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第十五話『二度目の対峙』・弐

『-ウッキィイイ~ッ!』

『ウォーンッ!』

『…っ!』

 ふと、とある予想が浮かんだ直後。何処からともなく、猿と犬の鳴き真似が聞こえた。…もしかしたら、あの二人はこうなると予想していたのかも知れないな。

「「『…って、真似すんじゃねぇよっ!』」」

 すると、二人は息を揃えて互いに突っ込みを入れる。…うわ、まさに『犬猿の仲』だな。

『っ!?』

『くそがっ!?』

 そんな事を考えていると、別の氣の獣達の気配を感じた。そして、彼らは壁を破壊しようも敵に攻撃を仕掛けた。

「『…さあ、どうする?』」

「『まあ、逃げたきゃどうぞ?』」

『…っ!?』

『クソがっ…』

 そんななか、味方の闘士は余裕な雰囲気で敵に告げる。一方、敵は非常に悔しそうにした。


「…どうして、あんな事を?」

「…仮に、此処で奴らを追い込んだら『星獣解放』をするかもしれない。そうなれば、私達はおろか輸送部隊も危なくなるからよ」

「…あっ」

「…それに、敵も此処でそれをやってしまったらクソみたいな野望を果たせなくなるかもしれない。…それが分からないほど、向こうは馬鹿でないと信じたいな」

「…な、なるほど」

 俺達の答えを聞いた弟分は、とても納得していた。…さあ、奴らはどうする?

『…此処で俺達を逃がした事、いつか後悔さてやる』

『…絶対に、今日の事は忘れない』

「…っ!」

 敵は恨みのこもった捨て台詞を吐いた後、直ぐに林道から撤退した。当然、部下達は置き去りだ。

「『ふう、馬鹿でなくて助かった。

 -おーいっ!もう大丈夫だぞっ!』」

「…はあ~」

「…何とか切り抜けたわね」

 そして、敵の気配がほとんど感じられなくなると味方はこちらに声を掛けた。なので、兄さんと班長は壁を消した。


「…ふう~」

「……」

「皆、大丈夫か?」

 それから、俺達は氣装を解く。すると、味方もこちらにやって来た。…この二人が、桃歌の兄貴分か。

「はい、なんとか。…危ない所を、ありがとうございました」

「いや、間に合って良かった。

 …まあ、本当ならもう少し早く駆け付けられたなら良かったが、こいつが寝坊したんでな」

「はあ?お前がご飯三杯もおかわりしたせいだろうが?」

 すると、二人は突然言い合いをし始めた。…いや、なんか切り替えが激しいな。

「…相変わらずですね。

 とりあえず、置き去りにされた奴らを拘束しませんか?」

「…っと」

「…だな」

 二人のやり取りに困惑していると、班長は次の行動を提案した。それを聞いた二人は、言い合いを止める。…多分、慣れてるんだろう。

「…んじゃ、俺達は首都側の奴らをやるから桃歌達は反対側から頼む」

「「分かりました」」

「は、はい」

「ああ~」

 そして、俺達は手分けして部下達を拘束していく。ちなみに、縄とかは連中の者を拝借する事にした。


『-居ましたっ!』

『全体、止まれっ!』

 それから少しして、後方から先程会った休憩所の人達がやって来た。…いや、なんだか増えてる気がする。

「ああ、良かった。無事だったのだなっ!」

 とりあえず敵を拘束し終えると、休憩所の責任者がやって来た。どうやら、心配してくれていたようだ。

「…兵士長、彼らが?」

「はい、大隊長殿」

 すると、一緒にやって来た厳格そうな男性がこちらを見ながら責任者に確認する。…どうやらこの人は、相当偉い人のようだ。

「…まずは、輸送部隊を助けてくれた事に礼を言おう。

 感謝する」

「「「…恐縮です」」」

「…ど、どうも」

「「……っ」」

 そんな人が、俺達に対して頭を下げて感謝をしてきた。…当然、俺達も反射的に頭を下げる。

「では、後の事はこちらが引き受けよう。

 -総員、賊を回収せよっ!」

『了解っ!』

 そして大隊長はそう言った後、兵士達の方を向いて号令を出した。すると、兵士達は一斉に動き出し連中を馬車の荷台に乗せていく。


「…さて。『我々』も移動しようか」

「…え?」

「「…っ!」」

「「「……?」」」

 そんな中、ふと大隊長が俺達を見渡しながら移動を促して来た。…それを聞いた瞬間、班長と彼女の兄貴分達はハッとする。一方、俺達は首を傾げた。

「…分かりました」

『…っ』

 そして、こちらが理解する前に班長は頷き先に歩き出した大隊長の後に続いた。なので、とりあえず俺達もその後に続いた。

「-さあ、この馬車に乗ってくれ」

「大隊長、いつでも動けます」

「よろしい。

 では、出発だ」

「了解っ!」

 それから、馬車の一つに乗せて貰うと直ぐに馬車は動き始めた。…すると、大隊長は真剣な顔でこちらを見る。

「…それにしても、まさか君達のような若者が奴らを追い払ったとはな。

 -出来れば、どうやって追い払ったか聞かせてくれないだろうか?」

『…っ!』

 その言葉で、ようやく分かった。…どうやらこの人は、連中に対抗しているらしい。


「…分かりました。

 では、まずは名乗らせて頂きましょう」

「…ん?」

「私は、葛西家の長女の桃歌と申します」

「…そうか。……いや、待てよ?」

 すると、班長は名乗る。…それを聞いた大隊長は何かを思い出し掛けた。…そして、だんだんと信じられないといった顔をした。

「…まさか、あの葛西か?」

「はい。

 かつての戦乱の中で、度々真清の軍と行動を共にさせていただいた、あの葛西です」

「…なんと。…そうか、では君達は皆『星の獣を宿した者』なのだな?」

『…っ!』

 すると、大隊長は俺達に確認してきた。…多分これも、連中の事を調べている内に知ったのだろう。

「…ああ、なんという事だ。あの伝説の存在が目の前に居るとは。

 …ということは、やはり奴らも?」

 そして、大隊長は震えながら喜んだ。…けれど直ぐに、彼は神妙な顔で確認してきた。


「はい。

 -『刃龍同盟』の中核を為すの者達は、私達と同じ星獣に選ばれています」

「…なんと。…通りで、強者を集めた部隊でも歯が立たない訳か。

 …これは、帰ったら直ぐに報告せねば」

 班長の言葉に、大隊長は頭を抱えた。…だが彼は、直ぐに気を取り直した。

「…出来れば君達には敵の事を教えて欲しいのだが、良いか?」

「構いません。むしろ、こちらからお願いしたいです」

 すると、彼はこちらに頼み事をしてきた。当然班長は、二つ返事で了承する。…なんか、この人とは良い関係を築けそうだな。

「ありがとう。

 では、都に着いたらそのまま私達の詰所に向かうとしよう」

「分かりました」

「…良し。

 ああ、そうだ」

 とりあえず話が纏まると、彼はふと背筋を伸ばしてこちらを見た。…なんだ?

「名乗りが遅れたな。

 -私は、真清軍対刃龍同盟対策大隊を任されている久保だ」

「ああ、これはご丁寧に」

「…っ!じ、自分は-」

 彼…久保さんは所属と名前を名乗った。…なので俺達は、直ぐに名乗る。そして、それが終わると新たな仲間達の番だ。


「お初にお目にかかります。

 自分は、望月の家の正義と申します」

「同じく、初めまして。

 私は、小金井伸太郎と申します」

 まず、戌の闘士である正義さんが名乗り、次に申の闘士である伸太郎さんが名乗った。

 すると、久保さんはしっかりと頷く。

「桃歌さんに、仁君。智一君に、栗蔵殿。

 そして、正義殿と伸太郎殿だな。

 では、改めて協力をお願いする」

『はいっ!』

「大隊長っ!間も無く、城門前ですっ!」

 改めて協力関係を結んでいると、部下の人が報告する。…早いな。まあ、あの道は近道だし良い馬が引いているのだろう。

『お疲れ様ですっ!』

 そんな事を考えていると、城門前に居る兵士達が馬車に向けて挨拶した。…それにしても、凄い数だな。

「…ああ、そうだ。

 -客人達よ。ようこそ、真清の国の中心たる臙脂の都へ」

『ありがとうございます』

 すると、彼は微笑みを浮かべながら歓迎の言葉を口にした。…はあ、まさかこんな方で首都に入るとはな。

 そんな事を考えていると、馬車が止まった。


「大隊長、全体止まりました」

「良し。…すまないが、少し待っていてくれ」

「はい」

 大隊長はそう言って、馬車から降りた。…多分いろいろと、やる事があるんだろう。

『-諸君、ご苦労であったっ!

 それでは、賊を乗せている馬車は牢の方に向かへっ!

 それ以外の馬車は、詰所に向かい順次休憩に入れっ!』

『了解っ!』

『三号車から七号車は、二号車に続けっ!』

『はっ!』

 すると、他の馬車が動き始める。…いや、捕まえた後も大変そうだな。

「すまない、待たせな。

 では、行くとしよう」

 そして、指示を終えた大隊長は再び馬車に乗り込んで来た。それから直ぐに、俺達の乗る馬車はまた動き始めた-。

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