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第十六話『臙脂の都』・壱

『-っ!大隊長、お疲れ様ですっ!」』

『お帰りなさいっ!』

「ああ、皆もご苦労」

 それから少しして、俺達は詰所に到着し中に入る。すると、中に居た部下の人達が挨拶をして来た。…なんというか、良い空気の部隊だな。

 そんな感想を抱きながら木造の詰所を移動していると、大隊長はある扉の前で止まった。

「此処は、作戦会議の部屋だ。

 -私だ。入るぞ」

『っ!は、はいっ!どうぞっ!』

 大隊長は扉を軽く叩き、中に声を掛ける。すると、直ぐに返事が来たので彼は扉を開けた。

「さあ、入ってくれ」

『…し、失礼します』

「…?あの、大隊長殿。彼らは?」

 大隊長が先に入るように促して来たので、俺達は緊張しながら中に進んだ。…当然、部下の人達は首を傾げる。

「彼らは、輸送部隊を救った者達だ。

 彼らが駆け付けてくれなければ、今頃荷物は全て壊されていただろう」

『…っ!?』

 それを聞いて、全員驚いた。…まあ、どう見ても俺達は普通の旅人だからな。

「…なるほど。…つまり、彼らが例の『対抗組織』という訳ですね」

『…えっ!?』

 そんななか、眼鏡を掛けた女性が俺達の正体に触れる。…おそらく、この人は大隊長の補佐官なのだろう。


「その通りだ、田辺。

 ああ、彼女はこの部隊の副隊長だ」

「はじめまして」

『…ど、どうも』

『……』

『……っ』

「…こらこら、彼らは一般人にかわりないのだからあまり注目しないように」

『…っ、失礼しました』

 部隊の人達の視線に困惑していると、大隊長が注意した。…凄く気配りが出来る人だな。

「…では、これより報告会を始める」

『はいっ!』

『…分かりました』

 そして、大隊長は纏う空気を変えて会議を始めた。…ちなみに、何故か俺達は彼と副隊長さんと同じ場所だ。

「まず、輸送部隊の様子は?」

「はいっ!私が報告いたします-」

 俺達の緊張をよそに、大隊長は部下に報告を求めた。すると、直ぐに紙を持った人が輸送部隊の事を話した。

 まあ、難しい言葉とかが混じっていたので良く分からなかったが、輸送部隊が無事だというのは分かった。…本当、良かった。


「-報告ありがとう。…とりあえずは、一安心だな」

「…ですね。…これも、貴方達のお陰ね」

「…恐縮です」

『……』

 大隊長も、報告の後でほっとしていた。そして副隊長さんは、俺達を褒めてくれた。…なんか凄く嬉しいな。

「…では、次は輸送部隊を襲撃した賊についてだ」

『……っ』

「ここからは、つい先程協力者となった彼らに話して貰おう」

「…分かりました」

 そして、いよいよ大隊長は俺達に報告を求めたので代表である班長が一歩前に出る。

「お初にお目にかかります。

 私は、葛西桃歌と申します」

『…っ!』

 まず、彼女は手短に挨拶と自己紹介をする。それを聞いて、部下の人達は驚いた。…どうやら此処でも、彼女の家は有名らしい。

「それでは、私達が知る限りの賊の情報を話させて頂きます-」

 けれど、彼女は冷静な様子で敵の闘士の事を話していく。…まあ、ああいう反応には慣れてるんだろうな。


『……』

『…そんな馬鹿な』

『…輸送部隊に、敵が潜入していた?』

 一方、対策部隊の人達はだんだんと困惑したり驚愕の顔になっていく。…やはり、敵の技よりも自分達の身近に敵が居たという事の方が信じられないようだ。

「…以上です」

「…ありがとう。

 いや、本当に君達が輸送部隊に起きた異変に気付いてくれて良かった」

「…右に同じくです。

 しかし、まさか連中がそんな手まで使うとは思いもしませんでした」

 班長が報告を終えると、部隊の代表達は改めてお礼を言ってきた。…そして、二人は改めて敵の企てに危機感を抱いていた。

「…ああ。これは、直ぐにでも上に報告するべきだろう」

「…では、会議が終わり次第手続きをして参ります」

「頼む。…後は、今後の対策だが。

 -間違いなく、奴らは『あの催し』の最中に襲撃してくるだろう」

 だから当然、大隊長は俺達と同じ予想を抱いていた。…しかも、今回の企みが失敗に終わっているから敵も容赦なく襲ってくるだろう。


「…そうなるでしょうね。

 現在、他の部隊にも協力を要請していますが良い返事は得られていません」

「まあ、既に配置は決まっているからな。…それに、私達への『信用』が足りないというのもあるだろう」

『……っ』

 大隊長は苦笑いを浮かべながら、部隊の現状を口にした。…それを聞いた部下の人達は、落ち込んだ顔になる。

「…ああ、すまない。

 まあ、隠しても仕方ないから話すが我々の部隊は去年新設された上に、道実績が乏しいのだ」

「…ですから、他の部隊からあまり良い印象は得ていないのですよ」

『……』

 すると、代表二人は周りからの評価を教えてくれた。…どうやら、この部隊はなかなか厳しい状況に置かれているようだ。


「…幸い、立案者の方が国王の側近なので部隊は存続出来ているが、このままではいけないと我々は思っている」

「…だから、『功績』が必要なのです」

「…どうして、そんな事まで教えてくれるんですか?」

 その話を聞いて、ふと俺は質問した。…すると代表二人は、真面目な顔をした。

「これから協力していくのだから、可能な限り互いに隠し事は無しにするべきだと思ったからだ」

「でないと、信頼関係は築けないですから」

『……』

「…なるほど。確かに、そうですね。

 では、昼時にでもお互いの事を話し合うとしましょうか」

「おお、それは良いな。

 ならば、昼食はこちらで済ませてはどうか?」

「…え?…どうします?」

 大隊長のお誘いに、班長は俺達の方を見る。当然、俺達は即座に頷いた。

「…ありがたく、ご相伴に預からせていただきます」

「ああ。

 -では、会議は以上だ」

『はいっ!』

 そうして、会議は終わり副隊長は直ぐに部屋を出て行った。それから、部下の人達も解散していく。


「…ところで、首都では何処を拠点にするつもりかな?」

「あ、実は首都には私の親戚がおりますのでそこを拠点にしようと思っています。

 場所は-」

 すると、大隊長は大切な事を確認してきたので班長は手持ちの紙に、親戚の家の所在地を書いていく。

「…ん?確かここは、伝書鳥を扱う店ではないか。…そうか、君の親戚か。

 なるほど、通りで良い鳥達が居る訳だ」

「…もしかして、軍の伝書鳥はこの店の?」

「ああ。…彼らは実に優秀だよ」

「ありがとうございます」

「では、使いはそちらに出すとしよう。

 …それと、昼食まではどうするつもりだ?」

「ああ、それもご心配なく。

 -確か、間も無く『力自慢』の予選会が始まりますよね?」

「そうだ。…なるほど、君達はあれに参加するのか。

 しかし、大丈夫なのか?」

『…はい?』

 大隊長は少し心配した顔をするのだが、俺達は揃って首を傾げた。…どうやら、俺達と彼とで大きなすれ違いが起きているようだ。


「…っ!ああ、それも大丈夫です。

 先程の闘いでは、さほど力を使っていないのでそんなに疲れてはいません」

「それに、此処まで馬車に乗せていただいたのである程度回復しましたからね」

「…そ、そうか。…いや、本当に凄いな」

 班長と正義さんがそう返すと、大隊長は驚いた顔をした。…確かに、大分常識を外れて来てるな。

「では、一旦我々はこれで失礼致します」

「…ああ。健闘を祈っている」

「ありがとうございます」

『失礼します』

 そして、俺達も部屋を出てそのまま詰所を後にした。すると、後ろを歩いていた新たな仲間達が先頭に出てきた。

「じゃあ、こっからは俺が案内するな」

「いやいや、俺の方が早く案内できるぞ?」

『ぴぃ~っ!』

 またしても二人が対抗していると、空から青い鳥がやって来た。…多分、こうなると予想して彼女が呼んでいたのだろう。

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