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第十三話『葛西の稽古』・参

『-ぴぃ~っ!』

 それから、残る人達を追い掛けるがやはりそう簡単にはいかなかった。

 そうこうしている内に、ふと稽古場に居る鳥達が一斉に鳴き始めた。…もしかして、もう制限時間が来たのだろうか?

「…あ、大丈夫だよ。

 今のは、熟練の人達に向けた『範囲制限』の合図なの」

「…要するに、『逃げる範囲が狭まる』って事で良いのか?」

「そうそう。

 まあ、それでもあの人達を捕まえのは難しいけどね」

「…だよな。いや、マジで遭遇しないな」

「彼らは、常に私の鳥達を避けて移動しているからね」

「…マジか。…じゃあ、どうするんだ?」

「…こうするのよ」

 俺が問うと、彼女は片手を空に向けた。…っ!

 すると、何処からともなく風が吹き始め稽古場の木々を揺らしていく。


「『風網』」

「…これは?」

「…名前の通り、風の網を広げたの」

「…大丈夫か?」

 ふと彼女を見ると、少し辛そうにしていた。多分、負担が大きい技なんだろう。

「…なんとかね。

 ただ、これを使うと鳥を出せないしおまけにあんまり長くは出せないから、追い掛けるのは仁だけになる」

「…責任重大だな。…まあ、やるだけやってみるさ」

「…頼んだよ。

 -っ!…あっちの方に、複数の気配がある」

「了解」

 すると、彼女は東の方向を指差したので俺は意を決して走り出した。…雷玉も通用しないとなると、やはり『あれ』かな。

 俺は、少しだけ走る速さを上げて近くの大木まで掛けて行く。

 そして、大木の直前で渾身の力を込めて跳躍し太い幹に飛び乗った。…良し。

 それから、俺は直ぐに別の大木に飛び移りまた別の大木に飛び移りを繰り返し、目標の場所へと近付いていく。

 -やがて、いよいよ目前に迫って来た所で俺は移動を止めた。


「…『雷玉』」

 まず、雷玉を生み出し彼らが居るであろう方向の左側へと、それを投げる。

『-っ!?』

 すると、技に気付いた彼らは右側へと移動したので今度は進行方向に雷玉を投げる。…当然彼らは、そちらの移動を止めてこちらにやって来た。

 そう。範囲は狭まっているのだから、彼らは俺の方に来るしかないのだ。

『-さて、どうする?このまま、雷玉を落としてもあの者達は容易く切り抜けるだろう』

(…そうだな。…例えば、痺れさせでも出来たら良いんだけどな)

『なんだ、分かっているではないか。

 なら、雷玉を生み出す際にその想像をしてみるのだ』

 俺がそう言うと、相棒は満足そうにしながら新たな技を教えてくれたので、俺は言われた通りにやってみる。

「…っ」

『雷玉-縛-。…それが、その技の名前だ』

 すると、俺の掌にバチバチと音を立てる雷玉が出来ていた。…良し。

 俺は、それを真下に落としすかさずその場から離れ彼らの方に向かう。


『-まただっ!』

『案ずるなっ!このまま、突っ込むぞっ!』

 そして、彼らは恐れずに閃光と大きな音の中に向かって行く。…まさか、その判断が間違っているとも気付かずに。

『-うぐっ!?』

『ひゃあああっ!?』

 そんな事を考えていると、後ろから苦痛や悲鳴が聞こえて来た。…良し、上手くいったな。

 俺は安堵しつつ、彼らの元に戻った。

「…ううっ」

「…か、身体が、う、動かない」

 すると、彼らは地面に倒れていた。そんな彼らに俺は素早く近付く。

「大丈夫ですか?」

「…っ!」

「…やれやれ、闘士を甘く見ていたな」

 膝をついて様子を確かめると、彼らは驚いたり反省したりした。…うん、大丈夫みたいだ。これなら、少ししたら直ぐに動けるだろう。

 意識がハッキリしている彼らを見て、俺はまた安堵しつつ彼らに触れていく。

『-っ!柳田、堀内、高瀬、脱落っ!

 そして、これにて稽古は終了だっ!』

 すると、程なくして審判が宣言した。けれどそれと同時に、稽古の終了まで宣言された。


「…っ。はあ、此処までか」

「…妙だな。まだ、少し時間があるように思うのだが」

「…何か、あったんでしょうか?」

 肩を落としていると、痺れが消えた彼らは起き上がりながら疑問を口にした。…あ、もしかして『あれ』か?

「…とりあえず、広場に戻ってみよう」

「「分かりました」」

「…ですね」

 それを聞いて予想を立てていると、寡黙な雰囲気の門下生が提案して来たので俺達は一緒に広場に戻った。

「-あっ!仁お兄さんっ!」

「おお、お帰り~」

「ただいまです。…それで、何かあったんですか?」

 そして、適度に急ぎながら広場に戻ると仲間二人が駆け寄って来た。なので、俺は返事をしつつ状況を確認する。

「…あ、大丈夫だ~。

 どうやら桃歌が、氣の使い過ぎで鬼役を続けるのが無理になったみたいだ~」

『っ!』

「…やっぱりですか」

 すると、栗蔵兄さんは予想通りの事を教えてくれた。…やはり、あの技は相当な負担が掛かるようだ。


「おお、戻ったか。…すまんな、こんな形で稽古を終わらせてしまって」

「え?ああ、お気になさらず。…多分、彼女が限界を迎えなくても結果は変わらなかったと思いますから」

 少し心配していると、当主もこちらにやって来て申し訳なさそうにしていた。なので、俺は気にしてない事を伝えた。

「…確かに、残された猶予は少なかったな」

「…え?もしかして、計っていたんですか?」

「…え?普通、考えないか?」

「…いや、急いでる状況で考える余裕はないと思うぞ~?」

「…いやはや、桃歌さんは素晴らしい仲間を見つけて来ましたね」

「ああ。…だから、少し張り切りってしまったのかもな」

 そんな話をしていると、先ほど会った女性の師範代と当主は俺を見てそんな事を言った。…言われてみれば、確かに彼女は凄く張り切っていたな。

「…あっ、桃歌お姉さんだっ!」

 すると、弟分が急に右側を見て駆け出した。なので、そちらを見ると彼女は背の高い女性師範代に背負われた戻って来た。


「お姉さんは、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。しっかり休めばちゃんと回復しますから」

「…良かった」

「…ごめん、心配掛けちゃったね」

 それを聞いた弟分は、心底安堵していた。一方その様子を見た彼女は、心底反省していた。

「…二人も、ごめんね」

「気にすんな。まあ、とにかくゆっくり休むんだな」

「そうだな~」

「…うん」

「では、失礼しますね」

 そして、彼女は師範代によって家の方まで運ばれて行った。…すると、それを見届けた当主は手を叩き注目を集める。

「-さあ、此処から反省の時間だっ!」

『…っ』

 それを聞いた門下生達は、気を引き締めた。特に、若手の人達は緊張していた。

「まず、私からの評価を言おう。

 -率直に言って、皆少し油断が多いように思えた」

『……』

 まず当主は、全体の評価を告げる。その内容は実に厳しく、門下生達は反省の顔になる。


「もし、四人が敵の闘士だったなら今頃お前達は地に伏せていただろう」

『…はい』

「「……」」

 当主の確信がこもった言葉に、門下生達は静かに返事をした。

 一方、こちらは少しだけ嬉しくなる。…つまり当主は、俺達の事を賞賛してもいるのだ。

「改めて、心に刻め。

 闘士である以上、容姿や雰囲気等で判断をしてはならない」

『はいっ!』

「その上で、常に予想外を想定するのだ。

 例えば、仁君のように新たな技を使ってくる可能性等を想定しろ」

『……っ』

『…ほう?』

 すると、当主は俺の活躍を紹介した。…当然全員こちらに注目した。…なんか、緊張してきたな。

「…まあ、私も熟練の者が捕らえられるとは思いもしなかったがな。

 だから、私も改めてそうしようと思う」

『…っ!』

 そんな中、当主はふと優しい顔になりそんな事を口にした。…当然、門下生達は驚いた。

「では、反省は以上だ。

 皆、休憩に入れ」

『お、押忍っ!ありがとうございましたっ!』

 そして、当主が終了を宣言すると全員ハッとして挨拶をし、足早に稽古場から出て行ったので俺達も一緒に行動した-。

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