「-っ!」
やがて、輸送部隊らしき集団が見えて来たのだが全員地面に倒れ込んでいた。…一方、馬達は皆元気だった。
「…あれ?闘士が居ない?」
「…隠れたか~?」
しかも、どういう訳か二人の闘士の気配は近くになかった。…おまけに、馬達はまだ荷車に繋がれたままだった。
「…もしかしたら、積み荷を別の場所に運ぶつもりなのかも」
「…確かに、その方が確実に荷物を壊せるな」
「…綿密な計画だな~」
「…それで、どうしますか?」
「……」
予想を立てていると、弟分は本題を口にしたので班長は考える。…このままだと、確実に奴らの企みは達成されるだろう。それを防ぐ為にはどうするのか?
「…確か、未の闘士の技は当人以外でも解ける筈。
だから、彼らを起こしてしまいましょう」
「…危険ではないですか?」
「人質にされてしまうより、遥かに良い。
-それに、私達なら確実に彼らを守れるわ」
弟分は不安な顔をするが、班長は決意に満ち溢れた顔でそう言った。…確かに、俺達なら出来ない事もないか。
「…で、どうやって起こすんだ~?」
「それは、仁にお願いするわ」
「…?…あ、雄叫びか?」
「そう。…そして、当然馬はびっくりするだろうから私は目を覚ました彼らに馬達を落ち着かせる。
それから、敵に備える為に栗蔵兄さんはここら辺を土の壁で囲んでください。
で、智一は敵の数を教えて」
「分かった~」
「はいっ!」
「…じゃあ、いくよ」
「「「応っ!」」」
班長の合図で、俺達は一斉に氣を練り上げていき全身に流していく。…そして、氣が全身に広がった所で俺達は自然と息を合わせ空気を吸込んだ。
『-纏装っ!』
直後、俺達は氣の鎧を纏っていた。そしてすかさず兄さんが右足で地面を強く踏む。
「『土柵』っ!」
すると、林道と俺達の間に土の柵が出現し俺達と輸送部隊を囲んだ。なので、俺は大きく息を吸込む。
「『はあああああっ!』」
『-っ!?』
『ひひ~んっ!』
そして、雄叫びを上げると輸送部隊の人達は一気に目を覚まし、馬達は驚いてしまった。
「『風響』。
-『皆さん、馬を落ち着かせてください』」
『…っ!?…どうっ!どうっ!』
勿論、班長は慌てず輸送部隊の人達に指示を出す。すると、彼らは驚きつつも馬達を落ち着かせてくれた。
「『…っ!敵が急いでこっちに来てますっ!数は、五十以上っ!』」
だが、安心したのつかの間弟分は敵の接近を告げた。…っ!輸送部隊と大体同じ数だな。どうやら、班長の予想は当たっていたようだ。
「『分かった』」
「あ、あの、何が起きてるんですか?」
「あ、貴方達は一体?」
「申し訳ありませんが、間も無く『敵』がこちらにやって来るので今は我々を信じて指示を聞いていただきます」
すると、輸送部隊の代表らしき二人が不安そうな様子で聞いてきたので、班長は真剣な顔でそう言った。
「て、敵っ!?」
「まさか、例の奴らですかっ!?」
『……っ』
当然、二人は余計に不安に部隊の人達にも動揺が走る。…やっぱり、連中は相当に恐れられているようだ。
「…間違いないかと思います。
とにかく、私達が隙をつくりますので皆さんは逃げる準備をしてください」
「「…っ」」
班長の言葉に、二人は顔を見合わせた。…多分だが、こちらを信用して良いか迷っているのだろう。
「『お姉さんっ!間も無く敵が来ますっ!』」
「…どうか、私達を信じてください。
-そして、どうか貴方達のお役目を果たす手助けをさせてください」
「「…っ!……っ」」
刻一刻と敵が迫る中、班長は真剣な様子で二人を説得した。…すると、何故か二人は凄く驚いた反応をした後顔を見合わせて頷いた。
「…分かりました。貴方達を信じます」
「…では、直ぐに準備に取り掛かります」
そして、二人はそう言って不安そうな顔する部下達の元に向かい指示を出した。…さあ、後は俺達の役目を果たすだけだ。
「『っ!敵の部隊、前方に出現っ!』」
「『こっちも確認した。…ああ、やっぱり武装してるな』」
覚悟を決めていると、弟分は敵の出現を報告した。それと同時に、班長も厄介そうな顔で敵の様子を報告した。…はあ、本当に面倒だ。
「『…っ!…何をするつもりなんだ?』」
「『…あれは、午の闘士よね。
-風界』」
すると、敵の闘士に動きがあったようで班長は輸送部隊に風の結界を展開した。…っ!
『-そいつらは、キミ達にヒドイ事をするから逃げるんだーっ!』
直後、前方から土の壁を貫通するほどの大きな声が聞こえた。…しかも、ただデカイだけの声ではなく氣の込めらたモノだった。
多分、馬達を操る技だろうなんだろうが風の結界によって防がれた。
「『…流石だな』」
「『午の闘士が居ると知っていてたからよ』」
「『…っ!敵が更に接近しようとしてます』」
「『…武器を構えてるわね。なら、仁』」
「『ん?』」
「『普通の雷玉を、なるべく遠くに投げて』」
「『了解っ!』」
すると、敵は土の壁を破壊しようと接近して来たので班長は俺に指示を出した。当然、直ぐに準備をし言われた通りにやる。
『うわあああっ!』
「『敵、接近を中断しましたっ!』」
結果、敵はこちらに攻めてこれなくなった。だが、そう簡単に事は運ばないみたいだ。
「『…未の闘士の氣が、高まっている?』」
「『まさか、俺達を眠らせる気か?』」
「『…いや、確か未の技に広範囲の物はなかった筈。…っ!まさか、味方に使う気?』」
「『…どうする?』」
「『…出来ればあの技は決戦の時まで隠しておきたかったけど、そうはいかないようね』」
「『…っ!』」
「『…あの技?』」
「『なんだ~?』」
班長の言葉に、俺だけがハッとした。…確かにあれなら、状況は好転するかもな。
「『栗蔵兄さん。合図を出したら前方の一部分を開けてくれますか?』」
「『…分かった~』」
「『二人は、その間敵を攻撃していて』」
「『…ああ』」
「『…分かりました』」
『-うおおおおおっ!』
それぞれやる事が決まった直後、壁の向こうから雄叫びが聞こえて来た。…さあ、やるぞ。
「…良しっ!」
「…ふうううう」
俺と弟分は直ぐに攻撃の準備を整え、班長は集中し始める。…っ!
そして、ほどなくして土の壁が揺れ始めたので、俺達は雷玉・縛と氣のネズミを壁の向こうに投げていく。
『ぎゃあああああっ!』
『このっ!』
『おい、危ねぇなっ!』
すると、向こう側から悲鳴や同士討ち未遂が起きたようで壁への攻撃が止まる。…だが、それは直ぐに収まってしまった。
『-全く、本当にだるいなぁ』
『あぅ…』
『…あっ』
ふと、壁の向こうからだるそうな男の声が聞こえたかと思ったら、混乱していた部下達は急に静かになった。…何をした?
「-っ!?」
嫌な予感がするので、次の雷玉を投げようとした。…直後、先ほど以上に壁が揺れた。
「…なっ!?」
そして、信じられない事に壁に亀裂が入り始めたのだ。…マジか。
俺は直ぐに、雷玉を投げた。しかし、敵から悲鳴は聞こえず攻撃も止まる気配はない。…まるで、人ではない何かが壁を攻撃しているみたいだな。
「…急に、『人形』みたいになりましたね」
「…それだ。
多分、部下を眠らせて人形のように操っているんだ」
「…それだけじゃなく、限界を超えた力を無理矢理に引き出すのよ」
「…そんな」
「…やばいな~」
「…なんて、恐ろしい技を」
予想していると、準備が終わった班長は補足をした。…当然、俺達は驚いてしまう。
「『…じゃあ、壁に穴が開いたら直ぐに消して下さい』」
「…分かった~」
けれど、班長は冷静に指示を出した。…そして程なくして、その時は訪れた。
「-今ですっ!」
「『おおっ!』」
分厚い土の壁に大きな穴が空いた瞬間、班長は指示を出した。すると、兄貴分は足で地面を二回踏む。
『-っ!?』
『あ、まずいなぁ…』
次の瞬間、穴が開いた部分だけが消え目に生気がない部下達と敵の闘士が見えた。…あの二人が、午と未の闘士か。
「『風渦砲っ!』」
『うわああああっ!?』
『ちぃっ!』
そして、すかさず班長は風の砲弾を放つ。すると、砲弾は直ぐに大風を解き放ち敵をあちこちに吹き飛ばした。
「『風坑道っ!』」
そして、すかさず班長は輸送部隊に掛けていた結界を消し、青く輝く坑道(トンネル)を出現させた。…あんな技もあるのか。
「『今ですっ!』」
「-っ!全体、進めっ!」
『り、了解っ!』
それから班長は輸送部隊に合図を出す。すると輸送部隊は、迅速に前進を再開した。
『-させるかっ!』
しかし、闘士達は直ぐに動き出し輸送部隊を止めようとする。…だが、当然俺達はそれを予想していたので準備をしていた。
『土檻っ!』
『合氣砲っ!』
『雷玉・縛っ!』
まず、兄さんが土の檻で敵を捕らえて、あえて開けていた上部から高速の砲弾と雷玉を中に投げ込んだ。
『ぐあっ!』
『…うっ!』
「『時間を稼ぐわよっ!』」
『ああっ!』
『応よっ!』
『はいっ!』
そのまま、俺達は輸送部隊がこの場を離れるまで攻撃を続けた。…しかし、直後俺達は厳しい現実を突き付けられる事になる。
『-ナメるなあっ!』
『っ!?』
不意に、敵が叫んだかと思ったら土の檻に大きな穴が空いたのだ。…さっきもそうだが、一体どれだけの氣を込めているんだ?
『オラァっ!』
そして、二回目の攻撃で檻の一部は完全に壊され怒りに満ちた二人の闘士が出て来た。…ヤバいな。
『…あー、やってくれたなぁ?』
『…許さない』
『…っ!』
『…とりあえず、お前らを倒してから輸送部隊を潰すか』
『…馬は傷付けるなよ』
『…へいへい-』
『…っ!土柵っ!』
『風壁っ!』
次の瞬間、敵は目の前から消えたので兄さんと班長は直ぐに全方向に壁を展開する。…っ!
その直後、左右から激しい音が聞こえた。
『あ~、面倒だなぁ』
『…ならば、これはどうだ』
『…っ!』
『…これはっ!?』
すると、敵二人は大量に氣を練り上げそれを自身の周りに解放していく。…っ!なんて数の氣の獣だっ!?
そして、氣の獣達は俺達を守る二重の壁に向けて突進し始めた。…すると、恐ろしい事に氣の壁が徐々に壊されているのを感じた。
「『…まさか、これ程までの力を持っていたなんてね』」
「『……?』」
「『…なんか、やけに落ち着いてるな~?』」
しかし、どういう訳か班長だけは落ち着いていた。…直後、新たに二つの氣を感じた。