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第二十六話『秘境』・壱

『-………』

 首都を旅立ってから、およそ半月。…その間本当に順調に進んで来れたのでなんとか予定通りに『入り口』まで到着した。

 しかし、そこにはただ巨大な石造りの壁があるだけで門のようなはなかった。…けれど、何故だか俺は『進める』ような気がした。

「-お、こんにちは。旅の方ですか?」

「いえ、自分は刃龍同盟対策部隊所属の田辺と申します」

 すると、詰所と思われる建物から気の良さそうな兵士が出て来て声を掛けて来た。なので、副隊長が前に出て名乗る。

「…はい?」

「そして、こちらに居るのは刃龍に対抗する者達です」

「な、なんだとっ!?」

『…っ』

 副隊長が俺達を紹介すると、兵士はとても驚いた。更に、詰所がざわざわした様子になる。


「-…すまない、待たせな」

 それから少しして、詰所から責任者らしき人が慌てて出て来た。…まさか、来訪者が来るとは予想してなかったのだろう。

「いえ。突然の訪問失礼します」

「…それで、一体どういう事だ?」

「その質問に答える前に、こちらをご確認して下さいませ」

「…ん?…こ、これは、王宮の伝書に使われる巻物ではないか。

 …謹んで、拝見させていただく-」

 副隊長が例の許可証を出すと、責任者は急に緊張した様子でそれを開いた。…そして、直ぐに目を見開いた。

「…では、理由をお答えしましょう」

 すると、副隊長が班長に目配せをしたので彼女は前に出て名乗る。…それを聞いた責任者は更に驚いた。

「…なんと。君のような少女までもがあの連中と戦いに身を投じているのか」

 そして、彼女が事情を話すと責任者は悲しげな顔をした。…恐らく、娘が居るのだろう。


「ご安心を。…彼女達には、連中と戦う術がありますので」

「…なんだと?……っ!」

 なので、副隊長はそう言って俺達を見た。だから、俺達は『証明』をしてみせると責任者は気圧された。

『……』

「…なんという圧だ。…どうやら、諸君らは紛れもない『勇士』なのだな。

 -では、通るが良い」

 責任者は俺達の実力を認識し、そんな評価を出した。そして直ぐに表情を引き締め、丁寧な所作で巨大な壁を指し示した。

『…っ!』

「…えっと、どういう事ですか?」

「そのままの意味だ。…ああ、ちなみに詰所の中には『道』は無いぞ?」

 俺達はなんとなく意味を察したが、副隊長は困惑していた。…すると更に、責任者はそんな事を教えてくれた。


「…では、一体どうしろと?」

「…さてな」

「大丈夫ですよ」

「……っ」

 そんな中、班長は自信を持ってそう言いこちらを見た。…どうやら、俺の出番らしい。

 なので俺は、素早く壁に向かうと仲間達も着いてきてくれた。

「………」

 やがて、壁の前に立った俺は巨体な壁を見上げた。…谷に合わせているだけあって、今まで見た壁の中で一番大きいな。

『-さあ、雷を手に纏え』

 そんな事を考えていると、相棒が声だけで指示を出して来たので言われた通りにする。…そして俺は、恐る恐る雷を纏う右手で壁の一部に触れた。

「…っ!?」

『…っ!』

 すると、その周辺に雷が広がり大きな枠が生まれた。…そして、程なくして雷が収まるとそこに大きな片開きの壁が現れる。


「…こ、これは?」

「…なるほど。

 -前任者から聞いた『通る証を持つ者は自ら道を切り開く』…とは、こう言う事か」

「では、行って来ますっ!」

『行って来ますっ!』

 当然、後ろでは副隊長が責任者に質問していたが責任者も詳しい事は知らなかったようだ。なので、俺達は出発の挨拶をする。

「…は、はいっ!どうか、お気を付けてっ!」

「頑張るのだぞっ!」

『はいっ!』

 すると、向こうは返事をしてくれたので俺達は一人ずつ扉を通り『中』に入って行く。…そして、栗蔵兄さんが扉を閉めた直後僅かに感じていた雷の気配がそこから消えた。

「…どうやら、壁に戻ったみたいね」

「…どういう仕掛だ~?」

「多分、雷の力に反応する物で作られてるだろう」

「…そんな物、あるんですか?」

「…でないと、説明が付かないだろうよ。

 それに、この地は未開の秘境だからな。そんな不思議な物があっても、驚く事ではない」

「…まあ、そうだな」

「……っ」

 仲間達がそんな事を話す一方、俺はふと空を見上げた。…今は、とても春らしい空で気温も暖かかった。


「…何か感じた?」

「…分からない。

 -ただ、今の内に備えておいた方が良いと思うんだけど、どうだ?」

「…まあ、山の天気は変わりやすいと言うからな~」

「…それに、黄仁境の入り口は此処からそんに距離はないと聞いています」

「…分かった。

 全員、嵐用の装備を」

『了解』

 すると、班長は全員に指示を出した。なので俺達は、素早く完全防備をする。…当然、気温が高い中でそんな格好をしたのでかなり暑苦しく感じた。

 そして、俺達はなるべくゆっくりと境の入り口へと歩き出した。


「-っ!来ますっ!」

 それから程なくして、谷と秘境の境に来たのだがその瞬間あんなに晴れていた空が急に暗くなり、辺りが冷えて来た。

 次の瞬間、俺は雷の気配を感じたので仲間達に警告を出し素早く耳を塞ぐ。当然、仲間達も同じようにした。

『-っ!?』

 そして、ほんの少し後にかなり遠くに雷が落ちた。…しかも、恐ろしい事にその衝撃で大地が少し揺れる。

 遠くでこれ程という事は相当大きな雷だったのだろう。

「…助かった」

「…やはり、此処からは仁が先導するべきだろう」

「…そうですね。

 お願い、仁」

「…了解」

 仲間達の頼みに、俺は不安を抱きながら頷き前に出る。…とりあえず、目と耳で秘境を良く観察してみた。

「……っ!」

 すると、不思議な事に岩山の幾つかの場所が優しく光っているように見えた。…しかも、それは入り口から中腹まであった。


『-良し、-しるべ-は見えたな』

(…やっぱり、あの光を辿るのか)

『そうだ。あの光を辿れば、雷を避けて行く事が出来る』

「…どう?行けそう?」

「…なんとかなりそうだ。

 -じゃあ、行きましょう」

『了解』

 桃歌の確認に、俺はしっかりと答えた。そしてついに、俺達は秘境の中に入っていく。…まずは、直ぐ近くの光りを目指す。

『-っ!?』

 すると、まるで待っていたかのように雨が降り始めた。…そして、直ぐにどしゃ降りの雨へと変わる。

「…準備していて正解だったな」

「やっぱ、山育ちが居ると助かるな~」

「どういたしてまして…っ!

 次、来ますっ!」

 仲間達の感謝に、俺は少し嬉しくなった。…だが直後、また雷の気配を感じたので警告を出した。


『-っ!?』

「…怖っ!」

「…最初と比べて、少し近い気がするな」

 そして、また遠くにデカイ雷が落ちた。…すると、弟分はかなり怯え正義兄さんは冷静な分析をした。

「…とりあえず、進みましょう」

『…』

 けれど、此処で立ち止まる訳にも行かず俺達はゆっくりと確実に前に進んだ。

 無論、その間も絶えず雷は落ち岩山全体が微かに揺れる。

「-…っ!」

「おっ、ツイてるなっ!」

「…少し、休憩しましょう」

 やがて、最初のしるべの場所にたどり着くと直ぐ近くに洞穴を見つけた。当然、仲間達は一休みしようとそこに向かう。

「…ふう~」

「…やっぱ、ヤバいよなー」

 しかも、良い感じの岩があったので揃ってそこに座る。…その時には、俺は一つの予想を抱いていた。


「…どうした?」

「…あ、いや。

 -…その、なんか『不自然』な穴だなと思いまして」

『……へ?』

 すると、金髪兄さんが質問して来たので俺は率直に言った。…当然、仲間達はぽかんとしてしまう。

「…そうか?どう見ても、普通の洞穴だろ?」

「…そうですね-」

 金髪兄さんの否定に、俺は目を凝らして天井や壁を見た。…良く見ると、とても綺麗になっていた。

「…やっぱり、この洞穴は『誰か』が作った物ですね。

 その証拠に、天井や壁の岩山が綺麗になっています」

「…え?」

「あ、本当だ」

「普通、ゴツゴツした岩肌になっていたり大地の刺がぶら下がっているものなんですよ。

 更に、こんな『座るのに良い岩』が入り口付近にあるのもおかしい」

『……』

 俺は、天井や壁並みに整えらた椅子に触れながらそう言う。…すると、仲間達は少し冷や汗を流した。

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