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第二十五『語らいの夜』

 -翌日。砦を出発した俺達は、怖いくらい順調に行軍していた。…本当、昨日の苦難が嘘のようだ。

「-…順調なのは良いけど、不気味ですね」

「…もしかしたら、道中の妨害は未の奴に一任してたのかもな」

「…いや、流石に早計だろう」

 当然、班長も不安を口にした。すると、金髪兄さんが楽観的な予想を立てるが直ぐに冷静な兄さんは否定する。…まあ、そんな予想をした当人も気を引き締めているから、多分俺や弟分とかの緊張を和らげる為に言ったのだろう。

「…言ってみただけだ。一々、真面目に突っ込んでくるなよ」

「…お前なあ」

「…とにかく、我々は特に気を引き締めていましょう」

『了解っ!』

 すると、二人の兄さんはいつものように軽く言い合り始めた。それを見た班長は、直ぐに行動を指示する。当然、俺達は力強く頷いた-。


「-それでは、本日は此処で夜営をするっ!

 総員、直ちに夜営準備を開始せよっ!」

『はっ!』

 やがて、俺達は予定通り最初の夜営地点に到着した。そして、対策部隊と拠点を管理する部隊は協力してきぱきと夜営の準備を始める。

「あ、手伝いますよ」

「すみません、ありがとうございます」

 無論、俺達も夜営の準備を手伝う。その方がより早く終わるし、何より任せっぱなしというのは落ち着かないのだ。

 そして、日が落ちる前に夜営準備が終わったので全員で夕食をいただき、その後は早めに天幕(テント)に入り休んだ。

「-…っ」

「…寝れないみたいだな」

 けれど、不安のせいか目が覚めてしまうと金髪兄さんが小声で聞いてくる。…だが、どういう訳か彼は身支度を整えていた。

「…ああ、気にするな。

 これから、不寝番があるんだよ」

「…え?」

「…元々、正の奴と旅をしてた時は交代でやってたからな。

 だから、今回申し出てみたんだ」

「…そうですか。ありがとうございます」

「…よし、お前もちょっと付き合え」

「…っ!…分かりました」

 お礼を言うと、兄さんはそんな事を言う。…多分、俺を気遣っての提案だろうから静かに起きた。


「…あれ?」

「…ああ、智一は正と一緒だよ。…多分、あいつも不安だったんだろう」

 その時、弟分の気配がない事に気付くと兄さんはそう言った。…やっぱり、弟分も眠れずにいたようだ。

「……」

 一方、栗蔵兄さんはしっかりと寝ていた。…やはり年長者な上一家の家長だけあって、この程度の不安では心を乱さないようだ。

「…頼りになりますね」

「ああ。…さ、行くぞ」

 なので、俺は寝巻きの上に服を着て兄さんと共に天幕を出た。…すると、丁度智一と桃歌が正義兄さんと共に戻って来た。

「…お、丁度良いな。…って、お前もか?」

「…はい」

「…まあ、しょうがないか。

 じゃあ、お休み」

「「…お休みなさい」」

「ああ」

「…お休み」

 そして、冷静な兄さん達は天幕に戻り俺と冷静な兄さんは焚き火の元に向かった。当然そこには、他の当番の人が居た。


『…っ』

「どうも。…あ、こいつは少ししたら戻りますよ」

「…はい」

 他の人達は驚くが、兄さんは静かに礼をしそれから俺の事を説明する。なので、俺も静かに頷いた。

『……』

「…お、あそこが良いな」

 すると、向こうも静かに頭を下げてきた。それを見た兄さんは、空いてるござを指差し素早く歩き出す。

「…ふう。…ん?どうした?」

 そして、二人揃ってそこに座るのだがふと俺はある事を考える。当然、兄さんは疑問を口にした。

「…いや、大した事じゃないんですが。

 なんか、こうして伸兄さんと一対一で話すのは初めてだと思いまして」

「…そういや、初対面の時からこういう風なのはなかったな。…なんか、新鮮だな」

 俺の答えに、兄さんは笑顔を浮かべながらそんな事を言う。…まあ、今までこんな時間を作る暇がなかったからな。


「…よし、これからはなるべくこういう時間を作るようにしよう。

 流石にこれは、正の奴も同意するだろう」

 すると、兄さんはふとそんな事を決めた。…確かに、これから連中とやり合う上で絆を深めるのは大事になるだろう。

「…やっぱ、二人ってなんやかんや仲が良いですよね」

「…まあ、な。…ただ、最初はマジで些細な事で殴り合いになる関係だったんよ」

「…っ」

「…だから、流石にヤバいと思ったお袋達が俺達を葛西の家に預けたんだよ。…んで、あえてあいつと同じ部屋で長い事暮らしてたんだ」

「…へ?仲が悪い人同士を?…どうして?」

「…まあ、当然俺達は反発したが『-仲良くなるまで家の敷居は跨がせない』…って、お袋達が言ってたようでな」

「…うわ、なかなかの荒療治ですね。…というか、お母さん達いろいろと強過ぎません?」

「そりゃ、両方共戦乱に活躍した武芸者の子孫だからな。…ちなみに、親父達も葛西の奥方とお袋達の『説得』で仲が改善したらしい」

「…な、なるほど」

 兄さんは冷汗を流しながら、そんな事も話してくれた。…やはり、女性というのは『強い』んだなあ。


「…話しを戻すぞ。

 それで、凄く嫌だったがなんとか同じ部屋で暮らしはじめてな。…だが、当然直ぐに仲良くなるなんてのは無理だった」

「……」

「…そんな感じで半年を過ぎた頃、遂に葛西の当主は最後の手段に出たんだよ。

 -いや、まさか揃って裏山の奥に放り出されるとは思わなかったなあ~」

「……はい?」

 兄さんは、苦笑いしながらとんでもない事を口にした。当然、俺は自分の耳を疑った。…けれど兄さんは、空を見ながら続ける。

「当然飯も水もないし、寝床もなかったからなあ~。…本当、あの時はマジで人生終了を覚悟した」

「…マジですか」

「…まあ、ちゃんと先輩が気配を消して見守っていてくれたんだけどな。

 ただ、当時闘士でもない上に未熟だった俺達はその事に気付けなかった」

 次々と出てくる衝撃の内容に、俺はそんな相づちしかできなかった。すると、兄さんは頬をかきながら恥ずかしそうにした。


「…だから、嫌でもあいつと協力しないといけなくなったんだよ。

 そのおかげで、なんとか自力で道場まで戻ってこれたのさ。…まあ、それでも関係が多少マシになっただけだったんだけどな」

「……」

「…奥方やお袋達は、ため息を付きながらも妥協してたなあ」

「…なんで、そこまで相性が悪かったんですかね?」

「さあな。…もしかしたら、星獣の影響なのかもな」

「…でも、その時ってまだ契約はしてないですよね。

 それに、両家の当主殿も」

 ふと疑問を口にすると、兄さんは予想を口にする。…だが、直ぐに違うと思い言葉に出す。


「…契約していようがなかろうが、俺達や親父達は闘士の末裔だ。だから、何らかの影響は受けていてもおかしくないだろう?

 実際、正の奴は小さな頃から嗅覚がずば抜けていたし桃歌は鳥達に好かれていた」

「……」

 兄さんの言葉に、俺は納得してしまった。…だからなのか、不安が顔に出てしまう。

「『-果たして俺は、この人達のようになるのか?』…とか、考えてるだろう?」

「…っ!」

 すると、兄さんはズバリと俺の考えを言い当てたので小さく頷いた。…直後、兄さんはニヤリと笑う。

「だから、春川女史の所に行くんだろうが。

 そして、その為なら俺達は喜んで囮でも何でも引き受けてやる」

「……」

「…それにな-」

 そして、兄さんはこちらに顔を寄せてとても小さな声で凄い事を教えてくれた。…ああ、だから班長は自信満々に『大丈夫』だと言ったんだな。

「…どうやら、少しは緊張が解けたようだな」

「…はい。……あふっ。…それじゃあ、お休みなさい」

 すると、ふと眠気が襲って来たので俺は兄さんに挨拶をしてから天幕に戻った。そして、翌朝までぐっすりと眠る事が出来た-。

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