「俺が逆ハーって、どういうこと!?
その前に、昨日は置いて帰っちゃってゴメン、エリザ! お詫びに、なんでも 「だったら、逆
「えええええええっ!」
「おーほほほほほ! だから言ったでしょ? 『なんでも言うこときく』 なんて、言うものじゃなくってよ!」
「エリザーー! やっぱり親切ぅ!」
「ばっ…… べっ、別にぃ!? ええい、腕に取りつくのはおよしっ」
こんな俺とエリザを、サクラはニコニコと見守っている。
「―― じゃ、学校に行きましょうか。わたし、エリザさんとヴェリノさんと登校するの、楽しみだったんです」
「俺も、俺も!」
「あ、あたくしはっ、別にっ…… そこまで楽しみだったわけでは、なくってよ!」
エリザ、いつのまにか扇で全顔を隠してる…… じつは、めちゃくちゃ楽しみだったんじゃ?
学校に向かう道で、エリザとサクラは 『逆ハーレム』 について、俺に丁寧に説明してくれた。
ふたりとも、もしかして…… やる気満々なの?
「つまり、逆
「実害って…… ほっぺにチューとか廊下の隅で壁ドンとかされること、だよね?」
「ほかに、なにがあって?」
「いや……」
なら、やっぱり有難いかもな、逆
「でもなあ…… なんっていうか、人としてなあ……」
迷う俺に、サクラが追い討ちをかける。
「おそらく、逆ハーレム成功の場合、ラストは、NPCの全員による同時プロポーズ…… ひとりだけから濃いいプロポーズを受けたり、甘々な結婚式よりはマシではないかと思いますよ、ヴェリノさん」
「濃いって言っても、全年齢対象だし、大したことないんだろう?」
「プロポーズされる人数が、1人だけの時は、手にキスしてもらうんですよ」
「うげえ…… たしかに、それはやだ!」
「ふっ、なら決まりじゃなくて!?」
エリザがドヤ顔で決めつけ、サクラがうんうん、とうなずく。
けど、そんな簡単に 『決まり』 だなんて!
「ちなみに、逆
「うわさですけど、3人以上からプロポーズを受ける場合には、同時に花を捧げられるだけだそうですよ」
「えっ…… 2人じゃダメなの? どうして?」
対象2人でも、逆ハーレムだよね? だって3人以上なんて、ハードル高すぎるよ!?
2人でも花束贈呈だけで、いいんじゃない?
―― という俺の希望は、エリザのツッコミによって、あっけなく、つぶされてしまった。
エリザは、腕組みをし胸をばいーんと張って、こう言い放ったのだ。
「ばかね! ヴェリノ、あなたの手は左右2つ、あるじゃない!」
「はあ!?」
「つまり、2人の場合のプロポーズは、両側からひざまずいて同時に手キス、になるんですね」
「うげぇっ」
「それはそれで美味しいですけど…… ねらってみましょうか、ヴェリノさん?」
サクラにいい笑顔でたずねられて、俺はついに覚悟を決めた。
「わかった…… 全員攻略で、オネガイシマス……」
エリザとサクラが 「やったわね!」 「やりましたね!」 と手を取りあって、喜んでいる……
タイプの違う美少女ふたりが仲いいのって、見てて、ほんと和むよね!
中身は海千山千の2周目プレイヤーで、けっこうこわい気も、するけどね。
「ふふふ、ヴェリノ。複数攻略だからといって、心配することは、なくってよ!」
「わたしたちも、アドバイスとサポートはしっかりさせていただきますから」
「うん…… アリガトウゴザイマス」
まあ、エリザとサクラが楽しんでくれるなら、やってみるのもいっか…… 友だちだしな……
それに、俺にも 『イチャイチャラブラブの手キス回避』 ってメリットが、あるわけだし……
―― って、なんかあんまり、心の底から思えない!
「エリザとサクラは、いいの? 誰か好きな男子、いるんじゃないの? 俺が攻略しちゃったら、恋愛できないよ?」
「ふっ、そんなもの」
「
てへっ
サクラが冗談ぽく笑ってみせ、エリザはビシッと扇の先を俺につきつける。
「恨むなら、あなたの才能を恨んでちょうだい!」
「才能? なんの?」
「わたし、ヴェリノさんは攻略キャラを無自覚に
「ぅおんっ」
【つまりは 『天然タラシ』 ということですねww】
「サクラ…… チロルまで!」
「ぅおんっ」
【wwww】
学校の白く大きい門が、見えてきた。
この門をくぐれば、新たな攻略フェイズ…… やるしかない…… のか? 本当に?
俺はふたりの友だちに、念押しせずにはいられなかった。
「エリザもサクラも…… ほんとうに、俺に逆
「ええ」
「もちろんですよ、ヴェリノさん」
「そのせいで、俺のこと嫌いになったりしない? 俺、エリザからもサクラからも、嫌われたりしたくないんだけど」
「ええい! しつこいわね!?」
エリザがバサッと扇をひろげ、口もとを隠した。
目がマジだ……
「このあたくしが、やれ、と言ったのよ!? それでヴェリノがやったからといって、嫌いになるわけがないでしょう!」
「そうですよ、ヴェリノさん」
サクラがニコニコとフォローしてくれる。
「むしろ、好きになると思います」
「……ほんと?」
「はい。だって、エリザさんとわたしの希望をかなえるために、1周かけて、がんばってくれる友だちですよ?」
「あっ、そうか……!」
「そうよ! そんな友だちを嫌いになるなんて、悪役令嬢にあるまじき行いですわ!」
「悪役令嬢、めちゃくちゃいい人だな!?」
「そそそそ、そんなわけ、ないでしょうっ!」
エリザが扇で全顔を隠す…… 耳が、真っ赤だな。
なんか、元気がでてきた!
―― いくら濃いイチャイチャラブラブを避けるためとはいえ、逆
うん、がんばれる!
「わかった、俺、やるよ!」
「エリザさん!」
「やったわね!」
サクラとエリザ、また、ハイタッチして喜んでる ――
俺たちは、今後の方針を話し合いながら、学校の門をとおりぬけた。
サクラとエリザが言うには、俺はとにかく、いままでどおり自然にしておけばいいらしい。
「自信を持ってください。ヴェリノさんは、まれに見る逸材ですから」
「そうよ、ヴェリノ! あとは、あたくしたちに任せてちょうだい!」
「頑張りましょうね、エリザさん」
「ふんっ…… 言われるまでも、なくってよ!」
サクラとエリザが仲良く楽しそうにしてくれてると、俺も嬉しくなってくるなあ……!
―― 逆
逆ハーレムでイチャイチャラブラブが薄まる、ってことは、つまりは 『恋愛感情も薄まる』 ってことだよね?
さらに、俺はいままでどおりにしてればいい、ってことだから、つまり。
俺がいま、やりたいこと 『みんなで楽しくワイワイ遊ぶ!』 を、押し進めればいいだけだよね?
てことは ――
まずは、明後日に迫った学園祭の準備を、みんなでめいいっぱい、ワイワイ楽しめばいいだけだよね?
けっこう楽勝じゃん!
「じゃ、はりきって学園祭の準備だな! いこっ!」
始業の鐘がひびくなか ――
俺は、エリザとサクラの背中を押して、走りだしたのだった。