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第41話 予想外の事態(1)

「やっぱり、エリザ怒ってるよなぁ」


 エリザとのデート(?)から1日あけた、5月4日(月)の朝。

 ゲームの寮の部屋ログイン部屋で俺がいつまで待っても、エリザは現れなかった。

 ―― 現実世界では祝日だがこの 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 では平日で、つまり現実の学校を気にせずに朝からゲームできる日だから…… エリザと一緒に登校しようと楽しみにしてたんだけどな……


 もうゲーム内の学校が開く8時半なのに、まだエリザは来ない。


「俺が…… 俺が、おととい、ケーキの途中で帰っちゃったから……!」


「ぅぉんっ」

【過去のことを悔いても仕方ありませんw 大事なのは、これからですよww】


「だから、これから謝ろうと思ってたのにぃっ!」


「ぅおん、ぅおんっ」

【別にいいのでは? また 『謝ったら許してもらえるなんて、ただれた精神を感じるわ』 とか、言われますよww】


「いや! 『ごめんなさい』 と 『ありがとう』 は人間関係の基本だって! ばあちゃんも言ってたし!」


「ぅおんっ」

【いいおばあさまですねww】


「そうなんだよなぁ…… もしばあちゃんが俺だったら、ぜったいに、こんな失敗しないのに……」


「ぅおんっ、ぅおんっ」

【wwww】


 ―― 結局、9時まで待ってもエリザは来なかった。


「ぅおんっ……」

【まあ、気を落とさないでください】


 チロルが、ぱたぱたとしっぽをふって、しめった鼻を俺におしつけ、なぐさめてくれる。


「チロルぅぅぅ!」


「ぅおん、ぅおん、ぅおんっ……」

【もしかしたら風邪かもしれませんし、先に行ってるかもしれませんよ】


「うーん…… 先に行ってるならいいけど、風邪だったらイヤだなあ!」


 だって、あのエリザがゲームできないなんて、よっぽどひどい風邪だと思うし。そんなの、かわいそうだよね!


「ぅおんっ……!」

【では、エリザさんは先に行ってる、のほうに賭けてww とりあえず、行ってみましょう!】


「うん! 俺、エリザに会ったら、ちゃんと謝る!」


【最近、謝ってばかりですねww】


「それは言わない約束だろー! このこの! こうしてやるぅ!」


「ぅぉぉぉぉん……!」


 チロルをもふると、なんと、お腹を見せて甘えてきてくれた……!

 ふだんは生意気なペット兼ガイド犬だけど、俺が落ち込んでると、サービスしてくれるんだよな…… なんか、元気でてきた。


「ありがとう、チロル!」


「ぅおんっ」

【どういたしましてww】


「よっしゃ! 学校、行こう!」


「ぅおん、ぅおん、ぅおんっ!」


 勢いよく部屋のドアを開け、俺とチロルは廊下と階段を駆けだした。


 ―― できれば、学園祭の準備が始まる前にエリザに会えればいいな。

 それで、一昨日、先に帰っちゃったことをちゃんと謝る! でも、急に恥ずかしくなったとは言わない!

 ツッコまれたら、困るから!

 …… なんて言おうかな。

 うううん! 迷うなあ…… まあ、なんとかなるか!


「おーい! 行ってきまーす!」


 俺は時計のなかで踊ってる小人たちに手を振って、全速力でエントランスを走り抜けた。


「ぅおんっ、ぅおんっ!」

【最近、走ってばかりですねww】


「走るのって気持ちいいよな!」


 寮から学校までは、遠くない。

 色とりどりのチューリップの花壇に沿って走れば、5分程度で着くはずで……

 と、むこうに赤いドレスがちらっと見えた。


「あ、エリザだ!」


「ぅおんっ」

【良かったですねww】


「サクラも一緒だ! めずらしいなー!」


「ぅおんっ!」

【途中で、出会ったのかもしれませんねw】


 これまためずらしいことに、サクラとエリザは、道端に立ち止まったまま熱心に話しこんでいる。

 俺には、気づいてないみたいだな。


「よっし、チロル! こっそり、ふたりに追い付いて、ビックリさせるぞ!」


「ぅおんっ」


「サプライズで雰囲気をよくする! それからシッカリ謝る! どう、この作戦?」


「ぅおんっ」

【サプライズなら、普通はプレゼントでは?】


「うううっ…… それは、金欠だからさ……」


「ぅおんっ」

【wwww】


 俺は、なるべく足音をたてないように気をつけて、エリザとサクラの背後に回った。

 まだ、気づかれてないぞ。

 さて ――

 どうやって、驚かそうかなー!?

 アニメみたいに 「わっ☆」 って、背中にタッチするかな?

 それとも、後ろから目隠し……は、ふたり同時にはできないか。

 ほかには……


 ワクワクと驚かせる方法を考えている俺の耳に、ふと、ふたりの会話が、飛び込んできた。


「じゃ、あの子には、逆ハー狙ってもらうということで。決まりですわね!」


「わたしも、できる限りサポートしますね、エリザさん」



 ―― へ……!?

 なんだか、ふたりして、トンデモナイことを言っていているような……?


 『あの子』 って、誰?

 やっぱり……俺、かなぁ? ……って。


 俺!? 逆ハーレムぎゃくハー!?


「えええええええっ!?」


「きゃっ…… ビックリしました」


「ヴェリノ! 急に、なんなの!? ビックリするじゃない!」


「うううう…… ちが、いや…… ちがわないけど、ちがうんだ、って……!」


 ああああ……

 もっと、オシャレでオモロイ驚かせかたをしてみたかっただけの、俺だったのにぃぃぃ!

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