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第十六話『臙脂の都』・弐

「では、長くこの都に住んでいる彼に案内してもらいましょう」

「…っ、だな」

「…すまんな」

 彼女がそう言うと、睨み合っていた二人は直ぐに冷静になる。…本当、慣れてるな。

「いえ。

 じゃあ、お願いね」

『ぴぃ~っ!』

 そして、彼女は近くの木に止まった使いを見て案内を頼んだ。すると、使いは飛び立ち都の中心へと向かい始める。

 なので、俺達も直ぐに使い追い掛けた。…さてと、向かうまでの間にちょっと氣を整えておくか。…っ!

 そんな事を考えながら走っていると、ふと何処から視線を感じた。

「…見られてるな」

「…まあ、悪意はないな」

「…何でしょうね」

「「……」」

 どうやら、仲間達も気付いたようだがその出所を探そうとはしなかった。なので、俺も無視する事にした。


「-っ!」

 けれど、どうやらそういう訳にもいかないようだ。…何故なら、区画の出入口である小さな門の所に複数の兵士が居たのだから。

「…っ!おいっ!」

『…っ』

 そして、兵士の一人がこちらに気付き他の人達もこちらを見た。…何だ?

「…あの、何でしょうか?」

『……』

「…ああ、すまないな。

 -…単刀直入に聞くが、君達は輸送部隊の襲撃の事を知ってるか?」

『……っ』

 すると、その中の一人が申し訳なさそうな顔でそんな事を聞いて来た。…当然、俺達は驚いてしまう。

「…あの、その事でしたら対策部隊の方に全てお話しています。

 なので、そちらに聞いて下さい」

『……』

 けれど、班長は冷静にそう返した。…それに対して、兵士達は何かひそひそと話し合う。

『-…やっぱり、こいつらは運悪く居合わせただけじゃないか?』

『…だよな。…じゃあ、やっぱり今回も-対抗組織-とやらが片付けたのか?』

 とりあえず、耳を強化して内容を聞いてみるとそんな話が聞こえた。…どうやら、俺達を探していたようだ。


『……』

「……あの?」

「おっと、すまない。

 ほら、皆も早く戻らないとっ!」

 当然、仲間達もひそひそ話を聞いていた。けれど、班長は冷静なまま不安そうな顔をした。

 それを見た兵士は、直ぐに謝って来て周りの兵士達に声を掛けた。

『…っ!』

 すると、彼らはハッとして慌てて自分の所属する部隊に戻って行った。…多分、仕事を無駄で休んで此処に集まっていたのだろう。

「…ふう。じゃあ、改めて行こうか」

「…ああ」

 とりあえず、俺達はまた走り出し門を抜けて区画から出た。…はあ、一体何だったんだ?

「…多分、兵士達は探りを入れに来たんだと思う」

「…まあ、発足からつい最近まで功績がなかった部隊が急に目立ち始めたら、誰だって気になるわな」

「…なるほど~」

「…でも、これは良い兆しだと思います」

「…だな」

「他の部隊から認められれば、力を貸して貰えるだろうし」

「……」

 班長達がそんな話をしていると、ふと弟分がもやもやした顔をした。…待てよ?


「…ん?どうした~?」

「…僕達にも、何か出来る事はありますか?」

「そりゃ、俺達の実力を見せてやれば良い。

 そうすれば、きっと他の部隊も協力してくれるだろう」

「「「…っ」」」

 そして、弟分がそんな事を言ったので俺は即答した。それを聞いた仲間達は、ハッとした。

「…確かに、私達が味方になったと分かればより対策部隊に注目が集まりますね」

「…んで、やがては認めるようになると」

「…実力社会のこの国なら、間違いないな」

「…となると、これから参加する力自慢の大会はどのくらいの力を出すべきだ~?」

 すると、栗蔵兄さんは『恰好の舞台』の事を口にした。…確かに、本気を出し過ぎると逆に怖がられてしまうな。

「まあ、当然『技』を使うのは無しだ」

「後は、鎧もだな。てか、氣で身体を強化するだけで大抵の奴には勝てるだろう」

「…となると、『私達同士』以外は原則基礎だけで闘いましょうか」

「…ああ」

「…だな」

「「「…っ」」」

 そして班長は、一つの約束事を出す。…それを聞いた闘士二人は、好戦的な笑みを浮かべて頷く。当然、俺達は緊張してしまった-。


「-力自慢大会に参加する方は、あちらにどうぞ~っ!」

 やがて、商業の店が立ち並ぶ区画に入ると筋肉質の男性が大きな声を出していた。多分、大会の関係者だろう。

 そして、その男性が指し示す先にはロープで囲まれた広場があり、そこにはいかにも力自慢の人達が集っていた。

 どうやら、あそこが予選会の会場らしい。

「…なるほどな~。

 都のいろんな所で予選会を開き、それを勝ち抜いた奴らが本選の会場に行ける訳か~」

「なかなか、面白い取り組みだよな」

「まあ、本選の会場の事情もあるんだろ」

「…っ!そこの旅の方々っ!良ければ、力自慢大会に参加しませんかっ!?」

 仲間がそんな話をしていると、大会の案内をしていた男性がこちらに気付き勢い良く近いて来た。

「ええ、勿論そのつもりですよ」

「おおっ!では、広場の中に居る役員の所で受付をお願いしますっ!」

『はい』

「……え?」

 勿論、俺達は頷き全員で中に進む。…当然、役員はびっくりしていた。まあ、見た目非力そうな少女と小さな少年も一緒に入ったのだから当然だろう。


『-っ!……?』

『…何だ、あいつら?』

『…おいおい、また女の子が来てるぜ』

『…つか、あんな子供まで』

 そして、他の参加者達も同じ反応をした。…しかし、誰一人として俺達の纏う氣には気付く様子はなかった。

 これは、予選会は楽勝かもしれない。

「-あ、参加者の方ですね…って、えっ!?」

 少し気が楽になっていると、看板を持った役員を見つけたのでそちらに向かう。…すると、その役員こちらを見てとても驚いた。

「…いや、驚いたな。

 -久しぶり」

 そして、驚いたのはこちらも同じだ。…何故なら、彼は一緒に東の国を出た同郷の奴だったのだ。

「…あれ?知り合い?」

「同郷の奴だよ。…いや、まさかこんな所でまた会うとはな」

「そりゃこっちの台詞だよ。…っと、失礼。

 では、三列に別れて並んで下さい」

 驚いていたそいつだが、直ぐに役員の仕事に戻り紙を丁寧な所作で指し示した。…どうやら彼も、今日までしっかり頑張っていたようだ。


「ありがとう」

「どうも~」

「「どうも」」

「「ありがとうございます」」

「…へ?」

 俺は感心しつつ礼を言い、列に並んだ。当然仲間達も礼を言い、それぞれ並んだ。…まあ、それを見たそいつはやっぱり驚いた。

 そして、少しして俺の番が回って来たので受付を済ませ参加者の証である木の札を貰った。

「では、『三』と書かれた看板を持っている役員の所に行って下さい」

「分かりました」

 すると、役員が次に行く所を教えてくれたのでそちらに向かう。…あ、どうやら俺だけだな。

 道中、ちらっと後ろを見るが仲間達はそれぞれ別の組分けになったようだ。

 まあ、きっと大丈夫だろう。

『-…っ』

 そんな事を考えている内に、俺は目的の場所に着いた。…当然、そこにもかなりの数の参加者がおりこちらをじっと見た。

『…けっ』

『…これは楽勝だな』

 中には、俺を見て油断する人も居た。…多分恰好のせいだろう。今の俺は今どう見ても、田舎から出て来た旅人だからな。


「-お集まりの皆さんにお知らせしますっ!」

 特に気にせず待っていると、奥から拡声の道具を使った声が聞こえた。なので、そちらを向くと役員が立っていた。…おいおい、あいつも此処に居たのか。

 しかも、その役員も同郷の奴だった。この分だと、残りのあいつもこの場に居るな。

「只今より、予選会が始まりますっ!

 まずは、一番から五番の方は白線の中へとお進みくださいっ!」

『よっしゃっ!』

『やるかっ!』

 すると、役員は予選会の開始を宣言し早速一組めの試合を始める。

 そして、彼に呼ばれた五人は白線で囲まれた戦いの場に入っていく。


「ルールは簡単ですっ!

 他の方を白線の外に出すか、または降参させるかのどちらかっ!

 ただし、相手を必要以上負傷させた場合は失格となるので注意して下さいっ!」

『…っ!』

 役員が決まり事を説明すると、参加者達は少し緊張した。…へぇ、ちゃんとしてるだな。流石都会だ。

「それでは、予選三組の第一試合を開始致しますっ!」

『…っ』

 感心していると、審判はそう言った。当然舞台の中に居る参加者達は、直ぐに身構えた。

「始めっ!」

『うおおおっ!』

『おおおおっ!』

 そして、審判は頃合いを見て試合を始める。直後、参加者達は一斉に近くの敵に攻撃を仕掛けた。…うーん、気迫は凄いが動きは素人丸出しだな。

 やがて、参加者達は互いにぶつかり合い攻防を繰り広げた。それに合わせて、待っている参加者達も興奮していく。しかし、俺はそれを冷静に見ていた。…多分、強者の技と実戦を経験しているからだろう。

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