「…お前も、辰の奴と同じ末裔なのか」
「…ああ。…てか、ウチの大将の事も知ってるようだな。
-なるほど、だから『軍師』は此処を制圧しろなんて言ったのか」
『…っ!』
すると、奴は意味深な事を口にする。…どうやら、此処を襲ったのは単に俺達の足止めだけではなかったようだ。
「…後は、残る四人の闘士の素性と知っている事を教えろ」
「…良いぞ-」
とりあえず班長は、尋問を続けた。…これも奴は、素直に答えていく。だから俺は、少し不安になった。
-もしかしたら、嘘を付いているのではないかと。
「-…おいおい、随分失礼な事考えるだろ?」
「…っ!」
すると、奴はふと話を止めて大げさに傷付いた反応をした。…こんな状況でも周囲の観察を怠らないというのは、恐ろしい。
「…大丈夫。こいつが嘘を付く事はないよ。
-それが、『お前達のルール』だろ?」
「…正解。本当、葛西は物知りだな」
「…?」
「…こいつらにはね、『敗者は勝者に従う』という掟があるのよ。
だから勝者である私達が『真実を教えろ』と求めたら、敗者であるこいつは嘘偽りなく答えなくていけないの」
「……」
班長の説明に、俺はぽかんとした。…どうやらこいつらは、単なる恐怖主義者(テロリスト)とは違うようだ。
「…そういう事だ」
「…それが、味方の不利になるかもしれない情報でもか?」
思わず俺はそんな質問をしてしまった。…すると、奴は不敵な笑みを浮かべる。
「はっ!俺が喋った所で、我々が不利になる事なんてあり得ないなっ!」
『…っ』
自信満々な様子に、俺達は冷汗を流す。…だからこいつは、余裕な態度なのだろうか?
「…やはり、お前は紛れもなく『かの国』の意思を引き継いでいるんだな。
そして、恐らく残りの闘士と軍師とやらもそうなのだろう?」
「…ああ、その通りだ」
だが、班長は淡々と尋問を再開した。…すると奴は、ニヤリとしまま返した。
「…マジか」
「…末裔多すぎだろう」
「…てか、普通監視とかしてるんじゃ?」
そいつの言葉に、俺達は天井を仰いだりいろいろと突っ込んでしまう。…そんな俺達の反応を見た奴は、とても愉快そうだった。
「…っ。…これは、後で確認ですね。
じゃあ、続きを話せ」
当然、班長ははっとして顔を引き締めぽつりと呟く。そして、改めて尋問を再開した-。
「-あ、お疲れ様です。……あの、どうされました?」
その後、いろいろ凄い事を聞いた俺達は牢屋を出て待っていた副隊長と合流する。…当然、副隊長はこちらの疲れた様子を見て心配してくれた。
「…いや、大丈夫です。…あ、これをお返しします」
「…ありがとうございます。……っ!」
とりあえず手帳を受け取った副隊長は、直ぐに中身を確認した。…そして、副隊長は目を見開き驚きを顕にする。
「…そんな、馬鹿なっ」
「…まあ、当然の反応でしょうね。
なので、後でいろいろと確認したい事があります」
「…確かに、そうですね-」
班長がそう言うと、副隊長は頷いた。
-そして俺達は、複雑な顔をしたまま宿舎に戻り出発の準備をしていた大隊長に来て貰い、尋問の事を話す。
「…なんという事だ」
手帳を読んだ大隊長は、心底驚いたようで絞り出すように言葉を出した。…やはり、相当衝撃的な内容だったらしい。
「…連中の中核を為す者共がかの亡国の末裔なのも驚きだが、まさか長き時を経て徒党を組んでいたとはな」
「…あの、その事でーつお聞きしたい事があります」
「…『監視していたのか?』だな?」
「…はい」
「……」
すると、大隊長は腕を組み記憶を引き出そうと目を閉じる。…果たして、どんな返答が飛んで来るのだろうか?
「…ああ、思い出した。…確か、諸君らと会う前に連中の正体をある程度予測していたな。
-やはり、一番最初にかの亡国の末裔ではないかと予想していた」
『…っ!』
やはりというか、対策部隊はその可能性を考えていた。…しかし、どうしてその予想を忘れていたのだろうか?
「…当然、私達は直ぐに使いを出して『監視部隊』に確認を取った。
だが、向こうからは『接触の可能性無し』という答えが返って来たのだ。
それゆえ、我々はその可能性が低いと考えてしまったのだ」
『……』
「…だが、超常の力を振るう奴らなば監視部隊など、容易く欺けるだろうな。…本当に、愚かな判断を下してしまったものだ」
そして、大隊長は俯いて反省の雰囲気を漂わせた。…まあ、無理ないだろう。多分、俺達が彼らの立場だったら同じ判断を下すだろう。
「…どうか、あまり思い詰めないで下さい」
「…ありがとう」
すると、班長は心配そうに声を掛けた。それを受けた大隊長は、ゆっくりと顔を上げる。…その顔は、真剣そのものだった。
「…私からも、一つ聞きたい事がある」
「…何でしょうか?」
「…これによると、辰以外は賊組織が動き出してから拉致あるいは交渉により組織入りしている。…つまり、その時は監視部隊は正常に機能していた筈だ」
「…確かに、そうですね」
「…ならば、どうやって監視部隊の目を欺いたのだろうか?」
「…そうですね。
-恐らく、『先代』達が暗躍していたと考えられます」
「…なん、だと?」
『……』
大隊長の質問に、班長は少し考えてから予想を口にした。…当然、大隊長は唖然とした。けれど、仲間達は納得していた。
「…馬鹿な。彼奴らが悪名を轟かせたのは、大戦末期なのだぞ?
つまり、少なくとも五十年は前の話しだ。流石に、老いには勝てないのではないか?」
「…普通の人ならそうなるでしょうが、闘士は氣で身体を強化しているから老いを遅く出来るんですよ」
「…なんと」
班長の説明に、大隊長は目を丸くする。…どうやら、闘士というのは本当に常識外れの存在なのだろう。
「…っ!ちょっと待て。…まさか、刃龍が生まれたのは最近ではなく我が国の黎明期なのか?」
「…恐らくは。…そして、次代の闘士が育つまで決起を待っていたのでしょう」
「…つまりは、『最初から』欺かれていた訳だな。…なんという、事だ。
何より、とても恐ろしい執念だ」
『……』
大隊長の言葉に、俺達は冷汗を流す。…つまり奴らは、この国に負けた時から『復讐』するつもりでいたのだ。
「…本当に、厄介ですね」
「…全くだ。
とりあえず、報告感謝する」
「お役に立ててなによりです」
「…では、次は今後の行程だ-」
すると、班長は真剣な顔でそんな事を言い大隊長も同意した。…そして、報告が終わると次は行程の確認だ。
-次に目指すのは、大陸北部の玄関口となる砦だ。そこでまた二日程休息を取り、その後は夜営用の拠点をたどりながら、黄仁境手前の拠点まで行く事になっている。…そして、そこに着いたら一旦副隊長さんと俺達だけで『玄関』まで向かい、『中』に入る。
「-…本当に、諸君らだけで大丈夫なのか?」
確認が終わると、やはり大隊長さんは不安そうにした。…確かに、玄関を抜けた後は全然知らないから不安だな。
「大丈夫ですよ。
-彼が、居ますからね」
「……へ?」
すると、何故か班長は俺を見ながら自信満々に返す。…一体、どういう事だろうか?
「まあ、行けば分かるよ」
「……」
「…分かった。必ず戻ると信じて、待っていよう」
「ありがとうございます」
それを見た大隊長は、そう言った。すると班長は、深く礼をした。…一方、俺は不安を拭えぬままだった-。