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第十六話『臙脂の都』・参

「それでは、予選三組の第一試合を開始致しますっ!」

『…っ』

 感心していると、審判はそう言った。当然舞台の中に居る参加者達は、直ぐに身構えた。

「始めっ!」

『うおおおっ!』

『おおおおっ!』

 そして、審判は頃合いを見て試合を始める。直後、参加者達は一斉に近くの敵に攻撃を仕掛けた。…うーん、気迫は凄いが動きは素人丸出しだな。

 やがて、参加者達は互いにぶつかり合い攻防を繰り広げた。それに合わせて、待っている参加者達も興奮していく。しかし、俺はそれを冷静に見ていた。…多分、強者の技と実戦を経験しているからだろう。

『-ぐはっ!』

『しゃあああっ!』

「そこまでっ!

 第一試合は、三番の方が勝利ですっ!おめでとうございますっ!」

 そうこうしている内に、舞台の中では最初の試合が終わった。そして、審判は勝ち残った参加者を称賛しつつ青銅の札を渡した。


「これは、本選の参加証ですので紛失しないようにお願いします」

「分かった」

「それでは、しばらくお待ち下さい」

 審判がそう言うと、舞台の周りに控えていた他の役員が脱落した参加者達を介抱し会場の外に連れて行った。…あ。

 するとその中に、三人目を見つけた。

「-お待たせ致しましたっ!

 それでは、六番から十番の方は舞台に中へお願いしますっ!」

 そして、それが終わると審判は次の試合の準備を始める。…まあ、多分さっきと代わり映えしないだろう。

 俺はそう判断し、目を閉じて闘いの準備に集中した-。


「-それでは、二十番から二十五番の方は舞台の中へお願いしますっ!」

 それからかなり経った頃。いよいよ俺の番が来たので、目を開け舞台に上がった。…ふむ。

『…ツイてるぜ』

『…まずは、小僧からだ』

 すると、他の四人は嫌らしい笑みを浮かべながらこちらを見て来た。…はあ、凄くナメられてるな。

 ちょっと嫌な感じだが、仕方ない。…まあ、直ぐに彼らは驚く事になるだろう。

「それでは、第四試合を開始しますっ!」

『……』

 そして、審判がそう言うと他の四人はよりこちらに意識を向けた。…勿論、俺も足に氣を溜めていた。

「始めっ!」

『おらああああっ!』

『あっ!?』

 審判が開始を宣言した直後、予想通り四人は一斉にこちらに向かって来た。…当然、他の参加者達は俺の不運を嘆く。

『-っ!?』

『なっ!?』

 だが、直ぐにそれは驚愕に変わった。…まさか俺が、瞬時にその場から移動するとは思わないだろう。多分、彼らには俺が消えたように見えた事だろう。


『あっ!?』

「…へ?

 -ふごぉおおおっ!?」

 そして、俺はそのままの速さで近くの敵の前に立ち片手で思い切り腹を押す。…すると、敵は面白い声をあげながら後ろに後退した。

『うわあああっ!?』

「に、二十一番、場外っ!脱落ですっ!」

 当然、待っていた参加者達は慌てて避けそいつは舞台の外に出てしまった。すると、直ぐに審判は宣言した。

「「「……」」」

「一つ、言っておきましょう。

 -人を見掛けで判断と、痛い目を見ますよ?」

 それを見た他の敵は、唖然としていた。そんな彼らに、俺は忠告してから再び移動する。

「「「…っ!?」」」

『また、消えたっ!?』

「-うおっ!?」

 そして、俺は右側に居た大きな敵の前に立ち止まりまた押し出す。勿論、そいつも簡単に脱落した。…はあ。いくらなんでも、見掛け倒し過ぎだろ。

「「「…くっ!?」」」

 だんだんがっかりしていると、残された三人は背中合わせになり警戒していた。…まあ、あれなら場外に出る事はないだろう。


「「ぐおっ!?」」

 なので、俺は素早く三人に近付き脛を小突くように軽く蹴る。すると、三人は跳び跳ねるほど痛がった。

「「「ふがっ!?」」」

 次に足払いをすると、三人は簡単に地面に倒れた。…最後に、ほんの少し氣を拳に溜めて地面を思い切り殴った。

『ひいいいいいっ!?』

「…どうしますか?」

 直後、激しい音と振動が伝わり二人は情けない声を出した。そんな二人に、俺は真顔で質問した。

『こ、降参するっ!』

「…っ!そ、そこまでっ!

 勝者、二十四番ですっ!」

 当然、三人は素直に敗けを認めた。それを聞いた審判は直ぐに試合を止めた。…ふう。

「…お、おめでとうございます」

「ありがとうございます。…あ、舞台に穴を開けてすみませんでした」

「…い、いえ、直ぐに修復できますのでご安心ください。

 あ、こちらをどうぞ」

「(…はあ、ちょっとやり過ぎたな)ありがとうございます」

 とりあえず謝ると、審判役の同郷の奴は少し怯えながらそう返した。なので俺は、反省しつつ本選出場の証を受け取った-。


「-あ、戻って来た」

 それから、案内に従って会場の外に出ると既に仲間達がそこに居た。…後は、栗蔵兄さんと弟分だけか。

「案の定、余裕だったな」

「まあ、明らか素人に毛が生えた奴らしか居ないから当然だろう」

「…ですね」

「…あれ?何か元気ないよ?」

 年上二人の言葉に、俺は素っ気ない返事を返してしまう。…すると、班長は俺の様子に気付いた。

「…なんか、やり過ぎたみたいで知り合いにビビられた」

「…っ」

「あん?…まあ、何だ。あんまり気にすんな」

「…だな。

 実際、俺達も他の奴らと役員にビビられた」

 俺が理由を話すと、班長はハッとした顔になり仲間達は励ましてくれる。…やっぱり、俺達は常識の外に出てしまったんだな。

「…とりあえず、後でその人達にはしっかり事情を話しておいた方が良いね。

 多分、午後からの本選にも関わっているだろうし」

「「…そうだな。…って、マネすんなよ」」

「…分かった」

 すると、班長はそんな提案をしてくれた。多分彼女達も、同じ経験をしたのだろう。


「-…ふう~」

「あ、居ましたっ!」

 話しが纏まると、ちょうど残り二人が会場から出て来た。…無論、二人も怪我はおろか疲れた様子を見せなかった。

「おっ、やっぱり全員通過か~」

「良かったです」

「当然よ。じゃあ、詰所に戻りますか」

『ああ』

「だな~」

「はいっ!」

 そして、俺達は直ぐに詰所に戻る事にした。その道中、予選会の話題が出るがやはり『歯ごたえ』がないという事になる。


「-…まあ、流石に本選は楽に進めないと思うな」

「そりゃそうだ。事実、俺達同士が闘ったら良い勝負になるだろ」

「それに、他の会場ではすげぇ奴らが居るかもだしな」

「…ですよね」

「はあ、大変だな~」

「…ん?」

 そうこうしている内に、人で賑わう区画から静かな詰所のある区画に戻って来た。…するとまたもや、門の前で人だかりが出来ていた。

『只今戻りましたっ!』

『おかえりっ!』

『その顔は、通過したんだな?』

 どうやら、若手の兵士も何人か予選に参加していたようだ。…なんか、想像と違ってガチガチに厳しくないんだな。

 まあ、国が主催しているから参加の許しが出たのかもしれないが。

『…っ!お、おい。彼らは確か…』

 すると、仲間を出迎えていた兵士達はこちらに気付いた。…しかも、どうやらさっきの人達も混ざっているようだ。


「-こらっ!任務中だぞっ!

 それに、門を塞ぐとは何事かっ!」

『…っ!?』

 どうしようかと考えていると、後ろから兵士達を叱る声が聞こえた。当然、兵士達はぎょっとした。

「今、緊急の事態が起きたらどうするっ!?

 収拾が間に合わず、被害が広がるぞっ!」

 しかも、その人物はつい先ほど知り合ったばかりの対策部隊の大隊長殿だった。どうやら、報告は終わったようだ。

『も、申し訳ありませんっ!』

 そして、兵士達は敬礼しながら謝罪し迅速に区画の中に戻って行った。…うん、やっぱちゃんと厳しいや。

「…やれやれ。…っと、すまないな」

「…いえ、助かりました」

『ありがとうございます』

 それを確認した大隊長はため息を吐き、顔と雰囲気を穏やかにして俺達に謝って来た。…多分だが、怖がらせたと思っているだろう。

 無論、俺達はビビるどころかむしろ助けて貰った俺達はお礼を返した。

「…本当に、君たちは凄いな。

 では、行こうか」

『はい』

 すると、大隊長は感心したようにそう言い歩き出した。なので、俺達はその後に続いた-。

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