろを向いて短く鳴いた。…あっちか。

 なので、素早くそちらに向けて走り出すとそちらから二つの気配を感じた。…まずは、さっき身に付けた雷玉を使ってみるか。

 そう決めた俺は、一旦足を止めて集中する。流石にまだ、走りながらやる事は出来ない。これも、宿題だな。

 そして、時間を掛けてしっかりと雷玉を作り出し俺は再び掛け出した。

『-っ!?』

 すると、程なくして左から先ほどの気配を強く感じた。当然、向こうもこちらに気付き素早く逃げる方向を変える。…どうやら、俺の横をすれ違う気らしい。

「『そいっ!』」

 なので、俺は進行方向に雷玉を投げてみる。

『くっ!?』

 当然、二人は驚いていた。そして次の瞬間、閃光と大きな音が発生した。…っ!

『-甘いっ!』

 しかし、二人は僅かに走る速さが落ちただけで走っていたのだ。…これには、流石に驚かされた。


『-甘いのは、二人ですよっ!』

『あっ!?』

 けれど、二人は直ぐに気付く。…いつの間にか自分達は、沢山の鳥に囲まれていた事に。

 まあ、俺も簡単に足止め出来るとは思っていない。…ほんの少しの間、彼ら自身に目と耳を自ら塞いで貰えれば良かったのだ。

『…っ!』

『ピィ~ッ!』

 そして、氣の鳥達は一斉に彼らに向かって飛んで行く。…当然、彼らは驚くほどあっさりと鳥に触られた。

『-木戸、金田、失格っ!』

「…はあ~、やられましたね。

 まさか、先ほどの技が欺瞞だったとは」

「多分、お二人は精神がかなり強いだろうからああいうのは効かないと思ってました。

 だから、敢えてそれをやる事でお二人に自ら感知能力を下げて貰ったんです」

「後は、その隙に鳥達で囲んでしまえば詰みという訳です」

「…やれやれ、ついこの間知り合ったばかりなのに見事な連携だな」

「…余程、相性が良かったのでしょうね」

 俺達が説明すると、二人はそんな事を言ってくれた。…まあ、一緒に居て楽しいのは確かだと思う。

「…では、私達はこれで」

「ああ」

「どうか頑張ってくださいね?」

 そんな事を考えていると、班長は二人に一礼し先を急ごうとする。当然、二人は頷いたり応援してくれた。

「「ありがとうございます」」

 なので、俺達は一礼しその場を跡にした-。

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