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第十四話『首都へ』・肆

「-……っ」

 そして、翌朝。自然と朝早くに目が覚めた俺は静かに起き、部屋を出てまだ薄暗い廊下を歩いた。

「あ、おはようございます」

「っ!お、おはようございます」

 やがて、下の階に降りると宿の人と出くわしたので静かに挨拶をした。…すると、向こうはとても驚いた。

 まあ、普通の旅人はこんな時間には起きないだろうからな。

「…凄く早いお目覚めですね」

「はは、寝つきが良いものですから。…あ、どうぞ」

「す、すみません」

「…ああ、そうだ。

 -輸送部隊が寝坊したのは、貴女達の責任ではありませんよ」

「…え?」

 宿の人に道を譲る時、ふと俺はそんな事を言った。…当然、その人は驚いた顔で振り返る。

「…じゃあ、散歩にでも行ってきます」

「…あっ、ちょっ-」

 けれど、俺は理由を言わずに宿を出た。…流石に、全部を話す訳にもいかないだろう。

 だけど、『責任を感じる必要はない』という事だけは伝えたかったのだ。


「……ん?」

 とりあえず、首都側に向かって歩きつつ人気のない所を探していると、ふとそちらから何かが近いてくるのを感じた。

 なので、兜を纒ってみると一羽の鳥が町の外れに向かっているのを感知した。…っ!

 その瞬間、嫌な予感がしたので俺もそちらに向かって走り出した。

「-っ!仁っ!」

「…やっぱり、その鳥はお前の家族だったか」

 そして少ししからそこに着くと、案の定桃歌と先程の鳥が会っていた。…しかし、随分と大きな鳥だな。

『ぴぃ~っ!』

「あ、このコは首都に住んでる親戚の使いで兄さん達との連絡役をしてくれているの」

「なるほど。…って、もしかして?」

「…そう。

 このコはね、『速く伝えなくてはならない』時に使いに出るの。…そして、これがこのコが運んで来た伝達よ」

 俺の予想を彼女は肯定し、鳥が運んで来た手紙をこちらに渡した。…っ!

 なので、俺はそれをそっと受け取り中身を確かめる。…その内容は、実に簡潔でとても予想通りだった。


『-首都に向かっていた輸送部隊が、まだ到着していない。

 何か知っていたら、教えて欲しい』

「…はあ、予想通りの展開だな」

「…本当、最悪。

 でも、まだ間に合うかも知れないわ」

「…だな」

「とりあえず、私は一旦宿に戻って昨日の情報を書き出すわ」

「分かった。…じゃあ、俺は備えをしておくとしよう」

「…それが良いわ。

 じゃあ、行くわね」

 そして、彼女は駆け足で宿に戻り俺は備えを始めようとした。…すると、鳥は地面から近くの木に移動した。

「(…賢いな。)…ふぅ」

 俺は感心しつつ、氣を練り上げ全身に送り始めた-。



 -やがて、日が完全に昇った頃。俺達は宿場町を急いで出て、輸送部隊の後を追った。…班長の予想だと、恐らく輸送部隊は例の近道を利用しているとの事だ。

「…どうなってると思う?」

「…まあ、輸送部隊の人達は無事だと思う。

 ただ、最悪荷物は壊されているでしょうね」

「…だよな~」

「…どうして、そんな事をっ」

 移動しながら質問すると、班長は淡々と予想を語る。…くそっ、本当に迷惑な連中だ。

 連中に対して怒りを感じつつ、俺達は街道を駆け抜ける。

「-っ!あれはっ!?」

「あれは、国が用意した『休憩所』よっ!」

 そんな中、俺は整備された広場を見つけたので班長に聞いてみる。…なるほど。宿場町がない場合は、あそこで寝泊まりするのか。

「…なんだか、騒がしいわね」

「多分、あそこにも悪い知らせが届いたんだろうな~」

「…あり得ますね」

「…っ!?」

 そんな事を話していると、ざわざわしていた兵士がこちらに気付き道に出て来た。…当然俺達は、慌てて止まる。


「旅人よ、待たれよっ!」

「足止めして申し訳ないっ!」

「…私達に何かご用が?」

 そして、他の兵士に比べて立派な鎧を来た二人が前に出て来た。…ただ、不審に思われた訳ではないようで二人はこちらに対して申し訳なさそうにしていた。

 だから、班長もなるべく冷静に質問する。

「…単刀直入に聞くが、そなた達はただの旅人ではないな?」

「「「…っ!」」」

 すると、片方の髭を生やした男性がいきなりそんな事を聞いて来た。…まあ、あんな速さで移動してたら誰だってそう思うよな。

「…確かに、私達は他の方より少々鍛えております。…ですが-」

「-…少々鍛えた程度で、国の悩みの種である『刃龍』なる者達に対抗出来るとは思えないと思うがな?」

『…っ!?』

「……」

 班長が謙遜を言いかけたその時、もう片方の男性はまたしてもこちらが驚く事を言った。…当然、これには班長も驚いた。


「…これはあくまで中央の分析だが、どうやら最近連中と同等の力を持つ者達が現れたようなのだ」

「…例えば、海賊被害に遭っていた蒸気船がある日無事に航海を終えたり、あるいは厚大の港で起きた倉庫襲撃未遂だったり」

「「……」」

「…更には、日向村と呂奈の件に街道の復旧もあるな」

「「……」」

 二人が告げた内容に、俺達は黙ってしまう。どうやらこの国は、連中の起こした事件を事細かに調べていたようだ。…多分、その過程で俺達の存在を知ったのだろう。

 まあ、日向村や街道の復旧の時なんかは素性を隠したり口止めしなかったからな。

「…参りました。確かに、私達は連中と何度か闘っています。

 -そして、これから輸送部隊を襲っている者達とも闘うでしょう」

『…っ!?』

「…やはり、輸送部隊は連中に襲撃されていたか」

「…なんという事だ。

 -総員、道を開けよっ!」

『…り、了解っ!』

 班長がそう言うと、兵士達は驚き兵士の長達は苦々しい顔になる。

 そして、片方の長は兵士達に命令し道を開けさせた。


「…一つ頼みがある」

「…はい」

「…申し訳ないが、どうか輸送部隊を助けてくれ。

 無論、我々も後から必ず追いかける」

「お任せください。

 -じゃあ、行こか」

「ああっ!」

「はいっ!」

「分かった~っ!」

 長達の頼みに、彼女はしっかりと頷いた。そして、俺達もやる気を漲らせて返事をし直後また走り出した。

『…っ!?』

 当然、兵士達はまた驚かせてしまうが気にしている場合ではない。…はあ、多分この後はいろいろと大変な事になりそうだな。

「…なんか、凄く注目されましたね」

「…まあ、無理ないだろ~」

「…とりあえず、今は闘士の事だけ考えましょう」

 すると、仲間達も同じ事を考えていたので班長は気を引き締めて来た。…確かに、闘いを乗り越えないと『先』に行けないな。


「-っ!そろそろ、例の近道に入るよっ!」

 そして、俺達が気持ちを切り替えるのと同時に例の近道に入った。

 そこは、道の両脇が沢山の木々が生えている林道だった。…これは、格好の場所だな。

「…一旦、止まりましょう

 智一、お願い」

「…了解です」

 すると、班長は全体に止まる指示を出しそれから智一に『偵察』を頼んだ。勿論、自分も使いの鳥ではなく氣の鳥を生み出す。…まあ、危ないからな。

『ぴぃ~っ!』

 それから少しして、二つの氣の獣は道の先に進んだ。…すると、直ぐに二人は目を閉じた。

「…やっぱり、輸送部隊は眠らされているようね。

 ただ、馬はまだ居るし荷物も-」

「-っ!凄い数の足音が来てますっ!」

「…まあ、流石にもう手下が来ていてもおかしくないか」

 班長が状況を報告していると、弟分が敵の接近を報告した。…どうやら、もう時間はないようだ。

「行きましょうっ!」

『了解っ!』

 なので、班長は即座に指示を出し俺達は直ぐに彼らの元に向かった。

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